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非武装少女クララちゃん4 ~拾った責任はサイゴまで~

作者:小林晴幸
以前に書いた短編シリーズの続編になります。
バレンタインにかこつけて書こうとしたところ、何故かこうなりました。
世界観的に、食べ物の分類は草か肉かの極端な二択。菓子など存在しない!
野性の王国で食べ物の受け渡しはどうやら時に命の危険を呼び寄せるようです。



 この世に悪をもたらし、世界を滅ぼす。
 それをこそ使命としてこの世に生まれた。
 歴代の『悪』……その化身が積み上げてきた知識をこの新しい肉体に宿して。
 先代の悪が滅びると同時に、この世に生を受けた我が身。
 人間どもを阿鼻叫喚の渦に叩き込み、絶望させ、種を根絶させるために生まれてきた。
 何物にも屈さず、使命を果たすために……私はいつか絶望を体現する巨大な『悪』として起たねばならない。


 だがしかし、とてもではないが無視のできない問題が、ひとつ。


「クララぁ、どう? どう? 草ってうまいの?」
「うむ、美味なり。この青々と繁る緑……自然の賜物こそ、何よりの甘露」
「うーん、そっかなぁ? 俺が食おうとしても、なんかにがいとしか」
「ピョートルよ、そなたにはわからぬだろうよ。子供にはわからぬオトナの味よ……フッ哀れな」
「クララ、そんな目で見ないでくれよ。俺だって…………いつか、クララみたいに草の味がわかる(おとこ)になってみせる!」
「無理であろうよ。そなたは肉食だからな」
「えー」
 赤子の頃から我が育て、懐かせることに成功した豹の子が私にぐいぐいと身を摺り寄せてくる。
 止めよ。お前、まだ子供のくせに私より図体でかくなっただろ……!
 転ぶ転ぶ、転ぶからヤメロ。
「クララぁ、俺いつか、絶対にクララが気に入るような立派な雄になってみせるよ! オカピの!」
「無理だ。生まれ変わって出直してこねば、無理だ」
 豹の子はオカピにはなれないんだよ、ピョートル……。

 そう、当代の『悪』たる私には、世界を滅ぼすという野望を阻む問題がひとつ。

 それは、私が『オカピ』に生まれたことだ。


【オカピ】
  鯨偶蹄目キリン科の哺乳動物。
  足の縞模様が美しく、森の貴婦人などと呼ばれる。
  頭胴長1.9-2.5m 肩高1.5-2.0m 体重200-250kg
  体型的にはウマに似ている。





 世界を滅ぼす。
 その為に必要な物事はあれやこれやと多くあることだろうが……
 オカピに生まれてしまったことで、私はその『必要な物事』が他の誰よりも多くなってしまったような気がしてならぬ。
 というかこの草食系の肉体でどうやったら世界を滅ぼせるのか、私自身が全くもって見当もつかぬ。
 役に立つかと、我より確実に戦闘力が高く育つであろう豹の子(ピョートル)を下僕として仕立て上げるべく育て始めたは良いが……。

 私は悪の化身、オカピのクララ。
 だが私が悪として起つ日は……まだまだ遠い。
 何しろ目途すら立っておらぬのだから。



 (未来の)我が一の下僕、豹のピョートル。
 ゆくゆくは私に絶対忠実な軍事担当として育て上げる予定ではあるが、まだまだ奴は乳臭い子供だ。
 ……既に(オカピ)より図体が大きく育っておるがな。
 どうやら規格外の化け物であった母御に似たらしい。
 この分であれば母親のように巨大なお化け豹へと育つであろう。
 生育状況は順調、順調……しかし奴はまだ自力で糧を得ることが出来ぬ。
 よって必然的に、奴を育てる立場の私が奴の餌を調達してやらねばならんのだが……
 オカピは草食だ。
 もう一度いおう。オカピは、草食だ。
 そんな私が肉食動物(ピョートル)の餌なんぞ自力で調達できるはずもない。
 よってハゲワシよろしく別の獣が食い荒らした後の死肉漁りを推奨しておるのだが。

「ぐぁるるるぉるぉるぉ……!」
「な、なんだ貴様! 私と()りあうつもりか!?」

 たまに、タイミングを間違えて絶体絶命の危機に陥ることがある。
 それはな、うむ……獣を狩るような奴なら間違いなく肉食だものな。
 そして私は草食だ。オカピだ。
 つまり死肉を分けてくれる者どもにとって、私は餌だ。
 うむ、出ていくタイミングを間違えた。
 お相手が満腹になっておれば、(オカピ)がその辺をふらふらしておっても気にせんかったかもしれんが……まだ空腹のようですな。
 私は傍らで向けられた殺気に怯えてか、ぶるぶると震えるピョートルに切羽詰まって声をかけた。

「ピョートル、逃げよ!」
「クララ!?」

 そして私も逃げる。
 そのつもりでピョートルに逃亡を促したのだが。
 何を思ったのだろうな?
 もしや、私がピョートルを逃がすために残って戦うとでも思ったのか?
 馬鹿な、有り得ないから。
 私は草食動物。戦うなんてとてもとても……逃げるだけで精いっぱいです! そしてそれが私の野生の処世術。
 だけど根っからの肉食野郎は保護者が脱兎よろしく逃げるという発想が浮かばなかったらしい。
 そりゃあな、奴にとって本来の保護者である母御は巨大な化け物豹だったものな。
 今までピョートルが危機に瀕した際には、さぞかし勇敢に力強く、圧倒的戦闘力によって戦って戦って戦い抜いて勝利を勝ち得たことであろう。
 だがな、ピョートル。
 私にそなたの母御の真似は無理だ。
 だから最初から、毛頭やるつもりはない。
 しかし奴の勘違いは我の足より速度を持っていたらしい。
「守られてばかりなんて、嫌だ……! クララは、俺が守るんだぁ!」
 うむ、その勇敢さ。
 身を張って我を守らんとする健気さ。
 それでこそ我が忠実なる下僕!
 しかしそなたまだ赤ちゃんだから! 戦おうとか無茶だろう!?
 相手はハイエナがひーふーみー……うん? 八頭?

