第94話 VSリオ
「それじゃあ。わしが審判をやらせてもらいますわ。アメリさん対リオさんですか。武闘派同志の戦いですな。これは似たようなタイプどうし、どっちが強いのか、楽しみですな。」
エイハブが審判を引き受けた。エイハブはオレとリオを向かい合うように並ばせた。
「船長。剣とかは置いてきたほうがいいよ。誰かさんは審判まで道具として使うからね。」
サオリの忠告でエイハブは腰の剣を外してサオリに預けた。サオリめ、余計な事を。これでエイハブを避雷針にしてサンダーを避ける事ができなくなった。しかたない、ここはオーソドックスにサンダー突きで行くか。サンダービームで体勢が崩れたところをとどめの突き(右ストレート)で一閃するオレの必殺技だ。最初の魔法はファイアーボールでもウィンドカッターでもなんでもいいが、それだとリオに魔法を避けられる可能性があるので、ここはサンダービーム一択だな。雷は縮地を使っても避けれないからな。
オレは呪文を唱え始めた。もちろん、心の中で。そうしてるうちに。
「それでは、礼。」
オレとリオはエイハブの掛け声で一礼をした。
「よし。始め!」
「サンダービーム!」
エイハブの開始の合図とともにオレのサンダーがあっけないほど簡単にリオに炸裂した。
「そして、突き!」
そのまま、走りこんでリオに突き(右ストレート)を撃った。これで、リオはKOだと思った瞬間、オレの右こぶしは空を切った。代わりにリオの右こぶしがカウンターでオレを襲った。リオに比べて軽量のオレは簡単に殴り飛ばされた。
まずい。意識が飛ぶ。
オレは後方に5メートルは飛ばされた。
「ワン。 ツー。 スリー。・・・」
エイハブのカウントがゆっくりと始まった。良かった。前もって、ボクシングのように10カウント制を提案しといて、でなかったら今ので完全に一本負けだ。10カウントの間、オレは飛びそうになる意識を必死でつなぎ止め、体のチェックをする。顎に強烈な痛みはするが、骨には異常はないな。なら、回復魔法はいらないな。しかし、足に来てるだろうから、もう縮地は使えないな。回復魔法がいらないなら、次の魔法だ。オレは再び呪文を唱え始めた。
「どうして、サンダー突きをしたアメリが逆にやられたの?」
セナがサオリに聞いている。
「うん。それはね。リオが自らの体にサンダーを流して魔物を攻撃してるのをセナも何度も見てるでしょ。リオにはサンダーやファイアーなどの初歩魔法は全く効かないって事よ。サンダーが効かない以上、アメリのサンダー突きはただの突き攻撃よ。しかも顔面に来るってわかってるパンチは簡単によけれるわ。知っててこれをやったなら凄いけど、リオの場合はたぶん天然ね。」
「・・・シックス。 セブン。 エイト。」
カウント8でオレは立ち上がった。
「さすがリオね。リオ!チャンスよ。アメリはボロボロよ。」
セナが最初の言葉をサオリに言って、次にリオに声援を送った。
「アメリー!頑張ってー!まだまだこれからよ!」
それに対してサオリがオレに声援を送ってくれた。サオリ、良いやつ。判官びいきか、同郷のよしみか。いずれにしても、後でなんかおごってやろ。
「あんたにいくらかけてると思ってんのよー!」
・・・。こ、こいつらは。オレとリオの真剣勝負に賭けてるんかい。
「アメリさん。まだやれるかい?」
エイハブの問いかけにオレは大きくうなずいた。
「アメリ。この勝負もらったよ。借りは返してもらうからね。」
リオめ。オレに一発返せて、ご機嫌だな。くそ!くそ!ふん。見てろよ。
「それでは、ファイト!」
エイハブの掛け声とともにリオが突進してくる。とどめとばかりに来た右ストレートを右にかわすとオレは魔法を発動した。
「サンドストーム!」
オレとリオを中心にして砂嵐が巻き起こる。ここは乾いた砂浜だ。乾いた砂はなんぼでもある。土魔法で砂を巻き上げ、風魔法でそれをまき散らす。土魔法と風魔法の複合技だ。砂がもうもうと上がりほぼ視界はゼロになった。
「うわー!なにこれ?何にも見えないよ。」
リオが慌てだした。リオ達の前でお披露目したのは、今回が初めてのオレのオリジナル魔法だからな、無理もあるまい。
「やるじゃない。アメリ。普通ならこれで、大逆転ってところだけれど、残念ながらこのリオ様にはこんなもの通用しないよ。うっすら見えるんだよ。そこだ!」
リオが目の前の影に渾身の右ストレートを放った。リオの渾身の右ストレートを受けてオレの頭は文字道理吹っ飛んだ。
「なにー?」
しかし、驚嘆の声をあげたのはリオだった。
戸惑うリオにオレの渾身の右ストレートがカウンターで入った。今度はリオが吹っ飛ぶ番だ。リオも5メートルは吹っ飛んだ。
「ワン。 ツー。 スリー。・・・」
「何々?どうなってんの?」
エイハブのカウントの間にセナがサオリに聞いている。
「うん。これはわたしにもよく見えなくてわからなかったけど。たぶん、砂嵐の最中にアメリは砂で自分の分身を作ってたんだと思うわ。砂の分身なんて見破るのは普通簡単だけど、あの視界の悪さだからね。リオが自信満々で突くのに合わせて、隠れてたアメリがカウンターの右ストレートを放ったってところね。まあ、これで勝負は五分五分になったわ。面白くなってきたじゃない。」
サオリの解説の間にリオが立った。
「リオさん。大丈夫?無理しなくていいんだよ。」
エイハブが聞いた。
「大丈夫。やる。」
リオがエイハブの手を振りほどいた。
「それじゃあ、始め!」
エイハブの開始の合図とともにリオが魔法を放つ。
「ウオーターレイン!」
豪雨があたり一面に降り注ぐ、これはこれで視界を奪われるが見えなくなるほどでもない。
「ふーん。リオさんの視界遮断魔法ね。でも、残念ながら、見えるんだけど。」
オレがそう言うと、リオが答える。
「ふん。最初からそんなものは期待してないわよ。足元を見な。」
オレは足元を見た。水がしみ込んだ砂浜はかっちりとしまっていた。
「な、何―。これでは。オレのサンドストームが。なんて言うと思った?甘い、甘いよ。ケーキよりも甘いよ。サンドストーム!」
オレは再びサンドストームの魔法を発動した。
**********************




