第367話 魔法陣で行き来するタイプのダンジョン
わたしの心配はいらぬ心配だった。ボス部屋に出てきたボスは赤いスライム一匹に黄色いスライム二匹だったけど、剣でちゃんと斬る事ができた。赤いスライムも黄色いスライムもさすがはボスと言う事で剣で一撃と言うわけにはいかなかったけど、ずっと魔法の練習しかさせられなくて、暴れたくてうずうずとしていたわたし達の敵じゃなかったわ。我先にと斬りかかるとあっという間にみんなでタコ殴りにして斬り伏せてしまったわ。
ボス三匹が消滅するとちょっと大きめの魔石が出現したわ。あとスライムの剣とか言う物も出たけど一号はアイテムボックス持ちのトシコに回収させていたわ。それでどうやって次の階層に行くのかと思っていたら、ボス達のいた所辺りに魔法陣が二つ出現したわ。
「うーん。どうやら魔法陣で行き来するタイプのダンジョンみたいだな。青い方は次の階層に赤い方は出口に戻るみたいだな。」
一号が二つの魔法陣を鑑定して言った。
「当然青い方を選ぶよね?」
初めてのダンジョンで初めてのボスを倒して興奮しているユウが聞いた。
「いや。やめとこう。今日はユウの手慣らしが目的だからここまでにしとこう。」
「えー!まだまだいけるよ。」
実質ボス部屋でしか働いていなくて体力を持て余していたトシコが不満を言った。
「まあまああわてるなって。二階層からはゴブリンが相手だからお前さん達にもたくさん働いてもらうから今日の所は休んでいてくれ。」
「わかった。」
渋々納得したトシコは日本語の分からないエリナにも納得させていた。
「じゃあオレから行くから。」
そう言って一号が赤い魔法陣の上に乗るとその姿は一瞬でかき消えた。
「じゃあ次はわたしが行くわ。」
そう言ってわたしも赤い魔法陣の上に乗った。突然目の前が暗くなったと思うと次の瞬間にはダンジョンの入り口に出ていた。この感じはサオリのワープと同じだわ。詳しくは分からないけど似たような物だと言うのは分かったわ。最後にユウが出てわたし達は全員ダンジョンの外へと出た。
「今、二号に伝えたから、しばらくしたら二号達も戻って来るぞ。」
二号の式神である一号は離れていても二号と意思の疎通が図れるみたいだった。テレパシーみたいなもので非常に便利だったがダンジョン内限定とか少々の制限があるみたいだった。まあできの悪いトランシーバーみたいなもんか。
二号達がダンジョンの中から戻って来ると、速攻でサオリのワープでイサキ家の屋敷に帰った。普通はダンジョン攻略と言えばダンジョンの中にこもって何日も泊りがけで行う物であるが、サオリのおかげで日帰りで出来るのはありがたかった。
着替えを済ますとさっそく今日の反省会である。もちろんけが人とかがいたらそっちの処置が優先されるが幸いな事に今日は誰もケガしなかったみたいだった。ちなみに一号は二号の中に引っ込んでしまっていた。式神の一号を出し続けるのは魔力を消費し続ける事であり、二号にとってはけっこうな負担でありオフの時はなるべく一号か二号のどっちか一人でいたいとの事だった。
「それでさあ、ホノカ達はダンジョンはどうだった?」
「どうもこうも、わたし達はまだ一階層しか行ってないからね。まあでも一階層でいきなり黒スライムが出てきたのはちょっとビックリしたけど。」
二号に聞かれて答えたけどさ、実際に黒スライムは反則よね。一階層に出てきて良い魔物じゃないわ。初心者殺しじゃないの。まあ黒スライムは足が遅いから逃げられるかもしれないけど。
「うん。それはわたしもちょっと引っかかったわ。もしかしたら変異種の多いダンジョンかもしれないわね。やはり一号を付けてて良かったわ。」
「うん。わたし達にとったらダンジョン攻略のお手伝いと言うより魔法の先生として一号先生を側に置いてもらいたいわ。」
「それで少しは魔法が撃てるようになった?トシコとエリナは?」
「う。なんとなくイメージは掴めてきたからもうちょっとかな。」
トシコが苦しい返答をしたけど、元々魔法なんて一朝一夕で身につくもんじゃないと思うから焦る事ないと思うわ。
「後でわたしが見てあげようか?」
「本当。ありがとう二号。」
「ずるい。わたしもお願いします。」
わたしも思わず願い出てしまった。だってわりとぶっきらぼうに厳しく突き放すように教える一号に対して二号の方はそれこそ懇切丁寧にやさしく教えてくれるんだもん。誰だって二号に習いたいよね。
「分かった。分かった。じゃあこの後に魔法の勉強会をするね。ユウも参加する?」
「もちろん。」
「勉強会はひとまず置いといてダンジョンの話に戻すと、二階層はゴブリンで三階層はボアが出てきたんだけどさ。ホブゴブリンにビッグボアと言ったボスクラスの魔物が普通に雑魚に混ざって歩いてたよ。一階層の黒ゴブリンの件もあるし、このダンジョンは思ったよりも難解かもしれないけど、どうする?」
