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第八話 仲間(ともだち)

 一週間後にはオレはホーンラビットの動きを見切れるようになり、魔法なしでも四匹まとめて狩れるようになっていた。ちなみに、ホーンラビットは習性なのか、ダンジョンの掟でもあるのか五匹以上で襲ってくることはなかった。


 今日は魔法を一度も使うことなく、ボス部屋の前の安全地帯に到達した。今日こそは、ボスに挑戦してみるつもりである。


 順番待ちの列に並ぶといつものように弁当を食べた。今日は団体さんが多かったのか、弁当を食べ終わってすぐに順番が回ってきた。部屋の扉が開いて中に入ると、二回りは大きなホーンラビットがお供を二匹引き連れて部屋の中央に鎮座していた。


 オレは走り寄り、突きを中央のボスに喰らわすと同時に、いつものように前倒しで詠唱を終えていたファイアーボールを放った。オレの唯一の必殺技である火の玉突きである。ホーンロードはとっさに体をひねって急所に当たるのを防いだ。


 しかし、一撃必殺とはいかなかったが、かなりの有効打を撃ち込めた。オレは左右のホーンラビットの同時体当たりをかわしながらもさらに詠唱を続けた。一撃目が効いて守りを固めているホーンロードに二度目の火の玉突きを放った。ホーンロードが串刺しになった。オレが攻撃している間に左右のホーンラビットがさっきと同じように同時攻撃をしてきていた。オレは攻撃を腹に受けてしまっていた。幸いにも師匠のメアリーが、防具をそろえろとうるさかったので、昨日から革のベストを着込んでいた。革のベストには大穴が開いたが二匹の角はかろうじてオレの内臓の前で止まっていた。革のベストを着込んでなかったら死んでたかもしれない。こいつらはただのホーンラビットではなかった。統制された動きはまるで知性があるかのようであった。オレは防御を捨て、右のホーンラビットに片手でのカウンターの突きを放った。オレの剣が右のホーンラビットを串刺しにしたが、オレの左腕も左のホーンラビットに突き刺された。オレは素早く剣を引き抜くと左のホーンラビットに切りつけた。


 なんとか三匹を倒して勝てたが、ダンジョンに潜ってから一番の大けがを負ってしまった。オレは大急ぎでハイヒールの呪文を唱えた。右手の平から治療のためのオーラを出し、血管一本一本つなぐイメージで組織を修復していった。


 オレの拙いハイヒールでも傷跡一残すことなく組織を修復することに成功した。オレは体を治すとホーンロードとホーンラビットの死体と魔石を回収してアイテムボックスに入れると部屋を出た。


 オレが部屋を出るとドアが自動的に閉まった。オレはスロープを下りて地下三階層に出た。地下三階層も草のダンジョンであった。今日はボスを倒すまでと決めてた。それに治したとはいえ、深手を負ってしまった。オレはもう一つの地下二階へと上がるスロープで地下二階へと戻った。


 一人で戦う事に限界を感じていた。一匹一匹が弱い魔物でも集団になると強い。身をもって知らされた。下の階へ下りれば下りるほど魔物が強くなる。このままではいつかやられてしまうだろう。仲間が欲しい。しかし、実力者パーティに入れてもらって下働きから始めるのは性に合わない。なにより、午後からしかダンジョンに潜れないオレを入れてくれるような奇特なパーティは無いだろう。


