第77話 釣り勝負
登場人物紹介
アメリ・・・異世界転生者、脳筋野郎2、悪徳商人
サオリ・・・異世界転移者、お調子者
リオ ・・・魔法剣士、脳筋野郎1
セナ ・・・賢者、守銭奴
エイハブ・・船長、骸骨野郎、セクハラおやじ
サークルアイの町、それはノット半島の先端にあり古くから船での交易の中継点として栄えた町。海産物とノット牛が名物としてありそれらの素材を使った料理は大変美味である。お立ち寄りの際はぜひ味わっていただきたい。
また見どころとしてノットの断崖、軍艦島などの風景明媚な奇岩絶壁を眺められるスポットが目白押しだ。これらの風景を見に行くもよし、のんびり温泉につかるもよし。
サークルアイの町は大変良い所です。
「大変良い所ですって、何独り言を言ってんの?アメリ。」
「いや。ミヒの町でもらった旅のしおりにそう書いてあったから言ってみたの。」
「ふーん。わざわざありがとうね。とにかく美味しいものがあるって事ね。」
風景と温泉もあるんだけど、リオにはやっぱり美味い飯が大事か。
「綺麗な風景と温泉もあるよ。」
「風景と温泉じゃ腹は膨れないからね。」
「リオの食いしん坊。いつか食う食料より、今食う新鮮な食料が大事よ。しっかり釣ってよ。」
「わかったよ。しかし、こんな木を削っただけのもので魚が釣れるとはビックリだわ。」
いわゆるルアーである。前世の記憶をもとに木を削って針とおもりを付けただけのものであったが魚が全くすれていないこの世界の海ではこんな物でもよく釣れた。それを今船から流してオレ達は魚を釣っていた。いわゆるルアーを使ったトローリングである。さすがにリールまでは手作りでできなかったので手釣りである。
「お、きたよ。」
リオがまず釣り上げた。マグル30センチだった。
「マグレ、脂がのって非常に美味な魚、大物は1メートルを超える。」
「マグレっていやな名前の魚ね、ていうか、何勝手に説明してんの?」
「いや、鑑定でそう出てたから、リオにも教えてあげようと思って。」
「あそ。ありがとうね。じゃあ、今度は1メートルの大物を釣るよ。」
「そう。頑張ってね。」
そうしてるうちにまたリオが釣り上げた。
「グウゼン、出世魚。大きなものはブルと言ってこれも脂がのってたいへん美味い。」
「グウゼン?また変な名前の魚ね。まあいいわ。美味しいみたいだから。」
今度はオレに当たりがきた。
「キング。文字通り魚の王様。煮て良し、焼いて良しの大変美味な魚。」
「へえ。アメリの釣った魚は凄そうじゃん。あ、またきた。」
「タマタマ。脂が乗って大変美味な魚。30センチ以下は子供逃がしてやるべき。」
「何が逃がしてやるべきよ。あんた、さっきタマタマじゃなくてマグレって言ってたじゃないの。あー、魚の名前、全部でたらめね。」
「ばれたか。ド素人のリオばかり釣るのが悔しくって、ちょっと意地悪言っちゃった。」
「何がちょっと意地悪よ。あんた、ド素人のわたしより下手じゃないの。」
「だ、誰が下手じゃ。」
「あんたよ。アメリ。一匹しか釣ってないじゃん。」
「きーっ。悔しい。なんなら勝負で決めようか。どっちが上手いか下手か。」
「勝負って、勝負が好きね。あんた。ええ。良いわよ。で、どういうルールにするの?」
「ルールは簡単。船の交代の時間までにどっちが大きい魚を釣るかよ。」
「じゃあ、今のところ40センチのグウゼンを釣ってるわたしが勝っているって事ね。」
「ま、まあね。」
そのあともリオはマグレ(マグル)40センチ、グウゼン(ブル)30センチと40センチと立て続けに釣って絶好調だった。
「アメリさん。どうしたのかな?全然釣れてないみたいだけど。」
絶好調のリオに対してオレの方は沈黙していた。
「く、悔しい。たまたまよ。今に来るわよ。」
「タマタマってさっきわたしが釣ったお魚かしら?タマタマでも良いから釣ってから偉そうな事を言いなさいね。」
「・・・・」
オレは無言でリオを睨んだ。
「おお、怖い事。あっ。また来たわ。」
「くそー。お、こっちもついに来たぜ。これはでかいぜ。」
「え?本当?そのひきは本当みたいね。どうする?手伝おうか?」
「い、いや。いいよ。これはリオとの勝負だけど、本当の勝負相手はこの魚だよ。魚対オレの一対一の真剣勝負に助太刀はいらないぜ。」
「また、何カッコつけてんのよ。帆を下ろして船の進行を止めるよ。」
「う、うん。頼んます。」
帆を下ろすと船はスピードを緩めるどころか文字通り止まった。そのショックでオレとリオは海に投げ出されそうになったが、何とか踏みとどまった。外で構えていたオレ達でさえ大変なショックを受けたのである。中で寝てたみんなのショックは相当なもであったろう。サオリたちがぞろぞろと船室から甲板に出てきた。
「どうしたの?いったい。暗礁?」
サオリが聞いてきた。
「いや。たいした事ないんだけどね。アメリが大物釣ってね。その魚が引っ張るから船が急停止しちゃったの。」
リオが答えた。
「え?魚?こんな大きな船を止めるなんてとんでもない大物ね。これは手伝わなくっちゃ。」
「それがアメリのバカがカッコつけて、これは魚対オレの真剣勝負だから助太刀無用だなんて言ってるのよ。」
