第80話 決着
一人走り出したリオは、三匹現れたスライムの中の真ん中に向かって行った。
「おりゃー!」
渾身の気合とともにリオは長剣を打ち下ろした。リオの剣撃はすさまじく、スライムごときは一刀ではじけ飛ぶはずが、そうはならなかった。スライムはまるで低反発マットのようにリオの剣撃の衝撃を受け止めた。そう、このスライムはいつかオレがセシルの町で遭遇した物理攻撃の効かない黒スライムだったのだ。だからリオの剣での攻撃は効かなかった。必殺技の発動後の硬直で一瞬動きを止めたリオに左右の黒スライムがとびかかった。リオが片手で黒スライムを振りほどこうとしたがかなわず、それどころか、最初に切った黒スライムにまで取りつかれてしまった。リオは片手に持った長剣を投げ捨て、顔に取りついた三匹の黒スライムを取ろうともがいた。
「リオー!ばかー!」
「ばかーとか言ってないで、早く助けに行ったほうがいいんじゃないか?息ができなくて死んじゃうぞ。なんなら、もうギブアップするか?」
オレがリオを叱責すると横にいたグレイが声をかけてきた。確かに、スライムにとりつかれると息ができなくて死んでしまう。緊急事態であったが誰もリオの助太刀に向わなかった。
「おい!おまえら・・・」
バシュー!
グレイが文句を言いかけると同時だった。
「な、なにー!」
閃光がリオの体から発せられた。リオに取りついた三匹の黒スライムは煙を上げながら下に落ちて光の球になって消えた。
「サンダー。ゼロ式。」
リオが中二病患者的な技名を言って勝ち誇った。ただの至近距離のサンダーなのにな。
「な。今のは魔法か?おまえ、剣士じゃないのか?」
自分の体に電撃を流す前代未聞の魔法に驚愕したグレイが聞いた。無理もないだろう。普通なら自分の魔法で自分がダメージを受けてしまう。あほみたいに防御力の高いリオならではの必殺技であった。そして、そのリオの格好と言えば革鎧に長剣と言った剣士そのものの格好であったからだ。
「見てわからないの?どっからどう見ても、美少女剣士じゃないの。」
「いや。魔法が・・・」
「剣士が魔法撃ったらだめなの?」
「いや。普通は・・・」
魔法が貴重なこの世界では。魔法使いはそれだけで貴重であった。魔法が使えるのにわざわざ剣まで修行するような者ほとんどはいなかった。オレ達の師匠であるメアリーは特別な存在だったと言う事だ。魔法を使える者で剣を下げているのはそのメアリーの弟子のオレ達ぐらいの者だった。オレ達の格好を見て魔法が使えないと思うのも無理なかった。
「わたし達の格好を見て剣士だけのパーティだと思ったんですか?魔法ぐらい使えまっせ。」
リオが勝ち誇って言った。
「くそー。魔法使いがいたのは計算外だったが、こっちは三人もいるんだ。じきにそっちは先に魔力切れを起こすぜ。こっちの有利はかわらないぜ。」
「あら、やっぱりこのダンジョンは魔法が使えないと厳しいって事ですね。スライムですら剣が通じない強敵だったし。剣士のわたし達は確かに不利ねー。魔法の専門家のみなさんの戦い方を参考にするから、見せてもらおうかしら。」
そう言ってリオが指し示した先には黒スライムが三匹いた。
「おう。見てな。お嬢さんがた。おい。いくぞみんな。」
グレイが最初の言葉はオレ達に、後の言葉を仲間に言って走り出した。
剣士のガイアが盾を構え後ろの三人が呪文を唱え始めた。
「ファイアー!」
まずグレイが魔法を撃った。三匹の黒スライムの真ん中で炎が上がり、真ん中の黒スライムが燃え尽きて光の球になって消えた。
「ちい。一匹だけか。たのむぜ。みんな。」
「「ファイアーボール!」」
左右の黒スライムをハキムとアーリンの魔法が撃ち取った。
同じ初級魔法のサンダーとファイア、ファイアーボールであったがオレ達はリオの一回だけであったが、グレイ達は三回も撃った。
「やあ。素晴らしい攻撃でした。魔法の戦い方の手本を見せていただきましたよ。不細工なリオの戦い方とは大違いでした。」
オレは拍手をしながら言った。
「まあな。」
グレイが少し照れて言った。
「しかし、こちらはリオの一発だけ、そちらは三発も撃たれているんですけど?」
「ふん。何が言いたい?」
「いや。魔力量を考えるとオレらが有利ですよね。」
「確かに三発も撃ったがオレ達は魔法使い三人だぜ。そこのリオさんが身を挺して頑張ってもオレ達の有利は変らないぜ。」
「あー。そのことなんですけど。オレ達全員リオと同じことをできるんですけど。あえてはやらないけど。」
「え?みんな。できるの?」
「そう。みんな。どっちが先に魔力が尽きるか明白ですよね。単純に魔法使いの数だけでも四対三で、こちらはリオがやったみたいに魔法一発で倒す事もできる。」
「え、えー!」
グレイは動揺していた。もう、勝負はついたな。
