第364話 ジパン本土到着
ユウにトシコ、エリナと新しい仲間を三人も加え、長かった船の旅もいよいよ終わりに近づいて来たわ。そう。今日はいよいよジパン本土に到着の日よ。ジパンは元々東の果ての島の封建的な小国だったのをイサキのご先祖様とその仲間が近代的な強国に育て上げたと聞いたわ。しかも偉い事にそのご先祖様は王にはならないで合議制国家を築き、自分はただの一市民になったんだって。まさにジパン建国の父って事ね。なんでそんな事が出来たかって言うとそのご先祖様もわたしらと同じ異世界転移者でチートスキルの持ち主だったみたい。そしてその子孫であるイサキはジパンじゃ超がつくほどの有名人でありお嬢様って事なのよね。もちろんイサキ自信は自分の出自については多くは語らないわ。みんな船の乗組員の人達から聞いたのよ。わたしじゃなくてジパン語も話せるようになった一号がね。
このご先祖様はジパンを近代的な強国にしたのみならず、ジパンの文化や食生活にもいろいろと革命を起こしてくれたみたいで、わたし達にはそっちの方が大事な事で楽しみにしてるんだわ。ああ、早く白米のご飯に味噌汁の和食が食べたい。ああ、うどんや蕎麦の麺類も良いよね。一号もたまに作ってくれるんだけど、所詮は素人料理よね。食材も乏しいのに工夫して頑張ってる一号には悪いけど、やはりプロの料理人が作った本物の和食料理を食べてみたいのよ。ああ、想像しただけでよだれが。おっと危ない。わたしはこんな異世界で冒険者という男も顔負けの仕事してるけど、乙女なんだからはしたない事は慎まなくっちゃ。
そんな事を考えていたら今日の船の朝ごはんは白米のご飯に味噌汁、焼き魚の和食だったわ。ジパン到着の日と言う事で船のコックさんが気を利かしてくれたみたい。もちろん全員ご飯をおかわりしたわ。やっぱり美味しい。これがこれから毎日食べられるんだわ。そう考えるとわたしはジパンに永住しても良いわ。
*
ジパンでの入国審査は本当にあっけなく終わったわ。書類一枚にサインしただけだったもん。これは後から聞いたけど、イサキの連れだと言う事で特別な処置だったみたい。本来なら税関に連れて行かれていろいろと持ち物検査や入国目的の尋問とかされるみたい。さすがはイサキ様様だわ。
ジパンの街の様子はと言うと、まさに文明開化時の日本という感じね。古い江戸時代の家々の中にポツンポツンと近代的な建物が混じってるの。近代的ってもコンクリートのビルじゃないわ。レンガ造りの建物よ。日本に明治村ってあるじゃない。そんな感じ。もっともこれは着いたのが都会だからで田舎へ行けば江戸時代の建物しかないとイサキが言ってたわ。
わたし達は二台の馬車に乗ってイサキの家に向かったんだけど、イサキ家は街はずれにあったわ。イサキが着いたって言うから降りようとしたら、そこはただの門だったの。門番の人にイサキが挨拶したら、門番の人はパニクッて門を開けていたわ。門の奥にはまさに大御殿が建っていたわ。日本でもよく昔の御殿が、重要文化財とかになってるじゃない。まさにあんな感じの建物。普通の市民だとか言ってたけど、全然違うじゃないの。お嬢様なのよ。イサキは。それも超の付く。
門番の人があわてて建物に入って行ったけど、その後にわらわらと人が中から出てきたわ。さすがはお嬢様ね。使用人の数も半端じゃないみたいだわ。
ジパン語は分からないけど、みんな口々にイサキって言ってたわ。その一人一人とイサキは丁寧に挨拶していたわ。喜んでいる人だけでなく、中には感動して泣き出す人もいたわ。イサキはみんなから慕われてるんだわ。
あれ?でも誰が御当主であるイサキのおじいちゃんなんだろ?お父さんとお母さんはなんとなく雰囲気で分かったんだけど。お年寄りだから中で寝ているのかな?
