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第44話 マッドオルカ

 登場人物紹介


アメリ・・・異世界転生者、脳筋野郎2


サオリ・・・異世界転移者、お調子者


リオ ・・・魔法剣士、脳筋野郎1


セナ ・・・賢者の卵、守銭奴


カイエン・・冒険者ギルド長、悪徳代官

 翌日、オレ達は早朝から冒険者ギルドに来た。冒険者ギルド長が立会検査者として付いてくる事になった。オレ達は昨日の洞穴のある場所まで案内した。


 冒険者ギルド長のカイエンはさっそく洞穴を覗いていた。


「うーん。入り口が小さすぎて中に入れんね。どうしたもんかね?」


「入り口は大きくできますけど、そしたら大きな上位の魔物が中から出てきませんかね?」


 オレが答えると。


「魔物の件はオレが結界を張るから大丈夫。入り口を大きくできるんだったら頼めないか?」


「わかりました。今から穴を大きくしますので少し離れてください。」


 カイエンが穴から離れると、オレは気をためた。そして体内の気を右手のひらから少しずつ放出した。


「エネルギー破!ゼロ式!」


 ガスバーナーをイメージして、右手の手のひらから気を少しずつ放出した。そしてガスバーナーで氷を解かすようにして岩を少しずつ削っていった。人が通れるくらいにまで穴を広げた。