 オレはホーンラビットを倒しながらダンジョンを出ると、いつものようにエールを買い、ホーンラビットの肉を土産にグレイグ家を訪れた。


 稽古の後の食事でメアリーに相談してみた。


「そうね。午後からしかダンジョンに潜れないんじゃ、有力者パーティの一員として働くのは厳しいわね。じゃあ、仲の良い友達とパーティを組むというのはどう?」


 友達かー、チンピラの手下はいるけど、そういえば、オレには友達なんていないや。オレがもごもごしていると。


「あんた。友達いないの?」


「わたし。この町に来たばっかりだし。家の手伝いとか毎日忙しくて遊ぶ暇もなくて・・・・・」


「恋人のできない言い訳みたいね(笑)。まあ。たしかに遊ぶだけの友達ならいらないわね。

 そしたら、冒険者ギルドかダンジョンで単独行動している冒険者に声をかけてみなさいよ。」


「それでも、良い人が見つからなったら?」


「そんなもん、適当な人でいいんじゃない?」


 適当って、なんかメアリーの性格が見えてきたな。


「えー。命を預ける人を適当に選べませんよ。」


「それもそうね。じゃあ、奴隷を買うのは?」


「奴隷?」


「うん。奴隷。」


 なんでもこの世界では奴隷制度があり、冒険者みたいな3K職業では、奴隷を使うことも多いらしかった。もっとも奴隷と言っても、どこからか無理やりに攫われてきたとかというんじゃなくて、借金を返すために自らを売って身を落としたものがほとんどらしい。奴隷にもある程度の自由が認められており、買い主にお金を返せば身分も自由になれるらしい。地球の奴隷みたいに命を買うというんじゃなくて、雇用するみたいなもんかな?もちろん、奴隷にも人権が認められており、あまりに理不尽な要求は拒否できるとのことだった。この世界でなら奴隷もありかな。でも、住居の問題があるな。オレ自身が、親の家に住んでいるのに、奴隷の住むところをどうする。


「奴隷もいいですけど、わたし親と同居しているので、他人を家に入れるのはちょっと。」 


「そうよね。13歳の子が奴隷を買うようじゃ。世も末よね。

 じゃあ、どうする?

あ、わたしというのもないわよ。お金にも困っていないし、命をかけてまで冒険者する必要がないし、第一、命のやり取りはもうごめんだからね。」


「師匠となら最高のコンビを組めたと思ったけど、やっぱり無理ですよね。残念。」


 友達のいないオレには冒険者仲間もできないのか。さびしくなんかないぞ。ないったら、ないんだから。奴隷を買うためにお金を貯めようと思ったのも、友達ができないからじゃないったら、ないんだから。


 次の日、オレはダンジョンに潜るのを休んで、ホーンラビットに穴を開けられた革のベストを防具屋に修理に出した。防具屋を出ると、裏通りにたむろしていたチンピラに声をかけた。チンピラはジョニーという名前で同い年で13歳だった。ジョニーは孤児院の子たちのボスで、手下を大勢持っていた。ある日、オレに絡んできたのを軽く捻ったら、言うことを聞くようになった。決して脅してはいない。


「ジョニー。こんにちは。お前さん、暇ならわたしと一緒に冒険者しねえか?」


「あ、アメリのアネキ。こんちはっス。残念だけど、おいら、来月から真面目に働くっす。働き先も決まってるんすよ。」


 なんだと、冒険者は真面目じゃないって言うんかい。ちょっと、イラついたが仕方ない。ぐっとこらえて、


「そいつはおめでとうございます。じゃあ、誰か紹介しろよ。」


 ジョニーの手下で冒険者の真似事をしている奴が孤児院にいるという事なので、孤児院まで案内させた。


 孤児院は町はずれにあったが、思った以上にきれいな建物であった。この世界ではオレのように親を魔物に襲われてみなしごになる子も多い。そういった子供たちが町にあふれて悪さをしないように、行政はこういった福祉に力を入れているみたいだった。おじ夫婦がいなければオレもここの世話になってたかと思うと、ここの子供たちには親近感を覚えた。


 ジョニーが手下を呼びに孤児院に入っていったのを見送っていたオレは、建物の中で偶然にも見かけた。黒目黒髪の少女を。この大陸の住人は金髪碧眼が当たり前で、黒目黒髪は珍しく、そういう人たちは東の大陸から渡ってきた人たちだとメアリーから聞いていた。しかし、黒目黒髪よりも驚いたのは、そのかって見慣れた懐かしき風貌であった。オレは迷わずその少女を鑑定した。