「みんな。アベノ家の当主を紹介するから。」
そう言ってイサキがわたし達に向き合ったわ。これからいよいよ御殿の中に案内されるのかと思っていたら。
「初めまして。わしがアベノ家現当主のアベノシュウメイです。よろしくお願いしますじゃ。」
そう言ってなんと門番のおじいちゃんが深々と頭を下げたわ。
「「「「「初めまして。」」」」」
釣られてわたし達もあわてて頭を下げたんだけど、突っ込みどころ多すぎでしょ。
「イサキの友達なら大歓迎じゃ。見たところ異国の方もおられるみたいじゃの。今、食事の用意をさせている所じゃから。つもる話はその時に聞かせておくれ。とりあえずは部屋でゆっくりしてくださいな。イサキ案内してあげて。」
そう言うとシュウメイさんは門の所に歩いて戻って行ったわ。やっぱり門番の仕事をするのね。
イサキの案内で中に入ったんだけど、リオとエリナが靴を脱がないで家の中に入ろうとしたのをみんなであわてて止めたのはお約束ね。
外観も立派だったけど、もちろん中も凄かったわ。お座敷がいくつもあるの。そのうちの一つがわたし達に割り当てられたんだけど、久しぶりの畳ってやはり良いわ。座るも寝っ転がるのも自由なんだもん。それでみんなでゴロゴロしてたらイサキのご両親が挨拶に来てあわててみんなで立ち上がったわ。お行儀の悪い奴らと思われてしまったかしら。
しばらくして食堂に案内されたんだけど、そこは普通にテーブルや椅子のある板の間だったわ。すでに御当主であるシュウメイさん始めイサキのご家族は席に着いておられたわ。
「突然だったものであまり良い物は用意できなかったんですまんが食べてくだされ。飲んでくだされ。」
シュウメイさんはおっしゃったけど、とんでもない。凄いごちそうよ。海の幸山の幸がこれでもかって言うほど目の前の皿に盛られていたわ。そしてパンにスープじゃなくてご飯に味噌汁なのよ。これよ。これを待ってたのよ。あ、ちなみにシュウメイさんの喋ってる言葉は当然ジパン語よ。一号がわたし達にも分かるように日本語に通訳してくれてたの。
お酒もエールじゃなくてどうやら日本酒みたいね。未成年のわたしにはお酒の味がよく分からないけど。御当主自らお酒を注ぎに来られたわ。
「イサキは皆さんと仲良くやってますかの?」
「はい。もちろん。」
お酒を注がれてトシコは答えたんだけど、わたし達の同時通訳をしてくれたのがどっからどう見てもジパン人には見えない一号だったからシュウメイさんは目を丸くして驚いてたわ。
「あの?あなたは?」
「挨拶が遅れて申し訳ありません。わたくし、アメリと申しましてイサキさんと一緒に冒険者として働かさせてもらってる者です。よろしくお願いします。」
二号はジパン語でそう言って深々と頭を下げてお辞儀をした。
「こ、こちらこそよろしくお願いします。」
まさか異国人の二号が礼儀正しく挨拶するとは思っていなかったシュウメイさんはあわてて自分も深々と頭を下げた。
「イサキ!イサキ!」
向かいの席でリオとしゃべっていたイサキを呼びつけた。
「何?おじいちゃん。」
「この人は何者なんだ?異人さんなのにジパン語を話せておまけにジパン流の挨拶も完璧じゃ。」
おそらく初めて異国人を見たであろうシュウメイさんはジパン人よりも礼儀正しい一号に会って混乱したのであろう。イサキに説明を求めたのであった。
「何ものって。本人の前で何失礼な事言ってんのよ。ボケたの?そんな事本人に直接聞けば良いじゃない。」
「そ、それもそうじゃの。大変失礼しました。」
そう言ってシュウメイはアメリに深々と頭を下げた。
「それじゃあ、順を追って聞いて行こう。まずはアメリさん。あんたはなぜそんなに流暢にジパン語を話せるんだ?」
「それはわたしがジパンの文化に興味があってずっとイサキさんに教えてもらっていたからです。」
「じゃあ、挨拶の仕方とかもイサキに習ったのかい?」
「まあそれもありますけど、ジパンの挨拶はほとんど日本の挨拶と同じですから。」
「今、日本と言ったのかい?日本を知ってるのか?」
「もちろん良く知っていますよ。アベノ家のご先祖様が日本人であった事も。」
「もしかしてアメリさん。あんたもまれ人なのか?」
「こちらじゃまれ人って言うんですね。そうです。ここにいるサオリとホノカにトシコ、ユウもまれ人です。」
「まれ人と言う事はわしの祖父がそうであったように不思議な力や知識をみんな持ってるのか?」
「ええ。まあそれなりにみんな持ってます。」
「まれ人が五人も!これは国を盗るどころか世界も盗れるんじゃないのか!」
「興奮されてる所、悪いんですけど。わたし達はそう言うのまったく興味ありませんから。」