 無理するな、ピョートル。
 よいから逃げるぞ。

 私がそう声をかけるより早く。
 ピョートルはハイエナの群れに飛び掛かっていた。
 これ下手をするとピョートルまで餌にされてしまうぞ。
 そんな、今まで手塩にかけて育ててきた我が手間暇が!
「ピョートルぅ!!」
 私の口からは、情けない悲鳴が響いていた。

 ……が、私の心配は杞憂であった。

 あやつ、ハイエナの群れに完勝しおった。

 私、愕然。
 ピョートルよ……そなた、まだ赤ちゃんの癖に強すぎであろう…………?
 どうやら我が下僕は、しっかり母御の戦闘力も受け継いでおったらしい。
 うむ、頼もしいことよ。
 頼もしすぎるので……頼むから、肉食の本能を我に向けてはくれるなよ?
 私に絶対忠実な下僕として育てる。
 それは肉食獣相手に、勝算の低い賭け。
 今のところ概ね順調ではあるが……いつか食欲を向けられたとき、逃げ切れる自信がさらさらと擦り切れていった。
 あいつ、今の段階で絶対に私より足速い。

 もしかしたら少し距離を置いた方が良いのか、と。
 そう思い悩んで幾年月。

 ……我が心配こそ杞憂というものであったと。
 それを知ったのは、(ピョートル)が食欲ではなく別の本能を向けてきてからだった。

 うむ、ピョートルよ?
 獲物(ウサギ)なんぞ貢がれても、我はそなたの求愛に応えはせんからな?
 だって私、草食なんだもん。


 私が死んだ獣は絶対に受け取らないと、奴が学習した三日後のこと。
 ピョートルが親を亡くしたクリップスプリンガーの子を生きたまま連れてきたのは、そんな経緯を経てのことであった。

【クリップスプリンガー】
  偶蹄目ウシ科クリップスプリンガー属。別名イワトビカモシカ。
  岩と岩の間を飛び跳ねるように移動する夜行性の草食動物。
  体長75-90cm。肩高40-60cm。体重8-18kg。オスよりもメスの方が大型となる。
  四肢は短く頑丈で、蹄の構造により狭い足場でも直立することが出来る。

「クララの友達に、どうかな」
「こ、こんにちは……(びくびくびくびく)」
「ふむ。クリップスプリンガーか……確か足場の悪い岩場を得意とする種であったな。怯えが目立つが、巨豹に連れてこられれば致し方なし、か。そなた、名は?」
「あ、アレクサンドロス……(びくびくびくびく)」
「予想外に立派な名だな。()の子か」
「う、うん。そうだけど……(きょとん)」
「って、雄かお前!?」
「えっ雌だと思われてたの!?」
「連れてきておいてお前が驚くのか、ピョートル!」
「だってこんな弱々しくって大人しい奴、雌だって思うじゃん! だからクララのお土産にしたのに!」
「なんでもそなたの基準で考えるではない! 雌雄関係なく、個々の性格はそれぞれであろうが」
「あ、あうぅ……僕、どうしたら」
「ピョートル?」
「……捨ててきちゃダメか?」
「そなたが拾ったのであろう! 拾ったからには最後まで面倒を見よ。無責任な」
「えっじゃあクララは俺のこと、最後まで面倒見てくれるのか!?」
「当たり前であろうが」
 何しろそなたは、私が世界に悪として起つための、重要な下僕(戦闘担当)であるからな!
 勿論、最後まで面倒を見るに決まっておる。
 深々とピョートルの言葉に頷くと、何故か奴は上機嫌になりおった。

 その後、一応アレクサンドロスにも意思確認をしてみたのだが、肉食獣(ピョートル)のニオイを付けられてはクリップスプリンガーとして生きられぬとのこと。
 仕方がないので、我々と行動を共にしてもらうこととなった。
 ……好機だ。
 今まで一対一で関わっておったからこそ、ピョートルも血迷ったのであろう。きっと。
 アレクサンドロスを加えることで関わる相手が増えれば、おそらくピョートルの興味は分散され、迷いも晴れるはず。
 晴れた結果、襲われては堪らんがな。食欲的な意味で。
 しかしその場合も、襲われるのは私よりもまずアレクサンドロスの方であろう。
 私は、アレクサンドロスが追いかけられている内に逃げる……!
 気の迷いが晴れる前に、我慢できずにアレクサンドロスを食ってしまう可能性もなくはないがな!

 ピョートルが私に食欲を向けたことは、今までない。
 その鉄壁の理性でどうにか仲良くやっていければ良いのだが。

 後にアレクサンドロスがピョートルとのおふざけ追いかけっこによって鍛えた俊足と、その穏やかな気風でどこにでも潜り込めるという特技を開花させること。
 そしていつしか「どこからともなく吹き込んでくる隙間風のアレクサンドロス」と呼ばれ、ピョートルと双璧をなす我が配下となろうとは。
 弱々しい子クリップスプリンガーのアレクサンドロスと出会ったばかりの私は、思いもしなかったのである。



 クララちゃんの四天王
  豹のピョートル
  クリップスプリンガーのアレクサンドロス

 あとバビルサのマダムとか考えているのですが、残りの一匹がなかなか決まりません。
 候補はクリオネか亀です。



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