第368話 一号(アメリ)死亡?で絶体絶命
ワープした先は森の中だった。今までの暗い地下洞窟と違い、お日様がさんさんと照り付ける青空の下だった。先に来たユウはちゃっかりと木の株に腰かけていた。
「ここってダンジョンの外?」
のんびりした事を聞いてくるのでカチンときた。
「ダメじゃない!うかつに魔法陣なんか踏んで危険な場所に出たらどうするのよ!」
「ごめん。ごめん。うっかりと踏んでしまったわ。でも見たところそんな危険な場所でもなさそうよ。」
「ダンジョンって不思議な空間だからここがまだダンジョンの中って事もあるわよ。」
「いや。どうやらユウの言う通りダンジョンの外らしい・・・・・・」
わたしとユウの会話に一号が入って来たがなんか様子がおかしい。
「一号?どうしたの?」
隣にいたユウが心配して声をかけた。
「あ!一号!一号!」
ユウが駆け寄るとユウの腕の中で一号はかき消えるようにいなくなってしまった。
「一号が死んでしまった!わたしのせいなの?」
「ユウのせいじゃないから落ち着いて!あと、死んだんじゃないわ!おそらく式神の形をとれなくなってしまったんだわ!前に聞いた事あるの。一号と二号は二人が離れすぎると式神の術が解けてしまうって。つまりそれだけ二号達との距離ができてしまったんだわ。」
わたしは一号の成れの果てである式紙を拾いながら答えた。
「それってやばいんじゃないの?」
トシコが聞いた。
「そうよ。お目付け役の一号がいなくなって、なおかつたよりの二号達ともはぐれてしまったって事ね。」
「やっぱりわたしのせいでみんなを危険な目に合わせてしまったって事ね!ごめんなさい!」
責任を感じたのかユウは泣き出してしまった。
「泣いていても何も解決しないわ。まずここがどういう所か調べよう。そして帰る方法を探そう。」
わたしは自分自身も奮い立たせるために気丈な事を言ったが、わたし自身も不安でたまらなかった。わたし達がダンジョンの中でいろいろと頑張れたのは一号のバックアップのおかげによるところが大きかった。それなのに頼りの一号も二号達もいないのに突然どこかも分からない場所に放り出されてしまったんだ。不安にならないほうがおかしい。
「水や食料はあるの?トシコ。」
「うん。一号がいざと言う時のためにわたしのアイテムボックスに入れておけと言って渡してくれてたから、たっぷりと一か月分くらいはあるわ。」
さすがは一号だわ。一号が気を利かしてくれてなかったらわたし達は詰んでたわ。食料は獲物を狩って現地調達するとしても水がないと生きていけないからね。
「それは不幸中の幸いね。少なくとも脱水症状で死ぬ事も餓死する事もないってわけね。とりあえずここを拠点としてここがどういう場所か探るために探索しましょう。」
「探索ってどこに行くのよ?ここは見渡す限りの森の中みたいなんだけど。」
「ユウ。あんたの座ってる所、切り株よね。」
「あ!」
「そうよ。人間が近くにいるって事よ。切り株を作った、木を切った人間がね。村か町かわからないけど人が住んでる所があるって事よ。とりあえずそこを目指そう。」
「人が住んでる所を目指すのは分かったけど、でもどこに住んでるかなんか分からないんじゃないの?」
「そうね。どこに住んでるかなんてわからないよね。でもその住んでる人はどうやってこんな森の奥まで来たのかしら?まさか空を飛んで来たわけじゃないよね。」
「そりゃ歩いてきたんじゃない。」
「歩いて来るには道がいるでしょ。道を探すのよ。道が見つかればそこをたどって行けば人が住んでる所に辿り着くわ。」
「さすがはホノカ。あったま良い。」
「褒めても何も出ないわよ。それよりもここはダンジョンの中のように危険な場所の可能性もあるわ。ダンジョンの中のように隊列を作って探索しよう。魔力切れが怖いからなるべく魔法を使わないで。ところでトシコはなんか意見ある?」
何か言いたげなトシコにわたしは振った。
「うーん。こういう遭難した時はなるべく動かないほうが良いような。」
「そうね。わたし達が素人ならそうすべきね。でもわたし達はもう一人前の冒険者だし、第一遭難した訳じゃないじゃない。仲間とちょっとだけはぐれただけよ。わたし達だけでもできるって事を示すためにも移動すべきね。もちろんここにわたし達がいた痕跡を残して、ここを大きく外れる事はなしでね。トシコ、どう?」
「分かった。ホノカの言う通りだわ。リーダーに従うわ。」
わたしはリーダーって柄でもないけど、みんなよりもちょっとだけ先輩だからわたしがしっかりしないとまとまらないわ。
わたし達はユウの座っていた切り株に手紙を置くと道を探しに出た。道は簡単に見つかったが、道と言っても獣道に毛が生えた程度のものだった。獣道でもありがたかった。なぜなら藪漕ぎをしなくて済むからだ。深い藪の中を藪漕ぎして進むのは非常に体力を奪われるものだし、なにより見通しが効かないから外敵に狙われたらひとたまりもないからである。
「みんな!止まって!オークが一匹歩いて来るわ!」
わたし達には草で何も見えないが、鑑定持ちのユウがいち早く発見して、小声だが力強く警告を放った。
「よし!ユウ以外は草むらに隠れて!オークがユウに気を取られてる所をみんなで不意打ちね!ユウはまともにやり合う必要はないからケガをしないようにね!」
わたしもオークに気取られないように小声でみんなに指示を飛ばした。
「「「おう!」」」
わたしの指示にしたがって、囮役のユウを残してみんなは草むらに隠れた。
しばらくするとユウの言う通り一匹のオークが歩いてきた。オーク一匹ぐらいはわたし達4人の敵ではないはずだが、何か違和感をわたしは感じ取った。わたしの第六感が警告を発した。こいつはただのオークではない。なめてかかると危険だ。できれば戦いを避けたほうが良い。しかし時すでに遅し、草むらに身を隠す仲間に逃げろと言えば、一人残ったユウはやられてしまう。仕方ない。魔力節約とか言ってる場合じゃない。最初から全力だ。わたしは魔法の呪文を唱え始めた。
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