第78話 サークルアイのギルド
登場人物紹介
アメリ 脳筋
リオ 脳筋
サオリ 脳筋
セナ 唯一のまとも
グレイ サークルアイの冒険者
サークルアイの町の港は思ったよりも大きく、停泊している船の数も多かった。オレ達の船が港に入ると、すぐに小舟が近づいてきた。小舟の指示に従い船を止め、入港の手続きをした。船の停泊料と五人分の入町料を払いサークルアイの町に入った。港の大きさに比例して町自体も大きくにぎわっていた。関所でもらった町の案内地図を見ながら、オレ達は冒険者ギルドに向っていた。
「ねえ。アメリ。旅の途中なんだから、あえて冒険者ギルドに顔を出さなくてもいいんじゃない?さっさと美味しい物食ったら出発しようよ。」
リオが手持無沙汰に聞いてきた。こいつは食う事しか考えてないな。
「いや。リオ。この町には長居しようと思ってんだ。」
「なんで?」
「あー。わかった。」
地図をのぞき込んでいたセナがオレの代わりに答えた。
「何がわかったのよ。セナ。」
リオが聞くと。
「これよ。これ。」
セナが地図のある一点を指した。
「あー。ダンジョンね。ダンジョンに潜るから長期滞在になるってことね。それで、情報収集のために冒険者ギルドに向ってるってわけね。」
「ご名答。オレ達A級冒険者がダンジョンを素通りしちゃダメでしょ。」
「そうよね。ダンジョンは飯のタネだもんね。ようし。頑張るぞ。」
張り切ったリオが刀を抜刀した。居合抜きした刀がサオリをかすめた。
「アブな。ちょっと。何街中で抜刀してるのよ。この脳筋剣士。」
「ごめーん。ちょっと張り切りすぎちゃった。」
サオリに叱られてリオが平謝りしていた。
しばらく歩くと冒険者ギルドはすぐにわかった。付近で一際立派な建物だったからだ。
「すごーい。田舎町にしては立派な冒険者ギルドね。」
リオが見上げて言った。
「うん。セシルの町のには敵わないけど立派ね。これはここのダンジョンが規模が大きいって証拠よ。」
サオリも見上げて言った。
「冒険者ギルドなんてどこも一緒じゃん。さっさと手続き済ませてダンジョンに行こうよ。」
セナが先頭でさっさと入館した。
冒険者ギルドの中も広くて大勢の冒険者でにぎわっていた。大勢の冒険者でにぎわっているのはありふれた冒険者ギルドの姿であったが、何か違和感があった。
「なんかおかしくない?」
リオが訝し気に言った。
「リオも気づいた?」
「うん。魔法使いばっかりだね。」
魔法使いが貴重なこの世界では、普通冒険者パーティは剣士や戦士が主で,魔法使いは一人もいないか、いてもせいぜい一人であった。それがここのギルドにいるのはいかにも魔法使いですと言った格好をした者達ばかりであった。剣を下げた者の方が圧倒的に少なかった。その大勢の魔法使いがオレ達を睨んでいた。よそ者のオレ達を値踏みしていた。
かまわずオレ達は受付に向った。受付嬢がA級と思わず大声を出してしまうのもいつも通りだったし、それによって冒険者達に絡まれるのもいつも通りだったけど、ひとつ違うのは,絡んできたのが、ごつい剣士でなくて、いかにも魔法使いですって感じの神経質そうな男達であったと言う事だ。
「やあ。お姉さんたち。旅の冒険者かい。どっから来たんだい?」
魔導士の帽子をかぶり、魔杖を持った男が聞いてきた。
「セシルの町です。」
リオが答えた。
「セシル!」
魔法使いたちがざわついた。ダンジョン都市としてのセシルはここサークルアイでも名を馳せているみたいだった。
「ほう。セシルのA級冒険者とはすごいや。でも、そんなA級冒険者様でもここサークルアイのダンジョンじゃ通用するとは思えないね。悪い事は言わないから、観光でもして帰りな。そのほうが身のためだぜ。温泉案内するからオレ達と一緒に入ろうよ。へっへっへ。」
「どういう意味よ。」
リオがむかついて答えた。
「お子様達にはダンジョンより、お遊戯場がお似合いって事さ。はっはっはっはっは。」
周りの魔法使いたちも一緒になって笑い出した。
「なにお!」
短気なリオが剣に手をかけた。
「やめな!」
オレはリオの、刀を掴んだ右手を掴んで言った。
「おじさん達は随分と腕に自信あるみたいだけど、何級の冒険者なの?」
「あ、いや。B級だけどよ。」
少し小さな声で言った。
「ふーん。で、そのB級冒険者様がオレ達A級にケチをつけようってわけね。」
「ケチじゃねえ。A級冒険者だろうがS級だろうがここサークルアイのダンジョンじゃ通用しねえて言ってんだよ。死なないように親切で言ってんだぜ。感謝してもらいてえな。」