「相変わらずの脳筋ね。船を止めるような大物をどうやって取り込むつもりよ。アメリちょっとリオと代わって、アイテムボックスからモリを出しなさいよ。」
「わ、わかった。リオ。手を切らないように気を付けて。」
オレはリオに釣り糸を託すとアイテムボックスからモリを取り出してサオリに渡した。
「ついでだから、二人で引っ張りなよ。」
「わ、わかった。」
オレとリオのA級冒険者二人がかりで引っ張られたらさすがの大物も姿を現した。
「「「「でかい!」」」
甲板にいた皆が口をそろえて言った。
「こんな大物をどうやってこんな細い糸で釣ったのよ。」
サオリが聞いた。
「うん。細いけどアイアンボールの体液に漬けてあるし、強化魔法を流しながら引いてるからちょっとやそっとでは切れないわよ。」
「アイアンボール⁉」
リオが叫ぶや魔法を流した。
「サンダー!」
リオの唱えたサンダーはアイアンボールの体液のおかげで電気を通しやすくなっていた釣り糸を伝い針にかかった魚にまで流れた。感電した大物はぷっかりと浮かび上がった。
「ああ、オレとお魚さんの真剣勝負を何してくれんの。」
「はい。はい。ごめんね。船まで引っ張るから、サオリ。モリで刺して。セナと船長はロープを引っ張って、わたしも手伝うから。」
こうして、オレと魚の一騎打ちの勝負は汚され、哀れ魚はA級冒険者達のバカ力で甲板に引き釣りあげられた。
「凄―い。マグロじゃん。1メートルをゆうに超えてるじゃない。」
「マグロって言うのサオリ。アメリはマグレって言ってたけど。それで、美味しいの?」
「うん。美味しいも何も。これの脂ののった所はトロって言ってわたしの一番好物よ。」
「え!そうなの。早く食おうよ。」
「相変わらず、リオは食いしん坊やね。食う前にオレに言う事があるでしょ。」
「はい。はい。負けました。完敗です。アメリさん。負けを認めますから早くトロを食わして。」
「なんで、勝者が敗者に食わせるんだよ。おかしいじゃないか。それにオレが勝った工夫を語らせてくれよ。」
「何をごちゃごちゃ言ってんのよ。こっちはせっかくいい夢を見てた所を起こされて気が立ってんだから、さっさと解体しなさいよ。でも、かわいそうだから、いつもの卑怯技の説明は聞いてあげるから、作業しながら話なさい。」
「わかりましたよ。サオリ様。でも、オレもさすがにこんな大きな魚を解体した事ないからうまくできるかわからんけど、トロ食いたいから頑張るよ。」
オレはアイテムボックスから刀を一本取り出すとそれで、マグレならぬマグロを解体し始めた。どうやったらいいかわからないので、とりあえず、三枚におろすことにした。三枚って言うのかこれは。トロはたしか腹の方の身だったはず。オレは腹の身を切り取り、残りをアイテムボックスにしまった。そしてその身をナイフで薄く切りわけ皿に盛った。
「みなさん。できましたよ。この魚醤をちょっとつけて食べてください。あと、この辛い薬味をちょっとつけるとさらに美味しいですよ。」
「「うまーい。」」
オレとサオリは舌鼓を打った。しかし、他の皆は誰も口を付けなかった。
「どうしたの?みんな。」
「いや。魚って生で食べても大丈夫なの?」
リオが代表して聞いた。
「ああ、大丈夫。大丈夫。美味いから、だまされたと思って食ってみな。」
恐る恐るリオが食べた。
「なにこれ。うんまーい。脂が乗ってまるで上等なお肉じゃないの。エールを出してよ。」
エールという言葉を聞いて酒飲みのエイハブとセナも食べた。
「美味いですな。これはエールに合いますな。」
エールをがぶ飲みしながらエイハブが言った。
「うん。このすりおろしたサビのさわやかな辛さと魚醤の塩っ辛さが脂のしつこさを消して本当に美味しいわ。お魚にこんな食べ方があったなんて。」
セナもエールをぐびぐび飲みながら言った。お前らは飲めりゃなんでもいいんだろ。
「あー。ところで、わたしに勝つべくして勝ったって言ってたわね。酒のつまみに聞いてやるから語りな。」
リオの上から目線な言い方に少々むかついたが勝者の余裕で許してやろう。
「最初、リオがバンバン釣ったけど、どれもこれも幼魚だったんだ。」
「え?これで幼魚。」
「うん。どれもこれも大きくなると一メートルを超える魚たちだからね。」
「ふーん。それでどうしたの?」
「うん。リオのルアーは浅いレンジを泳がせるルアーだったので浅い所には幼魚しかいないとふんだのさ。」
「それで。」
「それで、親はもっと深い所にいると思ってこの深い所まで潜るルアーに替えたのさ。」
「そういえば、なんかやってたね。」
「それがバッチリ当たってこうして大物を釣ったってわけさ。」
「ふーん。」
「ふーんって、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるけど、初心者のわたしにはさっぱりわからんもん。まあ、アメリのおかげでこんな美味い物食えたのは間違いないから感謝するよ。」
「まあ、感謝しなよ。あと、こうやって表面をあぶってもうまいんだぜ。ファイアー。」
オレはあぶりトロを作って皆に渡した。
こうしてオレ達は食料を自給自足しながらサークルアイの町へ向かった。