「どうするって二号達はそのまま進むんでしょ?」
「もちろん。」
「じゃあわたし達二軍はそれに従うだけよ。」
ま、実際問題わたし達二軍に決定権があるとは思えないしね。
「分かった。一応お試しで潜ってみたダンジョンだけど使えそうだと分かったし、ちょっとだけ危険そうだけどこのまま腰を据えて攻略したいと思う。じゃあ明日は5時にダンジョンに行くからそれまでは自由時間、今日はこれで解散ね。」
解散と言ってもイサキの家に間借りしているんだからどこかへと行くわけではなかった。サオリとリオはお風呂に入りイサキはおじいちゃんに今日の報告をしに行った。もちろんわたし達二軍は庭でお勉強会であった。
*
ゴブリンの階層とボアの階層を攻略し終えた頃にはトシコ達もしょぼいながらもなんとかファイアーボールを撃てるようになってきた。わたし?わたしもなんとかサンダービームを撃てるようになってきたわ。わたしのもしょぼいけどね。あとは威力と精度を磨いていかないと実戦では役に立たないけどね。
「今日の階層は二号に聞いた所、ボアとゴブリンの他にオークもたまに出るとの事だ。オークはゴブリンやボアよりもけた違いに強い。魔法も剣も出し惜しみする事無く全力でかからないとやられてしまう。オークに会ったら最初から魔法全開で行ってくれ。魔力が尽きても心配いらないから、オレが付いてるから。その代わりオーク以外の魔物は魔力節約のために剣で倒してくれ。昨日に引き続き先頭はユウ、指示役はホノカで行こう。ユウは鑑定を使って隠れている敵をみんなに知らせて、今日はオレも戦うからホノカはオレも含めてみんなを気軽に使ってくれ。トシコにエリナにユウもホノカの指示に従うように。最後に、オレがみんなを回復するから安心してくれ。死なない限りは大丈夫だから思いっきりやってくれ。あ、死んでもホノカの蘇生があるから多分大丈夫。」
大丈夫ってわたしまだ人間を蘇生したことないんだよね。できるかどうか分からないわ。絶対にそんな事にならないようにしないと。
「あ、その蘇生だけど人間で出来るかどうかはわたしにも分からないわ。そんな事にならないようにみんな気をつけてね。」
「ま、そう言う事だ。死んでも大丈夫なのは式神のオレだけって事だ。みんなは絶対に無理するなよ、敵わないと思ったらすぐに逃げろ。」
一号の作戦指導が終わるとわたし達はユウを先頭に歩き出した。このダンジョンは洞窟型のダンジョンで曲がり角がいくつもあり、曲がり角の向こうに魔物が隠れている可能性もあるため、ユウの鑑定による索敵能力はありがたかった。曲がり角を曲がったとたんに不意打ち喰らったらわたし達みたいなへたれ冒険者はひとたまりもないからね。
「次の曲がり角はどっちに行けば良いの?」
先頭にいたユウが聞いてきた。
「左に曲がると近道だけど、右に行けば宝箱があるよ。右に行こう。」
この階層は二号達が既に踏破済みでマッピングまでしてくれていてわたしはそれを見て答えた。ちなみに宝箱の中身は翌日には更新されるらしく二号達が取った後でも中身が戻っていた。
「オッケー。でもさっそくオークがいるよ。オーク一匹にゴブリン二匹。」
「さっそくのお出ましね。わたしがまず魔法をオークに撃つから、それが当たろうが当たるまいがわたしとユウはオークに突撃ね。残りのゴブリン二匹はトシコとエリナに任せるわ。一号は後方支援をお願い。危なかったら後ろから魔法を撃って。」
オークにゴブリンごときは一号一人で十分だが、そんな事をしていたら残りのわたし達は永久にレベルアップできない。だからなるべく一号の手はわずわらせずにわたし達だけで攻撃したい。
「ちょっと待って。万が一の事を考えてスクルトとバイキルトを全員にかけておこう。スクルトは守備力アップ、バイキルトは攻撃力2倍になる補助呪文だ。」
そう言って一号は自分も含めて全員に補助呪文をかけてくれた。さすがは一号である。ただの回復役でない。ポンコツなわたし達のために最善を尽くしてくれる。
「よし!なら行くよ!」
号令をかけるとわたしは呪文を唱えながら走り出すと曲がり角を右に曲がった。するとユウの言った通りオークにゴブリンが待ち構えていた。オークは初めて見たが一目でオークと分かった。小鬼のゴブリンと違いでかい。人間と体格的に遜色ないうえに筋肉隆々だったからだ。オークに見とれてる場合じゃない。
「ファイアーボール!」
走りながら魔法を撃った。
わたしのファイアーボールは不意を突かれたオークに見事に命中した。
「そして突きよ!」
わたしを追い越して行ったユウがオークに突きを決めた。二人掛かりの火の玉突きを喰らってはさすがのオークも一発で消滅した。ゴブリン二匹の方もトシコとエリナが一太刀で葬った。
「オークなんて楽勝じゃないの。」
「よくやった。さすがはユウだ。」