男の周りの同じパーティらしき魔法使い達もそうだそうだと言う。
「よし。わかったわ。じゃあ、ダンジョンで勝負してどっちが上か決める?」
「勝負?どうやって勝負するんだい?」
「そうね。アイテムを一切使わずにどっちのパーティがダンジョンのより深い場所に一日で行けるか競うのはどう?」
「アイテムを使わないってのはポーションやマジックポーションも使わないって事かい?」
「ええ。そうよ。」
「ふーん。面白いな。で、何をかけるんだい?」
「そうね。冒険者プレートをかけるってのはどう?」
「冒険者プレート?」
「ええ。負けたら、格下げになるのオレ達ならB級にあんた達はC級に。」
「おもしれえ。じゃあ、オレ達が勝ったらあんたらの代わりにA級にしてくれよ。」
「ええ。良いわよ。」
「ちょ。何勝手に決めてるのよ。」
受付嬢が慌てて止めに入った。
「いや。面白い。同じA級でもダンジョン都市のA級は格が違う。そのA級を倒したんなら実績として申し分ない。オレがA級に推薦しよう。」
受付嬢の後から現れた男が言った。
「ギルド長。」
受付嬢が心配そうに言った。
受付嬢にウィンクしながらギルド長が前に出た。
「申し遅れた。オレいや私はここサークルアイの冒険者ギルドのギルド長をしていますダイコと申します。私が勝負に立ち会いましょう。こちらのグレイのパーティは4人なのでそちらのお嬢さん達も4人で勝負してください。それで、勝負の日はさっそく明日朝9時から5時までサークルアイダンジョンでやるってのはどうですか?。」
「ええ。良いわよ。」
「ちょ。何勝手に話進めてるのよ。」
セナが慌ててオレの前に出る。
「このアメリはちょっと頭があれなので、アメリの言う事は真に受けないでください。」
「何よ。あれって。失礼ね。」
「ダイコさんとグレイさん。すみません。勝負を受けるかどうかはみんなで協議して決めますから、ちょっと時間をください。」
オレとリオはセナに引っ張られて冒険者ギルドの隅に連れて行かれた。開いているテーブルに着かされた。
「脳筋コンビのみなさん。勝算はあるの?魔法使いの異常な多さと奴らの自信からして、ここのダンジョンの魔物には物理攻撃が効かないって事じゃないの。」
セナがオレ達二人を睨みつけて言った。
「勝算はないけど。売られたケンカは買わないと。」
オレがそう言うと、リオもそうだそうだとうなずいた。セナが頭をかかえた。
「この脳筋サルどもが。話にならないわ。サオリ。あんたはどうなの?」
セナがサオリにふった。
「いよいよわたしの活躍する場が来たんだわ。わたしの魔法で奴らの度肝を抜いてやるわ。」
「さ、サオリ・・・」
「ふん。どうやら、決まりみたいね。」
「何を偉そうに言ってるのよ。アメリ。勝負と言っても、わたしたちが勝っても何もメリットが無いじゃない。」
「そ、そういえば。」
グレイ達は勝てばA級に昇格できるが、オレ達には勝っても何も報酬が無かった。
「この脳筋野郎。」
セナが頭をかかえたあと言った。
「良いわ。勝負しましょう。ただし懸賞金を付けてもらいましょう。それでいいわね。みんな。」
「「「「おう!」」」」
「お待たせしました。勝負を請けましょう。ただし、懸賞金として金貨10枚付けてください。」
リーダーのオレを差し置いてセナが冒険者ギルド長と交渉を始めた。
「ああ。良いぜ。その代わり、勝っても負けても半年はこの冒険者ギルドに所属してもらうぜ。」
「たった金貨10枚でわたし達美少女戦隊を縛り付けるとはあんたやるわね。良いわ。どうせ、じっくりダンジョンを攻略するつもりだったから。」
「ああ、どっちが勝っても負けてもこの冒険者ギルドにA級冒険者が所属しているって事だ。冒険者ギルドの格が上がるってもんよ。オレとしてはあんたら美少女戦隊には負けてもらいたいけどよ。そしたらA級冒険者二組だぜ。がっははは。」
ダイコが豪快に笑った。
なんか、ダイゴの手のひらでうまく転がされてる気分だけど、勝負は燃えるぜ。オレ達はさっそく情報取集に回った。と言っても、冒険者ギルドで飲んでた冒険者達に酒を奢って一緒に騒いだだけだけど。ちなみにグレイ達は明日に備えてさっさと帰って行った。こうして、オレ達のサークルアイでの初日は終わった。
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