「そうか。ちょっともったいないな。それじゃあまれ人が五人も集まって何をしてるんだい?」
「まあ冒険者の真似事ですね。ダンジョンに潜ったり、こうして旅をしたりして。」
「そうか。それでイサキが仲間になったのか?」
「まあそうですね。イサキさんの武空術や式神を教えてもらいたくてこちらがスカウトしました。」
「そうなのよ。こいつわたしのスキルをあっという間に盗んだんだから。」
イサキが口を挟んだ。
「武空術はともかく式神はアベノ家の者しかできないはずじゃないのか?」
「ああそれもなんとなくできました。」
「こいつ元々多重人格者だったから、あの発狂寸前まで追い込まれる修行もいらなかったのよ。」
何か物騒な事を言ってるわ。イサキの多重人格は修行で身に着けたのね。よくは知らないけど、多重人格って死ぬほど追い込まれたときに人格が崩壊するのを防ぐために自分じゃない自分を生み出してその人格に耐えさせるって聞いた事あるわ。人格が崩壊するまでする修行って考えただけでも恐いわ。わたしは絶対に遠慮しとくわ。
「そんな凄い人達ならイサキを任せても安心だな。ところでイサキはどうですか?足手まといになっていませんか?」
「そうですねえ。イサキさんは元々強かったから足手まといなんて事はありえませんよ。むしろこちらがイサキさんにいろいろと教えてもらってお世話になっていますよ。」
「ほう。アメリさん。あんた日本人らしい謙虚さも兼ね揃えてるの。わしにはあんたの隠そうとしても隠しきれない強さがわかるぞい。それにそこのサオリさんだったけ?あとリオさんも。この三人はイサキ以上のオーラを放っているぞい。」
ふーん。シュウメイさんはオーラが見えるんだ。そうねこの三人は確かにイサキよりも強いかもね。当たってるわ。それよりも他の四人は雑魚判定されたのね。当たってるけど。
そんなこんなで我が美少女戦隊の隊長はアベノ家の御当主様におおいに気に入られたみたい。良かったわ。これでジパンでの滞在も楽しくなるわと思っていたら。
「そこのお美しい方。ホノカさんだっけ。わしに酌をさせてくれんかの?」
美しい方ってわたしの事?そう言う事言われたのは初めてなのでどぎまぎしていると。
「ホノカ。ご使命だよ。」
一号がわたしを呼んだ。
「いやあ。ホノカさんのような絶世の美少女と酒を飲めるとは幸せだのう。」
「あ、ありがとうございます。そんなお世辞を言われてもわたしには返せるものはないんですけど。わたしなんかよりもイサキさんの方がはるかに美人だと思いますけど。」
わたしはコップにお酒を注いでもらったのでお返しに注いであげた。外国人の一号やリオを除いてもサオリにトシコと美少女が揃ってる美少女戦隊でわたしのようなブスが絶世の美女なんて言われるなんてお世辞でもうれしいわ。わたしなんて細い目、低い鼻で日本じゃ能面とあだ名されるほどなんだもん。つまりわたしの顔は凹凸がない平面顔なの。
「イサキ?あれはわしに似てしまってのう。わしが不細工なおかげでかわいそうな事をしたわ。」
たしかにこのイケおじいにイサキはそっくりなんだけど、かわいそう?
「え!シュウメイさんは不細工じゃないですよ。イケてますしイサキさんも美人ですよ。」
「そんなお世辞は無用じゃ。わしらはこの不細工な見た目じゃからなにくそって思って頑張れるんじゃからの。」
「へ?」
なんかこの人は自分達が不細工だと本気で思ってるみたいね。
「つまりだ。この国ジパンではオレ達王国人みたいな顔つきと真逆のホノカの細い目、低い鼻が美人の条件って事だ。喜べ。ホノカ。絶世の美少女。」
一号が理由を教えてくれたけどなんか素直には喜べないわ。でもここジパンならわたしは絶世の美女なのは間違いないみたいね。わたしのコンプレックスだった細い目、低い鼻が美人の条件だなんて、ここは夢の国に違いないわ。また一つジパンとジパン人が好きになったわ。
「それでのう。わしの孫、つまりはイサキの弟にコウメイと言うのがおるんじゃが・・・・」
「酔っ払い爺!何言ってんの!コウメイみたいな不細工にホノカが釣り合うと思ってるの!ホノカ。酔っ払いのたわごとだから気にしないで。」
イサキがシュウメイさんの言葉を途中で遮ったけど、イサキが不細工って言うって事は、つまりはイケメンて事ね。俄然やる気が出てきたわ。
「ねえ。イサキ。コウメイさんっていくつ?」
「へ?二つ下の15だけど。」
「15か。年下の彼も良いわね。わたし、会ってみたいな。」
「「「「えええ!」」」
わたしの爆弾発言に日本語の分かる者全員凍り付いてしまった。
ふん。なにさ。良いじゃないの。わたしにもやっと人生初めてのモテ期が来たんだから少しぐらいは良い目を見させてよ。
********************




