第358話 泥棒
「よし!試合開始!」
「ファイアーボール!」
やはり今度は撃てたみたいね。もちろん仲間のトシコを火だるまにしようとは思っていないし、わたしの腕じゃできもしなかったわ。ほんの一瞬で良いから目くらましになれば良かったのよ。動きの素早い相手だとファイアーボールは避けられてしまうけど、至近距離でましてや魔法が来るとは一ミリも思ってないトシコは見事に顔面に被弾してくれたわ。
「そして突き!」
そうこれは一号オリジナルの必殺技火の玉突きよ。わたしもみんなが使ってるのを何回か見ていていつかやってやろうとチャンスをうかがってたんだ。
トシコを突こうとしたわたしの竹刀は二号に掴まれた。
「勝負あった!仲間をケガさせるな!」
さすがは温情派の二号だわ。一号なら迷わず突けと言うでしょうね。それにしても一瞬のためがあったとは言え、わたしの竹刀を飛び込んで掴むとは恐るべし二号よ。
「え!なんで魔法が撃てたの?」
全てを理解していた二号と違いサオリは納得がいかないようだった。
「さっきのトシコの言葉を忘れたの?トシコのスキルキャンセルは一日一回3分だけって言葉を。」
わたしはどや顔で説明した。
「あ、そう言えば。」
思い出したのかサオリは納得した。
「そうよ。わたしの能力は3分しか持たないし、その3分間はわたし自身も無能になってしまう使えない能力よ。」
トシコは自嘲気味に言った。
「そう捨てた物でもないよ。トシコのスキルはどんな範囲で有効なの?」
「あまり考えた事もなかったけど、たぶんわたしの掛け声が引き金になっているから声が届く範囲かな?」
「じゃあ声の届かない範囲から駆けつければスキルが使えるんじゃないの?」
わたしは落ち込んでいるトシコを励ます意味も込めてトシコのスキルについて考察してみた。
「トシコのスキル発動時にみんなで耳をふさげば良いんじゃね?」
あ!その手があったか。さすがは二号だ。みんなでトシコのスキルの活用法について話し合っているうちにトシコも元気を取り戻してきた。明るく笑えるようにまでなった。
「でもさ。わたし達の敵って人じゃなくて魔物よね。人相手だともう誰にも負けないし。」
サオリがまた余計な事を言った。
「そうなのよ。人には効くけど魔物には効かないのよ。」
そう言ってトシコがまた落ち込んでしまった。
「まあわたしが一から鍛えてあげるからそんなスキルに頼らなくても最強にしてあげるよ。」
「アメリ。」
なんかトシコが二号に感謝してるけどさ。二号はトシコのスキルを今要らないもの扱いしたよね。
「ところでさっきも聞いたけど、盗賊としてのスキルも持っているんでしょ?」
わたしはトシコを元気づけたくてトシコの得意技について聞いてみた。
「うーん。あまり見せたくないんだけど。」
なぜかトシコは出し渋っていた。
「いやいやそんな事言わないでぜひ見せてよ。」
「分かったわ。じゃあそこに立ってて。」
わたしは言われた通りにして立っていた。
「でやー!盗賊斬り!」
やっぱりベタに盗賊斬りなんだ。それにしてもただ竹刀で斬られただけみたいなんだけど。
「え?これってただの袈裟斬りじゃないの?ちょっとだけ痛かったけど。」
わたしは斬られた肩から腹をさすって聞いた。
「じゃーん。これなんだ?」
トシコがなんか見覚えがあるものを手にぶら下げて言った。
「あ!わたしの財布!」
全然気づかなかった。わたしは懐を探ったけど確かにそこに在ったはずの大事な物がなくなっていた。借金王のわたしがみんなから恵んでもらったなけなしのお金を入れた大事な大事な財布。それをこいつは。
「泥棒!」
思わず叫んでしまった。
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