お昼休みは休み時間です
昼休みとは、文字通り休むべき時間である。これが私の考えだ。さっきまでお前寝てただろうが!という意見は聞き入れない。人間に必要なのは睡眠だろう。よく眠ればここぞという時の集中力も増すし、グングン成長する。
私の睡眠時間が効果を表したのは、年頃になってきてからだ。肌はつやつやで健康的、そして身長は平均より少し高い。さらに、女子として自慢できるのは胸もそれなり以上にあるということだ!前世ではぺたんこだったのでかなり嬉しい。やはり、睡眠って大事よ…。
私は自分の考えに浸りながら、中庭のベンチに軽く横になる。令嬢がはしたない真似をするんじゃないと、世間様から言われそうだが気にしない。携帯用ブランケットをいそいそと準備して、私はくつろぐ。
ちなみに、ご飯は先程既に済ましてある。食後すぐに横になるのは良くないと聞くので、この時ばかりはソファーにもたれるようにして座っていた。どのみち、行儀は宜しくない。
「あ~幸せだわ…。平和とはこのことねぇ…学園生活なんて窮屈かと思ったけど…意外と快適だわ」
この花園学園の中等部卒業でゲームは一段落するはずだった。前世で言うところの東京的な大都市、帝都にあるこのエリート学校で、ヒロインと美少年との恋がハッピーエンドを迎えるわけだ。
ところが、悪役令嬢である私が一向に悪役として働かなかったために、物語は奇妙なことに高等部でも続いているようだ。
今のところ、私は4人の攻略対象と出会っている。ゲームをしていた頃はときめきの対象だったが、実際に自分が恋愛するのはハードルが高い。そもそも、ヒロイン役でもないし。今や、この世界ではのんびりまったり過ごすことが私の希望だ。
いずれは睡眠の素晴らしさを布教せねば、という謎の使命感も抱き始めるくらいである。
私が熱い想いに燃えていると、後ろから腕が伸びてきて、誰かが私の首元に抱きついてきた。
「ひえっ、うぐ…」
苦しい。しかし、最近慣れた衝撃でもある。こうして突撃されるのは初めてではない。
「今日も寝てんの?俺も一緒に寝よっかな」
そう言って爽やかに笑うのは、同じ高等部1年の男子生徒。桜庭流星、攻略対象者だ。
彼はフレンドリー過ぎる。海外の血は引いておらず、純日本人というから驚きだ。日本人ってもっと奥ゆかしき国民だったはず…。
「あのー、鬱陶しいので離してくれません?」
「えー、だって織花いい匂いするし!」
返事が返事じゃない。くっ、流星め…!変なことを言って私を油断させる気だな!何だかんだ口達者な彼に付き合っていたら疲れる。こうなったら必殺技を繰り出すしかない。
「膝枕するので今すぐお黙りやがれ下さいー」
「やった!…でも、何か言葉の端々に隠しきれない闇を感じた!」
そこはスルーでお願いしまっす!
膝枕をすると彼は大人しく眠る。これはゲーム知識によるものだ。普段明るく振舞っているが、そんな自分に疲れてもいる彼は安らぎを求めている…という設定だっただろうか。何にせよ、膝枕くらいなら別に攻略とかにならないだろう。
何より、微睡みの時間は私にとっても癒しとなる。膝の上の重みなど、犬が1匹乗っていると暗示すれば問題ない。
それから私達は静かな時間を過ごした。
起こしてくれる人もいないので、午後の授業に2人揃って遅刻したのは余談である。