「すっすげえ!さすがA級冒険者。こんな凄い魔法初めて見たぜ。」


 カイエンは大興奮であった。正確には魔法じゃないんですけどね。


「おお、中は結構広いな。それでこの中に魔物がいるんかい?」


 穴を覗きながらカイエンが聞いた。


「ええ。ビッグクラブがうようよといますね。」


 オレは鑑定をしながら答えた。


「魔物がいるだけじゃダンジョンとは言えないからな。問題はこの洞穴が生きているかどうかだな。」


「洞穴が生きてる?」


「ああ、ダンジョンは生きてるのさ。冒険者を喰らい成長をし続けるのがダンジョンさ。それをこれから確かめに行くってことよ。」


 オレ達はリオを先頭に洞穴に潜る事になった。洞穴は光ごけのようなものが生えていて他のダンジョン同様にほんのりと明るかった。しばらく歩くとビッグクラブが4匹現れた。


 長剣を構えて走り出そうとするリオにオレは指示した。


「リオ待って。ビッグクラブは傷つけたらダメよ。サンダーの威力を絞って気絶させて。」


「わかった。」


 リオは止まると呪文を唱え始めた。


「サンダー!超弱バージョン。」


 4匹のビッグクラブに稲妻が襲った。ビッグクラブは稲妻を受けてひっくり返ったが

 死んではいなかった。オレは気絶したビッグクラブを拾ってアイテムボックスに入れた。


「カニは鮮度が命だから殺してはだめよ。あと、手足が落ちると価値も下がるからね。」


「なんだ今のは?」


 カイエンが目を白黒させて聞いてきた。


「いや、ただのサンダーですけど。」


 リオが答えると。


「そっちの魔法じゃなくて、アメリがしたやつ。ビッグクラブを消したやつ。」


「ああ、これはオレのオリジナル魔法でアイテムボックスって言うんですけど。なんでも収納できるんです。」


「アイテムボックスって言うのか。初めてみたぜ。さすがはA級冒険者だな。」


「冒険者ギルド長のカイエンさんだから特別にお見せしたんです。他言はなさらないように。」


「おう。わかった。」


 ビッグクラブを倒しながら進むと洞穴は三つに分かれていた。


「アメリ。どうする?」


 先頭のリオが聞いてきた。


「うん。とりあえず、右に行こう。」


 オレは紙に簡単な地図を描きながら言った。


「探索だからすべての通路を調べてみようよ。」


「さすがはアメリちゃんだね。オレが指示しなくってもちゃんとやってくれる。」


 カイエンも地図を描きながら言った。


 右に進むと洞穴は突き当りになっていて、ビッグクラブよりもさらに大きなカニがいた。


「アメリ。あれは?」


 先頭のリオが聞いた。


「マッドクラブLV10よ。これも生け捕りでお願い。」


「オッケー。」


 リオが呪文を唱え始めると。

「ちょっと待った。なんで魔物の名前がわかるんだ。あと、レベルって何だ?」


 カイエンが聞いてきた。


「待てないわ。サンダー!超弱バージョン。」


 リオのサンダーを受けてマッドクラブは気絶した。


「レベルは魔物の強さで、見たことがあったから名前と強さがわかったんですよ。」


 オレはマッドクラブをアイテムボックスに回収しながらごまかして言った。


「そうなんか。」


 納得いかない様子のカイエン。


「それよりも、見てください。」


 オレはマッドクラブが守っていた宝箱を指して言った。


「宝があるとは、ますますダンジョンくさいな。」


「リオ。開けて。」


「おい。不用意に開けるな。罠の可能性があるぞ。」


「アメリが大丈夫と言ったら大丈夫ですよ。」


 リオが宝箱を開けながら言った。


「それもわかるのか?」


「ええ。わかります。オレの能力に関することなので詳しくは言えませんが。」


 宝箱は鑑定で中身も、罠もないこともわかっていた。


「うわー!すげー。金貨や銀貨がいっぱい。」


 リオが歓声をあげた。オレ達は嬉々として宝を回収した。


「手つかずの宝箱と言い、やはり未発見のダンジョンの可能性があるな。あとはボスがいれば間違いないが。」


「今のマッドクラブがこの階層のボスみたいですよ。」


 オレはカイエンに答えた。


「えっ。そんな事もわかるのか?」


「わかるも何も、後ろの壁に新しい入り口が現れましたから。」


 オレはカイエンの後ろの壁を指して言った。そこには先程まで何もなかった所に大きな穴が開いていた。


「おお、間違いないな。」


 カイエンがそれを見て言った。


「で、どうする?やっぱり戻る?」


 リオが聞いた。


「うん。今日は調査も兼ねてるからね。」


 オレは答えた。


 オレ達は先程の三差路まで戻って、今度は真ん中に進んだ。突き当りの空間には宝箱がこれ見よがしに置いてあった。リオが開けようと近づいた。


「だめ!ミミックよ。」


 オレはリオを止めた。

「それもわかるのかい?」


 カイエンが聞いた。


「はい。」


「なんでわかるかあえて聞かないけど便利な能力だな。で、どうする?」


「そうですね。今日は調査だからあえて倒しましょう。さっきからリオばっかり働いているから今度はサオリが倒して。LV30だからちょっと本気を出したほうがいいかも。」


「ラジャー!」


 オレの指示を聞いてサオリが呪文を唱え始めた。


「サンダー!そして突きー!」


 サオリのサンダー突きで宝箱ミミックは一撃で倒れた。後には魔石が一個残っていた。オレが魔石を回収すると、その場所にはまた新たな宝箱が出現した。


「もう、完全に間違いないな。オレは入り口の結界を張りにもどるから、アメリ達は引き続き調査を続けてくれないか。」


「わかりました。それでお宝とかはもらっていいんですよね?」


「もちろん。ダンジョンの中の物は発見者の物だからな。手つかずのお宝をゲットしてくれよ。」


「あ、ちょっと待ってください。」


 オレはアイテムボックスから金貨を一握り取り出すとカイエンに渡した。


「オレらが探索を一通り終えるまでこの場所は秘密にしてもらえませんか?」


「ああ、もちろん良いけど。こんなにもらって良いのか?」


「ええ。そのかわり他の冒険者や領主様にしばらく秘密にしてください。」


「わかった。」


 カイエンは金貨を懐にしまうとほくほく顔で引き返して行った。


「良いの?賄賂なんか渡して。」


 サオリが聞いた。清廉潔白な日本人だったサオリには想像もつかない事かもしれないが、この世界では袖の下がなにより有効だった。


「良いのよ。あれでこの場所を秘密にしてもらえるなら安いもんよ。あと、カイエンはお金を受け取ったから、オレ達と一蓮托生になってしまったじゃない。オレ達を簡単に売れなくなったのよ。それでこのあと他の事でもいろいろと便宜を図ってもらえるじゃん。」


