第89話 夜襲
チンピラは3人。腰に差した剣以外は武装していないところを見ると、冒険者ではなくて町のごろつきってところか。後ろからつけてきている集団と仲間なのか違うのか、今はわからない。わかるのは前後を挟まれたって事だ。建物があるから、左右には逃げれない。チンピラを無視して後ろの敵?に当ると、もしチンピラが敵だった場合、後ろを取られることになる。いくらA級のオレ達といえど、後ろからずぶりと刺されたら一巻の終わりだ。チンピラには悪いけど、しばらく眠ってもらうか。後ろの本命の敵はオレがやるか。そう考えていると。
「アメリ。後ろはわたしがやるから。前は任せた。」
と、言って、リオが後ろに走り出した。
じゃあ、前のチンピラには文字通り眠ってもらうか。オレは周りに聞こえるように大声で呪文を唱えた。
「スリーピング!」
黒スライムやファントムにまるで効かなかったオレの幻影魔法は、対人間には非常に効果があった。チンピラ達は崩れ落ちるように倒れた。幻影魔法に対する耐性のない素人なら、効果抜群ってところか、オレはすかさず、後ろの敵に当たるために振り向いた。
そこには、剣を握ったまま倒れている五人の盗賊らしき男達がいた。倒れているのは男達だけではなかった。リオも幸せそうな顔をして眠っていた。オレはしばらく固まった。オレの呪文を聞いた全員に効果があるのか。しかし、人間に対して、効果がありすぎる。敵も味方もないなんて。これは対策を考えんと諸刃の剣じゃないか。ノア婆さんに教えてもらいに行かないと。いや、そんな事よりも今はリオだ。リオを起こさないと。
「リオ。起きて。」
「うーん。もう食べれない。」
なかなか起きないリオをオレは平手で思いっきり殴った。
「いた。いったー。」
ようやく目を覚ました。
「やっと、起きたね。リオ。大丈夫?」
「うん。大丈夫だけど。殴られてないはずなのに、なぜかほっぺが痛いよ。」
「それは気のせいだよ。とにかく無事でよかった。」
「いま、何が起こったの?アメリの呪文が聞こえたかと思ったら、いい気持になって・・・。」
「ああ、リオは眠っていたんだよ。こいつらみたいにね。」
オレはリオの周りに横たわる盗賊たちを指し示した。盗賊たちはいびきをかいて眠っていた。
「え?ええー!もしかして新しい魔法?アメリ。いつの間にそんなの覚えたの?」
オレはアーリンとノア婆さんとの一件をリオに話した。
「ふーん。途中でいなくなったと思ったら、そんな事してたんだ。もちろん、わたし達にも教えてもらえるんでしょうね?」
「うん。頼んでみるよ。それより、こいつら、どうする?」
オレは幸せそうに眠る盗賊の一人を軽く蹴っ飛ばした。
「そんな事したら、起きちゃうんじゃないの?」
「大丈夫。大丈夫。少々の事じゃ起きないよ。思いっきり蹴り上げるとかしないとね。」
「それで、わたしのほっぺがヒリヒリするのね。」
リオがオレを睨んだ。
「いや。蹴ってはいないよ。蹴っては。それより、こいつで、縛り付けよう。」
オレはごまかして、アイテムボックスから出したロープをリオに投げた。
「ふん。蹴ってないって事は殴ったね?親父にも殴られたことないのに。」
なんでそのセリフを知っているんだ。
「おかげで起きられたみたいだから、まあいいわ。でも、今度やったら許さんよ。」
「ごめん。ごめん。いくらゆすっても起きないから、つい。」
ぷんぷんに怒ったリオを慰めるためにオレはお菓子を奢らされる事になった。
オレ達は盗賊たちの武器を取り上げると、ロープで縛った。チンピラ達はそのままその場で寝かしておいた。二人して現場を離れると、仲間がまだいた場合に逃げられてしまう可能性があるので、オレは見張りで残り、リオに冒険者ギルドに走ってもらい、人を呼んできてもらい、後の始末は冒険者ギルドに任せた。後日わかった事だが、後ろからつけてきていたのは盗賊団でやはりオレ達二人をさらうつもりだったらしい。チンピラのほうはただの町のごろつきで、オレ達と仲良くしたかっただけらしい。チンピラには悪い事したかな?
宿に帰ると、サオリのワープでサオリとセナは先に帰ってきていた。
「どうしたの?遅かったじゃない。」
サオリが聞いてきたので、オレは路地裏でチンピラと盗賊団に絡まれた事を話した。
「アメリとリオを襲うなんて、バカな盗賊団ね。」
「それが魔法も剣も使えなくて、ちょっとピンチだったんだ。相手の数も多いし。」
「それで、どうしたの?」
セナも興味を持って聞いてきた。
「チンピラも盗賊団もみんな眠らされたのよ。」
リオが口を挟んだ。
「リオとアメリが殴り倒したって事ね。大活躍だったのね。」
「いや。わたしも眠らされたの。」
「「ええー?」」
セナとサオリがビックリした。
「どういう事?」
セナが聞いた。
「大魔導士アメリ様の魔法が炸裂したのよ。」
オレがどや顔で言うと。
「その大魔導士様にわたしも一緒に本当に眠らされたのよ。そして、大事な顔を殴られたの。」
リオが頬を押さえて言った。
「眠っていなかった盗賊に殴られたの?」
「いや。そこの大魔導士様によ。」
サオリの問いにリオが答えた。
「いや、ゆすってもさすっても起きないから。しかたなく。」
オレがそう言うと。
「つまり、アメリの魔法で全員眠らされて、リオは殴られて目を覚ましたってわけね。その魔法ってスリーピングね。」
サオリがまとめて言った。
「サオリ。知ってんの?」
セナが聞いた。
「うん。アメリが昨日覚えてきた魔法よ。」
「ふーん。強力そうな魔法ね。わたし達にも教えてくれるんでしょ。アメリさん?」
セナがオレに詰め寄る。
「もちろん。お師匠さんも紹介するよ。」
オレが答えると。
「いちいち殴られてたら、体がもたないからね。アメリの魔法にかからないためにも覚える必要はあるよ。魔法をかけれるって事はかけられないようにもできるって事だからね。」
オレを小突きながらリオが言った。
「よし。じゃあ、明日から午後はノア婆さんの所で幻影魔法の修行よ。」
「「「おう!」」」
こうして、つかの間の休日は終わった。明日の朝も早い。オレ達はおしゃべりで夜更かしすることもなく、床に就いた。
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