これが通常運転ですが何か?
「……ね………ふじ………藤峰さんっ」
ふぁ。欠伸をしながら目を覚ますと、教室の黒板を前に担任教師が震えていた。教師はゴクリと息を飲んで、私に問いかける。
「…ここの答えは分かるかな?」
「…はい…?えっと、その条約は正確にはまだ受理されていないので…。他は…選択肢で帝都で締結、と書かれているものは引っ掛けですね…。帝都では親睦パーティが開かれて友好条約が結ばれただけです。つまり、正解はBです」
ぼんやりしつつも、問題に真剣に取り組んだ。私だってやれば出来るのだ。いつもぼんやりしていると思われては困る。
私が内心ドヤ顔を浮かべていると、反対に教師がズシャッと地に膝をついた。両手で顔を覆って苦しんでいる。一体何事か、と思うような事態だが、教室は生暖かい雰囲気に包まれていた。
「ううっ、何故なんだ!あんなに熟睡しておいて!答えがいつも的確だし!僕よりも分かりやすい解説ってどういうことなんだ!」
教師が情けなく取り乱す中、生徒達も既に慣れた様子で慰めに入る。もはや、どちらが大人か分からない始末である。
「まぁまぁ、先生落ち着いて下さいな。仕方ないです、何たって相手は伝説の令嬢ですわよ!」
「そうそう、見た目は可愛いのに色々と残念な!」
「入学式では、あのイケメン生徒会長の挨拶中ですら爆睡!」
「初めての校外授業では、公園のベンチで終始爆睡!」
…すごい。生徒の団結力が。そして、私は…皆によってたかって酷いことを言われている。残念なって…本人を前にして遠慮がなさすぎなんじゃないのかしら…。
爆睡については何も言わない。だって、本当のことだから。私の生活は一に睡眠、二に睡眠、三に睡眠以下略である。
幼いあの日、自分が悪役として生まれ変わったことに気付いたが、私はその設定を完全無視している。おかげで、この学校での私への評価は悪役令嬢ではない。「残念系眠り姫」と呼ばれているらしい。…何だか素直に喜べない。
「…というわけですし!先生は精一杯頑張ってますから!」
「私達、先生が教えてくれて良かったと思っていますわ」
生徒のフォローもまとめに突入したようだ。教卓の前で崩れ落ちていた教師がよろよろと立ち上がる。気のせいか涙目だ。
え、何この居心地の悪さ。私が先生を虐めてるみたいなんですけど!
確かに授業中寝てるのは申し訳ないけど、眠いものは眠い。でも、ちゃんと授業についていけるよう勉強は怠っていない。時々目覚めた時にノート取ってるし!
私が罪悪感に襲われている中、教師が震え声でこう言った。
「皆…ありがとう…。時間も時間だし、今日はここまでにしよう」
時間というものの、授業が終わるまでまだ余裕はある。要するに、教師が限界だということだ。彼の打たれ弱さを知っている生徒達は誰も文句を言わなかった。
こうして、授業は早めに終わりお昼ご飯の時間になった。