第88話 朝市
「さあ、じゃあ、ご飯食べに行くよ。」
うずくまったオレの手を引いてサオリがみんなを促した。食堂のテーブルに着いて、朝食を注文した。朝食はパンとスープに、海の町らしく焼き魚が付いていた。元日本人のオレにとって魚料理はありがたい。醤油がマジで欲しい。ちなみにエイハブは船の方が落ち着くって事で、船で寝泊まりしていた。普通、幽霊は寝ないけど。
焼き魚を食って、元気が出たオレは朝のミーティングの司会をする。
「みんな。今日はこれからどうする?」
「どうするって。ダンジョン行かないの?」
リオが訝し気に聞いた。
「誰かさんが寝てる間に、もう一仕事してきたよ。」
オレは今朝の収穫である魔石を何個かテーブルの上に並べた。
「え?うそ?」
リオが申し訳なさそうに小さな声で言った。お、珍しく反省しているな。
「まあ。起こさなかったオレ達も悪いから別に良いよ。」
オレはフォローを入れた。リオとセナが頭を下げた。
「それより、これからどうするって事よ。今日はもうオフにしていいんじゃない?」
「やったー!」
リオが叫んだ。
「て、言うか。明日からも朝食前にダンジョン潜ろうと思う。そういうわけで、もう寝坊はなしね。わかった?リオ!セナ!」
「「はーい。」」
「それで、話を戻すけど、今日は何する?あ、別にみんなで一緒に行動しなくても良いよ。ちなみにオレは観光に行きたいけど。他に何かある?」
「そんなもん。観光に決まってるじゃないの。リオさんとセナさんはまだ寝ていたいかもしれないけどね。」
サオリが嫌味たらしく言った。
「もう。許してよ。お酒は程々にするから。わたしたちも観光に行くに決まってるじゃない。ね?そうでしょ?セナ?」
「うん。もちろん。たくさん買い物しよう。」
リオとセナが本当に反省しているか怪しいが、今日は観光でサークルアイの町に繰り出すことになった。オレ達は部屋に戻ると、思い思いの服に着替えた。いつものむさい冒険者の格好から町娘の格好になったってわけだ。オレはこのままでいいと言い張ったが、リオとサオリに無理やり着替えさせられた。全員、久しぶりのスカート姿であった。足がすーすーするはで落ち着かない。第一この格好では剣を腰から下げれないじゃないか。
「この格好じゃ剣を下げれないじゃない。」
「普通、女の子は剣を下げてないでしょ。」
「今日はおしゃれして町を歩くよ。」
サオリのワープでエイハブの船へと来た。エイハブは甲板を洗っていた。
「おや。みなさん。今日はおめかししてどうしたの?」
「今日はダンジョンは休んで、サークルアイの町に観光に行くんだけど、船長もどう?」
リオが言った。休んでるのはお前とセナだけだけどな。オレとサオリはもう一仕事すましてるんだけど、まあいいか。
「わしは船のメンテナンスがあるから、遠慮しときますよ。女子会ってやつですか。みなさんで楽しんでらっしゃいよ。」
なぜ?女子会って言葉を知っている。まあ、おじさんがいるより、女同士の方が話も弾むのは確かだ。ここはエイハブの言葉に甘えよう。そのかわり、お土産を買ってきてあげようか。
「悪いね。船長。そのかわり、お土産買って来るから、許してね。」
「はい。行ってらっしゃい。お土産、楽しみにしてます。」
エイハブに別れを告げて、再びワープで町中に戻った。サークルアイの町もミヒの町と同じように海と温泉の町であるが、一つ違うのは朝市が町のあっちこちで開かれている事だった。家の軒先や空き地に露天が営業していた。観光客目当てのものから、地元の住民相手の食材を売るものまであった。
「わー。お祭りみたいだね。」
さっそく、林檎飴もどきを買ったリオが言った。
「うん。朝市はサークルアイの名物だからね。サークルアイは毎日お祭りよ。」
同じく林檎飴もどきをなめながらサオリが答えた。
オレ?オレももちろん買ったよ。祭りと言えば林檎飴は必須でしょ。懐かしー。林檎もどきは地球のと比べてすっぱかったが、それが逆に飴の甘さとあった。うまかった。
しばらく、露天を冷かしながら歩くと、良い匂いに足が止まった。イカや貝を焼いている店だった。魚醤で作ったタレだと思うが、炭火で焦げて香ばしい匂いの煙をあげていた。もちろん、買った。エイハブの土産も含めて大量に買った。店の親父が目を丸くしていたが、余ればアイテムボックスに入れればいつでも焼き立てが食えるから問題ない。こうして、トウモロコシもどきに焼き鳥もどきも大量に買った。あと、ピザもどきも大量に買った。食べる物ばっかりじゃないかって、美味しい物食わなくて何の祭ぞ。
「これだけ、美味しいものが揃ったら、次は酒ね。」
リオに言われるまでもなく、オレは地酒、いや地ワインを大量に買い込んだ。もちろん、新鮮な野菜や魚介などの食材も忘れていない。肉は魔物の肉が大量にあるから困らない。これで、何か月航海しようと食料には困らないだろう。何か月もする気はないけどね。
「これ以上食べると夕食が食えなくなるわ。食べるのはやめて次は温泉ね。」
リオの仕切りで次は温泉に行った。宿にも風呂はあったが、手足を伸ばせる温泉は最高だ。温泉は露天風呂だった。眼下に海も見えて、景色も最高だった。温泉で疲れを癒して、エイハブの待つ船に戻った時は日も暮れていた。エイハブにお土産を渡し、遠慮するエイハブを伴って夜の町に繰り出した。
魚料理が美味しく酒も進んだ。エイハブを船に送ると、サオリとセナは船で飲みなおした。もちろん、リオも参加しようとしたが、オレが強引にやめさせた。リオが飲むと絶対に明日の朝起きないからね。オレとリオは、宿までは観光がてら歩いていこうって事になった。
夜道をしばらく歩くと。
「アメリ。」
横を歩いているリオが小声で言った。
「うん。気づいてる。」
夜盗か人さらいか?5~6人はいるだろう。さっきからつけてきていた。A級冒険者のオレ達に手を出すなんて、モグリか。あ。ここはオレ達の事を知ってる人のほとんどいないサークルアイの町だ。しかも、オレ達の格好と言えば剣も下げていない町娘だ。夜中の裏通りを若い娘が二人も歩いてりゃ、そら襲われるわな。剣を持ってないから、魔法か。しかし、こんな町中で魔法をぶっ放すと、周りの家を壊しかねないな。そんな事を考えていると。
「お嬢ちゃん達。オレ達と付き合わない?」
前からも来た。チンピラがナンパしてきた。ちょっと、ピンチかな?
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