第356話 国外逃亡
「それでトシコ、あんたとエリナの手配書みたいなものは出ているの?」
二号が向かいの席に座ったトシコに聞いた。わたし達はカタリナの街でも一番の高級そうなレストランに入って食事をしている所だった。ちなみに一号はすでに引っ込んでいた。
「うーん。それね。わたしとエリナは仕事するときはいつも覆面しているし、格好も男の格好しているから、二人組の強盗としての手配書は出ているけどわたしとエリナの犯行とはまだバレてないわ。」
今仕事って言ったわ。こいつ。まだ反省していないのかしら。
「顔バレしていないのは幸いね。あんたら、わたしの渡したその服をずっと着てなさい。それで堂々としていたら盗賊には見えないから。」
「わかった。こんなきれいでかわいい服を着たのはわたしもエリナも初めてよ。ありがとう。アメリ。」
トシコは感激して泣いていたけど、こいつの涙はどうにも嘘っぽいのよね。わたし、簡単に泣く奴の涙は信用できないわ。ちなみにトシコの言うきれいでかわいい服はいわゆるメイド服だった。これ絶対に一号の趣味だよね。
「それであんたら今どこに住んでるの?」
「うん。目立たないように町はずれの安めのボロアパートにエリナと二人で住んでるよ。」
「そのアパートには犯行の証拠となるような物は残ってないよね?」
「ええ。わたし達は現金専門だから、宝石とかの足が着くようなものは一切盗ってないわ。」
こいつ、やっぱりプロの犯罪者じゃないの。
「わたし達は三日後に出航するからそれまでにそのアパートは引き払って。それでトシコとエリナはカタリナで雇ったわたし達の従者として連れていくから。良い?トシコ。」
「はい。ご主人様。わたしとエリナはご主人様に一生懸命使えさせていただきますw」
「そう言うのは良いから。出国するための大義名分よ。まさか国外逃亡しますとは言えないでしょ。」
そうか。この服は一号の趣味でなくてそう言う意味があったのか。それでわたし達はわりと自由に出入国していたから忘れていたけど、国から出るって大変な事なんだよね。現代のわたし達の世界でも税関手続きだのパスポートだのと大変だものね。犯罪者のトシコでなくても難しいんじゃないの。それに昔の日本でも出女に入り鉄砲ってくらいに女の人が出国するのにはうるさかったよね。大丈夫かしら。いっその事二人とも奴隷にしてしまえば良いんじゃないの。奴隷なら物扱いとなるから自由に出国させられる。いや、そうしたら関税とかの手続きでかえって大変か。まあいざとなったらわたしの誘惑で税関職員達をたぶらかすのもありかも。
「それでジパンに行った後は最終的に二人はカタリナに戻る事なく、わたし達の拠点である王国で一緒に生活する事になるんだけど良いかしら?」
「ええ。それは大丈夫。わたしもエリナも孤児だったからカタリナには身内らしい者はいないから。カタリナには何の未練も無いわ。」
*
楽しかったカタリナ滞在もあっという間に終わり、明日の朝の出航に備えて今日はカタリナの税関事務所に来ているんだ。わたしら王国からの旅行者組は入国の時にもらった入国書を見せたからすんなり通れたけど、やはりトシコとエリナは足止めを喰らってもめているわ。
「ねえ。なんて言ってるの?トシコ。さすがにカタリナ語で言われるとうちら誰も分からないからね。」
税関職員2名ともめているトシコに二号が耳打ちをした。
「それがさ。お前らは何の目的があって国を出るんだ。何か悪い事をして国外逃亡を図っているんじゃないかってしつこいのよ。」
当たってるじゃないの。実際そうなんだから確かに言い逃れはできないわね。
「うーん。やっぱりそうなるか。ちょっとトシコ訳して頂戴。『わたし達は王国の冒険者です。この二人はわたし達の身の回りの世話をさせるために雇った者で別に犯罪者でも何でもありません。』って。」
「わかった。」
トシコは二号に言われた通りに税関職員達に告げた。しかしなにやらまだもめているみたいだった。
「仕方ないな。これだけは使いたくなかったんだけど。」
そう言って二号は税関職員二人に近づいて行った。
「トシコ訳して、『お仕事お疲れ様です。これはわたし達からの大変な重労働に付かれているお二人に対する感謝の気持ちです。』 」
そう言うと二号は二人に金貨一枚ずつを渡した。
「ア、アメリなんてことするの。その金貨一枚で半年は暮らして行けるよ。でもそのおかげでわたしとエリナも通してもらえるみたい。ありがとうアメリ。」
結局は地獄の沙汰も金次第かよ。
先に税関を通ったわたし達が船の前で待っていると、ようやく税関を通してもらった二人がやって来た。
「あんた達二人に使った金貨二枚はあんた達の借金よ。わかるトシコ。」
借金王のわたしは後輩のトシコに美少女戦隊の掟を教えるつもりで言った。
「わたし達の借金ってこれの事?」
トシコのその手には金貨二枚が握られていた。
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