「ふーん。なるほどね。でもこの後も要求してくるんじゃない。」


「まあ、そうだろうね。理不尽な要求じゃなければ払ってやればいいんじゃない。そのかわり、こちらもそれなりの見返りを求めるけどね。」


「アメリの悪徳商人。お主も悪よのー。」


「お代官様ほどじゃありませんよ。ぐえへへへ。」


 オレとサオリは大笑いした。


「いちゃついてるところ悪いけど、これからどうするの?」


 リオが聞いてきた。


「そうね。カイエンが秘密にしてくれたからこのダンジョンはしばらくはオレ達の独壇場になったわ。今のうちにお宝を根こそぎいただくよ。今日は行ける所まで行くよ。みんなたいへんだけど頑張るよ。」


「「「おう!」」」


 オレ達はボスの部屋にまで戻った。ちなみに左の通路は何もない行き止まりだった。


 先程開いた入り口から奥に進んだ。セシルのダンジョンと違い地下に降りるのではなく奥へ奥へと進んで行くみたいだった。二階層目は大きな池があってその周りに道がついていた。池は海と繋がっているらしく海の魚が多数泳いでいた。少し歩くと池からマッドクラブ2匹が這い上がってきた。


「セナ。魔法で倒して。あと、殺さないように手加減も忘れんでね。」


 セナは大きくうなずくと呪文を唱え始めた。


「サンダー!超弱め。」


 マッドクラブ2匹はセナのサンダーを受けて気絶した。オレはすかさずアイテムボックスに回収した。


「この階層はセナとアメリに任せとけばいいよね。オレ達A級冒険者には楽勝すぎるダンジョンだわ。」


 最後尾のリオがあくびしながら言った。


「リオ。油断は禁物よ。」


 オレはリオをたしなめた。


「はいはい。わかったわよ。」


 リオが生返事をした。どうもリオにはむらっけがある困ったもんだ。


 しばらく歩くと、オレは水中から凄いスピードで近づく何かを感知した。


「何か来るわ。凄いスピード。みんな、水辺から離れて!」


 マッドオルカが水の中から突然飛び出した。オレの警告のおかげでオレ達は不意打ちを喰らう事なく、なんとか攻撃を避けれた。マッドオルカは大きな口を数回咀嚼すると水中に戻って行った。マッドオルカはシャチかクジラの魔物でオレ達を一飲みできるくらい大きな魔物だった。


「なに今の?」


 リオが泡食って聞いてきた。


「マッドオルカLV100よ。どうやらオレ達を食おうとしてるみたいね。」


「レベル100ってセシルの北のダンジョンのラスボスよりはるかに強いじゃない。ここのボスかな?」


「ボスって雰囲気じゃないわね。オレ達と同じくここのダンジョンの潜入者じゃないかな?ああやって水辺で油断している獲物を食うのを前の世界でも見たわ。」


「前の世界にもあんなのがいたの?」


「うん。あんなに凶悪じゃないけどね。」


 オレはかってテレビで観た、シャチが海岸にいるアザラシを襲う映像を思い出して言った。


「アメリ!のんびり分析している場合じゃないでしょ。あの化け物に勝てるの?」


 サオリがいら立って聞いてきた。


「水の外なら勝てるけど、水の中だったらオレ達でも勝機は薄いかもね。あと、さっきみたいな不意打ちを喰らったら完全アウトね。いくらオレ達が強くてもマッドオルカの餌になってしまうわ。」


「えー!超危険じゃん。大丈夫なの?」


 慎重なセナが聞いた。


「なんのためにオレがいると思ってんの。水の中からの攻撃はオレがすべて察知するわ。みんなも食われないように気をつけてね。」


「「「了解!」」」


「というわけで、探索続行よ。水の中はオレが見張ってるから、みんなは通路に現れる魔物に気をつけて。」


「「「了解!」」」


 二階層は一階層と違って一本道だった。マッドクラブを倒しながら歩いていくと突き当りに来た。突き当りには手を広げたオレと同じくらいの大きさのカニが三匹いた。オレは鑑定を水中からカニに切り替えた。


