第97話 コーヒールンバ
夜も開けきらぬうちからオレ達はダンジョンに来ていた。昨晩はオレの祝勝会でバカ騒ぎをしたから、さすがにみんな眠そうだった。とくにリオとセナの異世界コンビはまだ酒が残っていそうだった。これはちょっとまずいな。みんなの眠気を覚まさないと事故が起きるかもしれない。オレ達にとっての事故は死につながる。オレはアイテムボックスから瓶とコップを取り出した。
「みんな。これでも飲んで眠気を覚まして。」
コップに瓶の中身を注いでみんなに配った。
「これは?もしかしてあれ?」
「うん。コーヒーよ。こっちではカッヘて呼ばれてるわ。昨日、セナと行ったお店で見つけて、淹れたてを瓶に入れてもらったの。」
注がれたコップを見てサオリが聞いた。その中身は黒々としていていい香りを放っていた。
「これ、カッヘて言うんだ。良い匂いするね。」
匂いを嗅ぎながらリオが言った。
「美味しいから飲んでみな。」
サオリがリオに勧めた。
「うわ。苦い。」
恐る恐る飲んだリオが顔をしかめた。
「お子様にはまだ無理かしら。」
サオリがカッヘを飲みながら笑った。
「あー。リオ。ミルクと砂糖を入れないと美味しくならないわよ。アメリ。出して。」
セナがリオとオレに言った。セナは大人の飲み物を昨日既に経験済みだった。
「はい。砂糖とミルク。よく混ぜて飲んでね。」
オレはそれぞれが入った小瓶をリオに渡した。リオはそれぞれたっぷりとコップに入れた。
「あ、甘い。美味しい。」
少し飲んでリオが言った。そりゃあそんなに砂糖を入れたら甘いわな。まあ、お子様にはちょうどいいか。オレはと言うと砂糖なしのミルクたっぷりで飲んだ。さすがにサオリみたいにブラックでは飲めないから、オレもお子様だからね。
コーヒーブレイクで目が覚めたオレ達は改めてダンジョンに挑戦した。サオリのワープで大広間まで進んだ。大広間では大勢のファントムが思い思いにパーティを楽しんでいた。ファントムと戦闘になっても大広間のファントムが全員で襲ってくる事がないのは先日で経験済みだった。リオが踊っているカップルのファントムを切りつけた。二人のカップルを切ったのに現れたのは四匹のファントムだった。目の前で見えているファントムと出現するファントムがあまり関係ないのも先日経験済みだった。ファントムは剣を構えた剣士タイプと魔導士タイプが半々だった。剣士タイプは動きが速いので魔法は当てずらい。
「サンダー!」
前倒しで呪文を唱えていたリオが誰よりも早く魔法を発動した。リオのサンダーは敵のファントムではなく自らの剣に放っていた。電気を帯びた剣が発光する。ライトセー〇ーか。ライトセーバ〇でファントム剣士を切りつけたリオはその勢いのまま後ろの呪文を詠唱中のファントム魔導士へと向かった。魔法使いから潰していくのは戦闘のセオリーである。
「ファイアー!」
同じく前倒しで呪文を唱えていたオレが剣を魔法で燃やす。紅蓮の炎をまとった剣でオレは残りのファントム剣士を切り、同じくファントム魔導士へと向かった。
「「サンダービーム!」」
残り二匹の魔導士ファントムはサオリとセナがほぼ同時に放ったサンダービームで倒れた。
「リオ。その技。かっこいいじゃん。なんて技?」
「そうね。名付けてサンダーソードかしら。」
オレの問いにリオはベタな名前で返した。
「フレンドリーファイアを避けるためにもリオやオレみたいに魔法剣で攻撃しようよ。味方のサンダービームでやられるのは勘弁だし。」
「そうね。わたし達は全員魔法剣士だもんね。賛成。」
オレの提案にサオリが賛同した。
「いや。わたしはたしか賢者の卵のはず。」
「賢者でも剣で攻撃しないとだめよ。」
若干一名が不服そうだったが脳筋剣士リオに押し切られた。
「そういうわけで次から全員魔法剣で行くよ。じゃあ、リオ。お願い。」
オレは先の言葉をみんなに後の言葉はリオに指示した。
「おう。」
リオは答えると、近くの、パーティの護衛の剣士らしきファントムを切りつけた。
四匹の剣士型ファントムが現れた。先頭のファントムがいきなりリオに切りつけた。リオが剣で受け止める。
「ライトソード!」
真っ先に呪文を唱え終わったサオリが目の前のファントム剣士を切った。
「ライトサーベル!」
次に呪文を唱え終わったオレが目の前の敵を切った。
「「サンダーソード!」」
ほぼ同時に呪文を唱え終わったリオとセナがそれぞれの相対する敵を切った。
剣士タイプのファントムは剣の腕自体はたいした事はない。魔法剣を唱えたオレ達の敵ではない。魔法さえ唱えれば楽勝で切れる。
「なんだよ。みんなしてわたしの真似して。」
「いや。オレのはライトサーベルだし。」
「わたしのはライトソードよ。」
真似されたリオが不満の声を発した。それにオレとサオリが答えた。
「名前を替えただけじゃん。だいたいなんで、サンダーでなくてライトなの?」
「それはねえ・・・」
オレは前世界で観た超有名な映画の事を説明した。映画と言ってもピンとこないのでお芝居って事にしたが、そこで使われる剣がリオの使ったサンダーソードにそっくりである事を。
「ふーん。わたしのサンダーソードがそんなにかっこいいんだ。でも、ややこしいからサンダーソードに統一ね。」
リオがどや顔でみんなを仕切った。
そんなわけでオレ達はサンダーソードで切りまくって大広間を進んだ。大広間の端に階段があったが下に行く階段は扉が閉まっていた。オレのエクスプロージョンなら扉の破壊も簡単だがダンジョンその物を破壊しかねないのでみんなに止められた。それで素直に階段を上った。
階段を上がるとそこはなんと草原だった。
「え?ここって古城の中よね。」
サオリがビックリして声をあげる。
「わからないけど。下の階のファントム達みたいにビジョンなのか、それともオレのアイテムボックスみたいに異次元につながってるのかな?」
オレが周りを見渡して言うと、
「とにかく先に進もうよ。」
何にも考えてないリオが進行を促す。
「アメリ。大丈夫?」
慎重派のセナがオレに聞いてきた。
「うん。今のところ潜んでる魔物も罠もないよ。」
オレは鑑定を使って辺りを探索した。
「じゃあ。リオ気をつけて。行ってよ。」
オレは先頭のリオに声をかけた。
「おう。」
そう答えてリオは草原を進んだ。
しばらく進むとリオがいきなりホーンラビットのファントムに囲まれた。
「ちい。オレの鑑定が反応しなかった。どうなってんだ。」
オレは慌てて呪文を詠唱しながらリオの応援に向かう。
その前にファントムホーンの風魔法がリオを襲った。
風の刃がリオを切り裂いた。リオの服やズボンがさける。
「リオー!」
オレの声が草原に響く。
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