 サオリ


 異世界転移者


 LV 1


 HP K


 MP I


 スキル ワープ 詠唱省略


 オレはジョニーの連れてきた子に気が変わった事を告げて冒険者のお誘いを断り、かわりにサオリの事をジョニーに尋ねた。なんでも西の海岸で一人で彷徨ってたところを保護されてここに連れられてきた子で、王国語も話せず、あの容姿からして東の大陸からの貿易船の難破者じゃないかということだった。しかし、ここセシルの町には東の大陸と交易のある港は一つもなく、サオリの言葉が解るものがこの近くに誰もいないのでとりあえず孤児院で保護しているとのことだった。オレはジョニーにサオリと二人っきりで話したいと告げ、呼んできてもらった。ジョニーは訝し気にうなずいたがすぐに連れてきてくれた。中庭にサオリを連れ出して、辺りに誰もいないのを確認するとオレは話しかけた。


「サオリさん。」


「ハイ。」


 たどたどしい王国語で返事があった。オレは続けて日本語で挨拶した。


「サオリさん。初めまして。」


「え?日本語?どうして?え?え?」


 サオリが答えた。紛れもなく日本語で。


「やっぱり、日本人だったのね。いや、元日本人か。」


「なんでわかったの?あなたも日本人?」


 ビックリして大声で答えるサオリ。


「しっ。お願いだから、静かにして。他の人に聞かれたら、どう説明してもわかってもらえないと思うから、へたに聞かれないほうがいいわ。

 そう。わたしも日本人。いや、元日本人か。それでこっちでの名前はアメリと言うわ。

 あなたの事はその顔を見てわかったわ。」


 やさしく手を握って言うと、サオリは声を押し殺して泣きながらだきついてきた。


「わたし、気づいたら、独りぼっちでこの変な世界に巻き込まれてて。言葉も何も通じなくて。彷徨ってたら、魔物に襲われて・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 サオリはオレのように死んでから転生したわけでなく、生きたまま次元の裂け目みたいな所に落ちてしまったらしい。気づいたら知らない海岸に倒れてたとのことであった。


「うん。うん。いっぱい苦労したんだね。独りぼっちでつらかったね。怖かったね。

 でも、もう大丈夫。今日からわたしがあなたの味方になるから。安心して。」


 オレは自分の境遇をサオリに話した。日本で死んだ後にこの世界に魂で飛ばされた事、この世界の少女の魂と合体した事、魂が合体してたために死んだけれど蘇った事、見た目はこの世界の少女だけど中身の半分は日本人の男である事、一人立ちと魔物への復讐のために冒険者をしている事など。


「あなたの方が苦労してるじゃない。あなたに比べればわたしなんて苦労の内に入らないわ。それであなたは本当はアメリなの?トキオなの?」


「それはわたしにもわからないのよ。最初のころはお互いの人格がまだ独立してあったけど、だんだん混ざってなじんでいったから、もうどっちとも言えないわ。生まれ変わって、新しい人格になったんじゃないかな?」


「新しい人格って、すごいね。超人じゃない。あっ。わたしタメグチで話しちゃってるけど。アメリはいくつなの?」


「アメリとしてのわたしは13歳よ。黒野時雄は17歳だったけど。」


「わ。アメリと同い年だわ。トキオさんは先輩だけど。」


「え。そうなの。じゃあ、ぜひ友達になってよ。」


「もちろん。喜んで。」


「この広い異世界で、元日本人で同い年の二人が出会うなんて凄い偶然。でも、これって偶然じゃなくて、女神さまの引き合わせに違いないわ。」


「女神?」


 自分が蘇った時に、女神さまのお告げがあった事を説明した。


「わたしに会わなければ、サオリはこっちの言葉も自分の能力もわからず、ずっと孤児院に引きこもってたはずよ。わたしとサオリが会うのは偶然じゃなくて、必然よ。運命だわ。わたしたちは女神さまに引き合わせてもらったのよ。」


「じゃあ、女神さまに感謝ね。」


「うん、感謝。」


 オレ達は日本の事やこの世界の事について日が暮れるまで話した。久しぶりの日本語、久しぶりの同世代ということを差し引いても、オレ達は話がもりあがった。オレは孤児院の院長先生に、サオリと友達になったからまた遊びに来ると丁寧に挨拶してから家に帰った。院長先生は不思議な顔をしていたが快く了承してくれた。




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