第87話 オレは
ファントム達は手に手に剣を握っていた。どうやら、城の衛兵達の亡霊らしかった。幽霊だけど、剣は本物である。もちろん、切られればただではすまない。
「サオリ。気を付けて、剣は本物よ。」
「わかってる。さっきから、切りつけられてるから。」
ファントムの剣を自分の剣で受けながら、サオリが答えた。
「じゃあ、少し本気出していくよ。サンダー剣!」
ファントムにただの剣攻撃は通じない。オレは剣に電気を流し続けて、剣に電気を帯びさせた。電気を帯びた剣は発光した。その光る剣で、目の前のファントムを切りつけた。幽霊だからもちろん手ごたえはないが、電気の魔法が効いてファントムは撃破された。光の球となって消えた。仲間がやられても怯むことなく、その後ろの二匹が同時に切りつけてくる。オレは縮地を使い、右側のファントムの剣攻撃をかわすと同時に左側のファントムを横に切り払った。
「さすが、アメリ。チャンバラは得意ね。わたしはもっとスマートに戦うわ。サンダービーム!」
サオリは右手で剣を構え、ファントムの剣攻撃を受けながら空いた左手で電撃を撃った。電撃は目の前のファントムどころかその後ろの二匹も貫いた。三匹が同時に光の球になって消えるのをオレは横目で見た。
「ふん。やるじゃない。でも、この人たちは剣士なのよ。剣には剣で答えてあげるのが剣士としての矜持よ。」
オレは、怯んで距離を取ったファントム達の中に、縮地を使って飛び込んだ。飛び込みざまに突きを打った。その剣を戻すや横にはらった。オレ達を囲むようにしてかたまっていたのが災いして、同時に三匹のファントムが切られた。
こうして、オレ達二人はあっという間にファントム20匹を撃破した。後にはサビた剣とドロップ品の魔石が転がっていた。
「また、サビた剣だね。魔石だけもらっとこ。」
オレとサオリは魔石を拾って、廊下に出た。黒スライムを倒しながら、大広間に来た。一晩で復元するはずのダンジョンであったが、大広間は閑散としていた。中のテーブルや椅子が復元中と言った感じだった。
「こうして見るとダンジョンて生きてるってわかるね。テーブルが今復活中だわ。」
テーブルが徐々に大きくなっていた。
「何呑気な事言ってんのよ。誰かの魔法のせいで壁に大きな穴が開いたままよ。」
壁に空いた穴を見ながらサオリが言った。その壁からファントムが外に出ていくところだった。
「「まずい。」」
「サンダービーム!」
サオリの無詠唱の魔法がファントムを貫いた。
「これは、ダンジョン探索どころじゃないね。」
「そうね。誰かの魔法のせいで。」
「人が来る前に壁を修復しといた方が良くない?」
「そうだけど。ダンジョンが生きた物で自己修復してるとすると、わたし達の作った壁は邪魔になるんじゃないの?」
「穴の外に土の壁を作って覆えばいいよ。魔物が抜け出さないようにするだけだから。後はダンジョン自らで治してもらえばいいよ。」
「わかった。じゃあ、わたしが壁を作るから、壁を壊した張本人さんは逃げた魔物を退治してね。」
オレ達は壁の穴から外に出た。そこは中庭になっていた。城壁がそびえていて、魔物達はそれ以上外には出れなくなっていた。サオリは『アースウオール』を唱えて穴の外に土の塊を重ねていった。オレはサオリを援護しながら、サンダービームでファントムを打ち倒していった。オレが全てのファントムを倒した頃にサオリの土の壁もできた。
「ねえ。アメリ。どうせ、この中庭から逃げられないんだから無理に倒さなくても良かったんじゃないの?」
「うん。オレもそう思う。でも、まあ。魔石が取れたから良いじゃん。それより、穴ふさいじゃったら、ワープでないと入れんよね。」
「そうね。アメリの後始末も終わったし、もう、宿に戻ろか?」
オレ達はワープで宿に戻った。ちなみにダンジョンに一番に入った冒険者達は魔物が全然出てこないのに驚いていた。さらにダンジョン内が一部破壊されていたのにも。後にサークルアイのダンジョンの七不思議の一つとして噂されたが、もちろんオレとサオリは知らんふりをした。
宿に戻るとちょうど朝食の時間だった。リオとセナはまだ寝ていた。サオリのワープで部屋に入った。オレはリオのベッドに忍び込んだ。昨日の酒のせいで、ちょっとやそっとで起きそうにもない。オレはたまらず、リオのオッパイを触った。
「うーん。」
色っぽい声をあげたが起きない。オレはさらに触った。
突然、凄い力で抱きしめられた。その上、リオの顔が迫ってくる。
「ちょ、リオ。やめて。」
オレが思わず声をあげると、サオリがオレをひっぱたいてリオから引き離した。そのショックでリオが目を覚ました。
「何?どうしたの?」
目こすりながらリオが言った。
「おはよう。お寝坊さん。」
「お寝坊さんじゃないわよ。バカアメリ。リオ。あんた。アメリにキスされるところだったわよ。」
サオリが最初の叱責はオレに、後のはリオに言った。
「違う。キスしようとしたのはリオだー。」
オレは必死で弁明した。
「ええー。もう少しでイケメンとキスできると思ったら、アメリだったの?でも、アメリだったら別にいいわよ。半分男でしょ。それにキスぐらいなら女の子とだってしちゃうよ。わたしは。」
リオの衝撃の告白に固まるオレ達。
「あのう。それって男子も女子もいけるって事?」
オレは手を上げて恐る恐る聞いた。
「ええ。そうよ。どう?アメリ。ちゃんとしたキスしてみる?」
「い、いや。ちょっと・・・」
いろんな思いが頭を巡る。リオは大好きだ。しかし、キスはまだ早いんじゃないか。その前にオレは、オレは本当に女の子が好きなのか。オレは一体、誰が好きなんだ。オレは、オレは・・・。
「ちょ、リオ。何言ってんの。お子様アメリが固まっちゃったわよ。」
「あらあら、お子様にはキスは早かったかしら?」
リオがオレを突っついて言った。オレは真っ赤になってうずくまってしまった。
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