「キングクラブLV30が三匹ね。全力で行くよ。リオ、サオリ、サンダー突きよ。セナは後方支援をお願い。」


 オレは三人に指示を飛ばした。オレ達4人が呪文を唱え始めた時だった。オレはキングクラブの比じゃない大きな殺気を感じた。


「みんな!水辺から離れて!」


 オレは近くにいたサオリとセナを突き飛ばして言った。


 オレがサオリとセナを突き飛ばすとほとんど同時にマッドオルカがオレ達の前の水中から現れた。マッドオルカはオレ達じゃなくて、ボスのキングクラブ三匹を次々に喰らうと、悠々と水の中に戻って行った。


 オレ達はしばらくあっけに取られていた。


「今のは何?」


 ようやくリオが口を開いた。


「マッドオルカLV100ね。というのは冗談で。どうやら、すばしっこいオレ達を食うのを止めて動きの遅い魔物を食いにきたみたいね。」


「え?魔物なのにそんな頭が良いの?」


 セナが聞いた。


「うん。オルカが賢いのはオレ達のいた世界じゃ常識よ。ねえ、サオリ。」


 オレはサオリに同意を求めた。


「うん。オルカやクジラは知性があるから殺すなって言う団体もあったよね。」


 サオリも前世の事を思い出して言った。


「あんなに大きくて強いのに考える頭もあるんじゃ無敵じゃん。」


 セナが言った。


「うん。水の中ならそうだろうね。でも、あんな大きなカニを3匹も食ったんだから満足したんじゃない。今日の所はもう襲ってこんと思うよ。でも、危なかったよね。ボスに集中してたから水の中は鑑定してなかったよ。」


「じゃあ、どうしてわかったの?」


 セナが聞いた。


「セナ。あんた、あの殺気がわからなかったの?」


 リオが口を挟んできた。剣を中心に鍛えているリオと違い魔法が本職のセナは体術系の能力がリオより少し劣っていた。


「なによー。悪い?わたしは魔法職なのよ。脳筋職のあんたやアメリはわたしとサオリを守ってたらいいのよ。」


「あー。開き直った。アメリ。どう思う?」


「うん。セナは帰って特訓ね。あと、オレとリオの事を脳筋とか言ってバカにしたからボーナスポイントマイナス10ポイントね。」


「えー。そんな。」


 いつもはみんなを査定しているセナがオレに逆査定されてへこんでいた。


「冗談よ。冗談。でもセナはもう少し鍛えたほうがいいね。オレ達は魔法も剣も超一流のオールラウンダーの冒険者を目指してるからね。あと、脳筋はリオだけだから。」


「はーい。」


 セナが渋々答えた。


 オレ達が話し合っている間に宝箱が現れた。オレは鑑定したが罠はないようだった。リオが開けると中には剣や斧などの海賊が使うような武器が出てきた。


「どうやら、ここは海賊のアジトだった所が長い年月を経てダンジョンになったみたいね。」


 オレは武器を一つ一つアイテムボックスに入れながら言った。


「ふーん。それでお宝もざくざくあるのね。」


 リオが言った。


「うん。今のところはね。でも、オレ達が取ったら、お宝の代わりにここで死んだ冒険者の装備や身に着けたお金がお宝になるだろうね。」


「えー。怖い。」


 セナが言った。


「オレ達がそうならんように鍛えよう。特にセナはね。」


「はーい。」


 オレ達はマッドオルカがボスを倒してくれたおかげで開いた入り口を通って奥に進んだ。



 それにしてもマッドオルカというとんだ侵入者のおかげで楽勝のはずのダンジョン探索が急に難易度を増してきた。幸いにも奴はダンジョンのボスと言う食事を摂って、満足しているはずだ。しばらくは襲ってこんだろう。今のうちにお宝を取れるだけゲットするぜ。


 マッドオルカも放置しておくわけにもいかないだろうし、これからも退屈しないですみそうだぜ。




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