「まだ。やりますか?」
「わかった。わかったよ。オレ達の負けだ。負けを認めるよ。参りました。」
グレイは頭を下げた。
「というわけでオレ達の勝ちと言う事でいいですね。ダイコさん。」
オレは冒険者ギルド長のダイコに向って言った。
「ああ。あんたらの勝ちだ。しかし、疑うわけじゃないけど、リオさんの他の人の魔法も見たいな。」
「わかりました。次はオレが一人で倒します。」
リオしか魔法を見せてないので無理もなかった。オレは長剣を抜いて言った。
「え?剣は通用しないんじゃないのか?」
「まあ。黙って見ててください。」
オレは先頭に立って言った。
そして、今度は四匹の黒スライムが現れた。
オレは四匹の黒スライムに向って走りだした。
「ファイアー。そして、突きー!」
オレは突きを連続で繰り出した。動きの鈍い黒スライムは簡単に突けた。オレの突きを受けた黒スライム達は順番に光の球となって消えた。
「なにー!なんで剣が通用するのだ。そして無詠唱!」
ダイコよりも、魔法の専門家のグレイが驚いた。企業秘密だけど仕方ない種明かししてやるか。
「剣が通用したのは最初のファイアーで剣に炎をまとわせたからですよ。いわゆるファイアー剣ですね。あとはそのファイアー剣で突きまくったってわけですよ。無詠唱のタネは秘密にさせてください。」
無詠唱のタネは呪文の前倒しで簡単な事なんだけど、この簡単な事が多くの魔法使いはきづいていなかった。
「さすがA級冒険者だぜ。剣に魔法をまとわせるなんてオレ達には出来っこねえぜ。一瞬剣を燃やすのは簡単だけどな。剣に安定して魔力を流し続けんといかんからな。」
そうだそうだと、ハキムとアーリンがうなづいた。
オレは褒められてちょっとうれしかった。うれしいので、サオリとセナにもふってみる事にした。
「じゃあ、サオリさんとセナさんもA級冒険者の良い所を見せてあげてよ。」
「ええ。無茶ぶりしてくれるよね。アメリも。ようするに初級魔法一発で全部倒せばいいんでしょう。やるわよ。」
まずはサオリがやると言った。
次にエンカウントした黒スライム三匹の前にサオリは出た。そして無言で黒スライム三匹に槍で切りつけた。案の定槍は効かなかった。
「へい。へい。どうしたの?サオリさん。槍は効かないよ。」
リオがヤジを飛ばす。
「やかましい。脳筋野郎は黙って見てな。よし。そろそろ行くわよ。サンダービーム!」
リオのサンダービームが黒スライム三匹を同時に貫いた。
「「なにー!」」
グレイ達のみならず、リオまで驚愕の声をあげた。
「リオまで何を驚いてんのよ。簡単な事よ。槍では切れなくても、突き動かす事はできるでしょ。それで一直線に並ばしたのよ。後はわたしの得意なサンダービームで三匹が一直線に並んだ所を貫通させて終わりよ。」
「あったまいいー。」
リオが褒めた。
「いや。頭を褒めるよりもその魔法の威力を褒めるべきだろう。ただのサンダーが魔物を何匹も貫くなんて見たことも聞いたこともないぞ。」
魔法の専門家のグレイが言った。
「まあ、ただのサンダーじゃないけどね。イメージとして針の先よりも細く絞って撃ったから、その分貫通する威力は凄いって事よ。」
サオリは得意になって解説した。
「じゃあ。最後にセナさんに見せてもらいましょうか。」
オレはセナにふった。
「えー。わたしはみんなみたいな特別な事はできないよ。ただのファイアーボールを撃つだけよ。」
「そんな事言わずに手本を見せてあげてよ。」
「しかたないな。特別にやってあげるよ。」
次にエンカウントした黒スライム3匹にセナはゆっくりと近づいていった。
「ファイアーボール。そして薙ぎ払い!」
黒スライムが三匹まとめて真っ二つになった。
「「なにー。何が起こったんだ。」」
グレイ達が口をそろえて言った。
「しかたないな。わたしも種明かしするか。サオリと逆でちょっと大きめのファイアーボールを撃って辺り一面火の海にしただけよ。でも、さすがにこれだけ大きいと威力が弱まって魔法だけで倒せないから同時に槍で切りつけただけよ。アメリのファイアー剣と一緒で魔法をまとっているから攻撃が効いたってわけね。」
「いや。オレ達が見たのは炎の中で真っ二つになった黒スライム達だけだから。」
「まあ。縮地で距離を詰めて切ったから見えづらかったかな?」
「ああ、もうわかったよ。オレ達がA級を名乗るのが100年早いって事が。そして、まだまだ修行が足りないって事が。」
グレイが改めて負けを認めた。
こうしてグレイ達暁との対戦はオレ達の勝利で終わった。気の抜けたグレイ達はダイコと一緒にダンジョンを出て帰って行ったが、魔力にまだまだ余裕のあるオレ達は奥を目指して進む事にした。
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