第91話 お祈り
宿に帰ると、防具を脱ぐのもそこそこにみんながオレとサオリの部屋に集まってきた。時刻はまだ6時前であった。そろそろ多くの宿泊者が起きる時間とは言え、まだ早朝である。声をひそめてオレを詰問した。
「アメリ。なんで黙ってたのよ。」
サオリが口火を切った。同じ、地球からの転移者、チート能力の持ち主、サオリには神様に聞きたいことがいっぱいある。
「え?サオリには初めて会ったときに言ってるよ。」
サオリはしばらく考えてから思い出したみたいだ。
「あ。そうだった。わたし、あの時アメリに出会えたことがうれしくって、それどころじゃなかったから。それになんか不思議な事がいっぱいあったから、それで聞き流してたみたい。
いや、そんな事はどうでもいいわ。わたしは元の世界に帰れるの?アメリ。神様に聞いてよ。」
「うん。わかった。聞いてみる。」
オレは目をつむって瞑想した。そんな事しなくても考えるだけでマリア様とは交信できるんだけど、なんとなく気分を出したのよ。ちょっとシャーマンみたいじゃない。
『マリアさま。聞こえますか?』
『うん。今、見てるよ。サオリの事だけど、結論から言うとわたしの力では元の世界には戻してあげられないわ。わたしは神は神でも下っ端だからね。でも、安心して元の世界に戻った異世界転移者もいるわ。帰る方法はわたしにもわからないけど。』
サオリが帰れる可能性はあるって事ね。それよりも神様っていっぱいいるんだ。地球みたいに一神教じゃないんだ。
『ああ。地球で言うところの絶対神はこちらでもおられるわ。わたしはその絶対神様の
部下の末端てところよ。あ、サオリが、帰れるかどうか、早く聞きたがってるよ。教えてあげて。』
『わかりました。』
必死でこちらに縋り付いてくるサオリにオレは言う。
「サオリ。マリア様にはできないって。」
「え!」
オレを掴んだ手を放して、落ち込むサオリを見てさすがにかわいそうになった。
「でも、帰った人はいるみたいよ。」
「え!そうなの。」
サオリの表情がまさにパーッと明るくなった。
「それで、どうやって?」
「うん。それはわからないって。」
サオリの表情が一瞬曇った。しかしすぐに持ち直した。サオリは強い子である。
「でも、帰る方法はあるって事ね。」
ニコニコしてベッドに座りなおした。
サオリに代わって、リオとセナが食いついてくる。
「アメリ。わたしも神様に質問があるの。わたしの両親が殺されたときになんで助けてくれなかったんですか?」
セナが泣きながら聞いてきた。セナもオレと一緒で両親を魔物に殺されて辛い思いをしていた。
『それはね。わたし達神はあなた達の世界に基本的に干渉しないの。感心はあるけど無干渉なの。この世界に何人の人間がいると思う。一人一人助けてたらきりがないわ。それに魔物にも魔物の神がいるわ。魔物に対してわたしができる事はないの。』
オレはマリア様の言葉をセナに伝えた。セナは納得できないようであったが、渋々引き下がった。
「セナもつらいかもしれないけど、これがオレ達の運命なんだから仕方ないよ。親無き子どうし、一緒に頑張ろう。」
オレはセナの肩をやさしくたたいた。
最後に満を持してリオが質問する。
「はい。はい。アメリとサオリにはいろいろと凄い能力が授けてあるけど、わたしとセナにはもらえないんですか?」
オレとサオリのチート能力を間近にいつも見ているリオらしい質問だった。それに対してのマリア様の回答は、チート能力はオレとサオリの異世界移転コンビ限定のギフトであり、異世界人であるリオとセナには成長促進の加護を与えていると言う事だった。やはり、オレ達の異常なほどのレベルアップの速さは神の加護だったわけだ。
最後にオレは聞いた。
『オレとサオリの他にも異世界に来た地球人はいるんですか?』
『ああ、いるよ。実際にエイハブもそうでしょ。あなた達みたいなのはイレギュラーな存在だから、わたしも全部は把握してないけど。』
『この異世界の文明を壊したり、いや異世界自体を壊したりするかもしれないのに心配してないんですか?』
『まあ、わたしは基本的に傍観者だからね。好きに暴れたらいいよ。さすがに異世界をぶっ壊すってんのなら、黙ってないけど。そういうわけで、面白い冒険を見せてね。じゃあ、またねー。』
こうして、軽い感じでマリア様との交信は途絶えた。
「ねえ。わたし達っていつも神様に見られてるのよね。下手な事できないじゃん。そんなの息が詰まりそうで嫌だな。」
リオが言った。
「ああ。それ、オレもマリア様に言った事ある。そんな暇じゃないって。だから、大丈夫だから、いつものように悪い事やずるい事しても。」
「なによー。わたしが悪さばっかりしているような言い草。でも、少し安心した。」
「とにかく、感謝のお祈りをしようよ。」
オレ達はマリア様に祈った。
お祈りがひと段落すると、オレは言った。
「この世界にはオレやサオリみたいな異世界(地球人)が他にもいるみたいよ。オレはそういう人たちに会いに行こうと思う。そして、知恵と力を合わせればサオリを異世界(地球)に返す事ができる事ができると思うんだ。」
「アメリ・・・」
サオリが抱き付いてきた。
「サオリはそんなに元の世界に帰りたいの?」
リオが聞いた。
「うん。だって、父さん、母さんもいるんだよ。会いたいよ。」
「ふーん。そうか。サオリは甘えん坊さんだもんね。じゃあ、アメリは?」
「オレ?オレの父さん母さんは村の墓地で眠ってるから、オレはこの地で骨を埋めるよ。地球に帰っても、居場所はないからね。」
「アメリ。一生ついていくよ。」
今度はリオが抱き付いてきた。
「もってもってね。アメリ。わたしも一生じゃないけど、ついていくよ。」
サオリとはがっしりと握手した。
時間は7時を回っていた。オレは魔動時計を見ると言った。
「じゃあ、飯食いに行こうか。」
オレ達は階段を下りて食堂に向った。それにしても、昨日に引き続き全然働いてないじゃないか。働かないと不安になるのはオレの中の日本人としての気質か。とにかく、飯食ってからいろいろ考えよう。
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