第82話 エクスプロージョン
兵士の詰め所跡の隣の部屋は仮眠室の跡らしく朽ちたベッドが多数散乱していた。オレ達がドアを開けて入ると、剣を構えた幽霊がそれぞれのベッドからゆっくりと起き上がった。その数は20を超えているだろう。そのうちの入り口にいた一匹が先頭のリオに切りかかってきた。その剣をかわしてリオが居合抜きで幽霊を切りつけた。幽霊は真っ二つに切り裂かれた。しかし何事もなかったように復元した。当たり前だけど、実体のない幽霊が切られて死ぬわけがない。
「アメリー。なにこれ?」
切りつけた手ごたえのなさに不気味に思ったリオが幽霊と距離を取って聞いてきた。
「ファントム騎士LV30ね。いわゆる城の騎士の地縛霊ね。」
「いや。名前の事じゃなくて、切っても手ごたえがないんだけど。」
「そりゃ幽霊だもん。当たり前でしょ。でも剣は本物だから気を付けて。」
「自分は切られても平気で、相手だけ切られるなんてどういうチートなのよ。最強の騎士じゃん。それがこんなにいっぱい。」
リオが不満たらたらで言うと、サオリが指示する。
「リオ。下がって!エクスプロージョン!」
リオがあわてて下がると、サオリの無詠唱の魔法が発動した。
チュドーン
仮眠室全体が大爆発を起こした。地面が揺れ、爆風がオレ達を襲う。サオリが部屋のドアを閉めて爆風を防いだ。
オレ達はあっけに取られていた。爆発が収まるとリオが抗議する。
「ちょっと、危ないじゃないの。あんなの喰らったらわたしだって無傷じゃすまないわよ。」
「ごめん。ごめん。最近開発した魔法なもんで。一回使ってみたかったんだ。」
冒険者学校を卒業して師匠がいなくなったオレ達は独自に魔法を開発していた。主に前世のゲーム知識による技を現実でできるようにしたものだ。それにしてもエクスプロージョンって爆発系最強魔法じゃないか。これはオレも抗議しないとな。
「サオリ。この技って爆発系最強魔法じゃないの?それをこんな狭い部屋で使って、リオが逃げ遅れたら、いくら頑丈なリオでも無事に済んでないよ。それどころかあんたがドアを閉めなかったらオレ達だって。どうですか。セナさん。ボーナスポイントマイナスでしょ?」
オレは最初の言葉をサオリに後の言葉をセナに言った。
「え?ボーナスポイントマイナス?わたしのおかげで、部屋いっぱいのファントム騎士を一発でやっつけれたんじゃないの。そちらのポイントも入れてよ。」
サオリは抗議した。
「うーん。確かに危険な魔法だったわね。じゃあ、罰としてわたし達にエクスプロージョンを教える事でチャラにしようじゃない。」
セナが答えた。
確かにこれは一見いい答えかもしれないが、セナは忘れている。サオリが無詠唱で魔法を唱えれてオレ達が唱えられない事を。
「この魔法は無詠唱ができるサオリだからできたんじゃないの?オレ達は呪文を唱えないとダメなんだよ。その呪文をどうするの?」
オレはセナに聞いた。
「呪文そんなもの新しく編み出せばいいじゃない。」
「誰が?」
「アメリ。あんたがよ。」
「えー!」
「サオリがイメージした魔法の発動条件を古代王国語の呪文に直せば良いだけじゃない。サオリの国の言葉、古代王国語両方精通してるアメリ、あんたがね。」
「えー!」
おかげでオレはこの後、新呪文を作成するはめになった。サオリの言ったイメージは案の定オレには伝わらなかった。無意識でできる事を言葉にして伝えるのは難しい。幸いにもオレにもゲーム知識としてのエクスプロージョンはあった。要するに爆発系魔法の最強技だろ。爆発って爆発物が一瞬で燃焼するって事だろ。要するに土魔法で火薬などの爆発物を生みだし、それに火魔法で火を着ければいいって事だ。風魔法で酸素を強制的に供給すれば威力も増すな。オレはエンカウントした魔物でいろいろと実験を行ったが火薬の原理を知らないオレには火薬を作り出す事は不可能だった。そこで土魔法と風魔法で燃焼物のほこり(魔素)を漂わせてそこに火魔法で火を着ける事にした。要するに粉塵爆発である。サオリのエクスプロージョンとは少し違う気がするが、威力は負けてないはずだ。
しばらく戦闘に参加していなかったオレは次の戦闘で魔法を披露することにした。
「はい。新しい魔法ができたみたいだから、次はオレに撃たせて。」
オレは先頭に立って次の部屋に入った。その部屋は大広間で食堂の跡と思われた。この大きさならエクスプロージョンを撃っても大丈夫だろう。大広間いっぱいにファントムがいた。騎士のファントムもいれば貴族風のファントムもいた。オレは心の中で土魔法と風魔法を既に唱えていた。さらに火魔法の呪文を唱えて言う。
「エクスプロージョン!アメリ式!」
ズドーン!
大広間の中で粉塵爆発が起きた。爆発の衝撃がファントムどころかすべての物を襲う。壁が崩れ柱が折れる。それはオレ達も例外じゃなくて、壁にたたきつけられた。咄嗟に体の態勢を変えたオレは足から壁に着いた。おかげで被害は最小限で済んだが、セナとサオリは壁にたたきつけられて気を失った。リオはと言うと同じく壁にたたきつけられたが壁の方が壊れていた。
「リオ。サオリにハイヒールをかけて。オレはセナにかけるから。」
オレはセナを介抱しながらリオに指示をした。
「わかった。ハイヒール!」
やがてセナは目を覚ました。
「セナ。大丈夫?」
オレはセナを気遣った。
「うーん。」
次にサオリが目を覚ました。
「アメリ!今の魔法何?」
オレの腕の中でセナが聞いた。
「エクスプロージョン、アメリ式よ。オレなりの爆発魔法を唱えたってわけよ。」
オレは得意げに答えた。
「ふーん。すごいね。気絶なんかしたのはメアリー師匠のファイアー突き以来よ。」
「わたしもよ。」
サオリも言った。
「今の魔法は今後使用禁止ね。それとアメリ、ボーナスポイントマイナス100!」
立ち上がってセナが言った。
「そんな。」
オレが不服そうに言うと。
「何がそんなよ。この大広間を見て。」
大広間は、上は天井が抜けて、横は柱が倒れ、壁が吹き飛び、下は大穴が開いていてダンジョンの地形すら変わってしまっていた。怒ったサオリには無言で殴られた。ダンジョンの一部であるが破壊してしまったオレ達は一旦戻る事にした。
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読んでくださってありがとうございます。逆異世界転移も更新しましたので読んでやってください。