わたしはユウを褒めたが、わたしのファイアーボールと一号の補助魔法が効いていたおかげだと思うけど、余計な事は言わないでおこうと。
「ねえ。わたしとエリナも褒めてよ。」
「うん。ゴブリンを一撃で倒すってすごいわ。わたしなら一撃は無理だわ。」
トシコとエリナも言われて褒めたんだけど、これも一号の補助魔法のおかげね。言わないけどさ。わたしは褒めて伸ばすタイプだからね。
*
「今度はオーク二匹にゴブリン二匹よ!」
先頭のユウが叫んだけど、言われなくても見れば分かるよ。通路にたむろしていた魔物達がゆっくりとこちらに向って来ていた。
「トシコとエリナはオークに魔法を撃って!魔法が当たっても当たらなくてもユウはわたしとオークに突進ね!一号は残りのゴブリンとわたし達のフォローをお願い!」
わたしが指示を出すとトシコとエリナは呪文を唱えながら前に出た。
「「ファイアーボール!」」
二人のファイアーボールはほぼ同時に放たれた。しかし残念ながら一発しか当たらなかったみたいだった。わたしは当たらなかった方のオークに突進した。渾身の突きを放ったがやはり一撃で仕留めるわけにはいかなかった。隙を付けなかったので身構えられ、わずかに急所を外してしまったみたいだった。わたしの仕留めそこなったオークはトシコが仕留めてくれた。魔法が当たった方のオークはまたまたユウが一撃で仕留めたらしかった。もちろんゴブリン二匹は一号が瞬殺していた。
「みんなケガはない?大丈夫ならこの調子でどんどん行くよ。」
調子に乗り過ぎるのは良くないと分かっているが、絶好調の時はどんどん探索は進めておくべきだ。
「次も右に曲がって。ユウ。魔物は?」
「魔物はいないみたいよ。」
わたし達が右に曲がって進むと突き当りの部屋に宝箱があるのが見えた。問題は宝箱を守るように四匹のオークがいる事だった。何度も言うようだけど一号に頼めば一人で瞬殺してくれるができればそれは避けたい。わたし達四人だけで仕留めないと意味がないからだ。
「よし!一号以外は全員攻撃呪文を唱えて、魔法を撃ったあと突撃ね!」
「それでどいつに撃てば良いの?」
トシコが聞いてきた。
「そうね。前にいる二匹に撃とう。わたしとユウは右のやつ、トシコとエリナは左のやつをお願い。」
「オレは?」
「うーん。仕方ない。一号にはあまり頼りたくなかったんだけど。いつものように補助呪文を頼めるかしら?」
「喜んで!」
一号に補助呪文をかけてもらった後にわたし達は一号以外の全員呪文を唱えながら四匹のオークの元へと走った。
「よし!止まって!みんな呪文は唱え終わった?いちにのさんで一斉に撃とう。」
魔法の射程距離まで来るとわたしはみんなを止めて指示を出した。みんなは無言でうなずいた。
「じゃあ行くよ!いちにのさん!」
「「「「ファイアーボール!」」」」
ほぼ一斉に放たれた四つの火球が前列にいたオークを襲った。四つともオークに命中したみたいで当たったオーク二匹は倒れた。その勢いのまま残りの二匹にわたし達は突進した。先制の魔法攻撃を受けて当たらないまでも臆したオークはわたし達の敵ではなかった。簡単に斬り伏せる事ができた。もっとも一号の補助呪文のおかげでもあるかもしれないけど。
「オークなんてちょろいもんね。」
止めを刺したユウが調子に乗って言った。
「オークは弱くなんかないよ。一号のおかげだと言う事を忘れないでね。ユウ。」
「うん。一号様様だよね。感謝していますよ。アメリ師匠。」
「そうかい。君達もやっとオレの偉大さに気付いたみたいだね。」
一号はどや顔でふんぞり返っていた。この人も結構お調子者だからなあ。
「宝箱を開けても良い?」
元盗賊のトシコは宝箱に興味津々だった。
「うん。開けてみて。」
わたしはトシコに答えた。一号にもらった地図にも宝箱って書いてあるし、第一罠なら鑑定持ちのユウと一号が黙ってないよね。
「あ、お金だ。小判と銀貨が入ってるわ。」
「え!すごい!とりあえずはトシコのアイテムボックスに入れて。」
「オッケー。」
トシコはみんなにお金を見せながら一枚ずつ収納した。本当は盗賊のトシコにお金は渡したくないんだけどね。今は信じるしかないか。
「あ。ここに魔法陣があるよ。」
部屋の片隅をうろついていたユウが魔法陣を発見した。二号にもらった地図には書いてないんだけど。
「一号・・・・・」
わたしが一号に声を掛ける前にユウが魔法陣を踏んでしまった。
「あ!バカ!」
気付いた一号が止めようとしたが遅かった。ユウはどこかにワープしてしまったみたいだった。
「どこに出る魔法陣か分からないのに。ユウのバカ!二号達の時になかったと言う事は危険なにおいしかしないけど、仕方ない。みんなユウを追うぞ!」
そう言って一号も魔法陣に飛び込んだ。わたし達も意を決して一号の後を順番に追った。
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