第354話 盗賊のトシコ
「誰がトシコを仲間にすると言った。」
「「「え!」」」
あまりの意外な二号の言葉にわたし達日本人組は絶句してしまった。いやこの感じは二号じゃなくて一号か。一号ならなおさらだわ。自分で言うのもなんだけど、美少女で日本人って一号の大好物じゃないの。
「どうして?二号。トシコは日本人よ。」
「それにわたしやサオリにも負けず劣らずの美少女よ。二号いや一号。」
当然サオリとわたしは猛抗議をした。
「サオリにホノカ。さっきオレ達の能力が使用不要になっていたのを忘れたか?悪意を持ってオレ達を追ってきたのは誰だ?」
「「あっ!」」
そうだわ。そう言えばわたしもサオリも魔法が使えなくなったわ。それどころか二号のアイテムボックスも使えなくなったんだわ。それがトシコの仕業だと言うのね。そうよ。そもそも最初はなんらかの悪意を二号が検知したんだったわ。
「どういう事か説明してもらおうか。盗賊のトシコさんよ。」
え!盗賊?トシコって冒険者じゃないの?腰に剣を下げてるもんだからてっきり冒険者だと思っていたわ。
「ごめんなさい!」
トシコは腰に下げた剣を放り出すと突然土下座をして泣きながら謝った。
「謝るって言う事はやはり悪意があってオレタチ達を襲おうとしたわけだ。」
「最初は確かにそうだったけど。よく観たら日本人と思しきサオリとホノカにイサキまでいるじゃない。それで襲うのはやめてとりあえずは話を聞こうと思って付いて行ったら突然みんなが走り出すもんだから。」
「ふーん。サオリとホノカがいなかったらオレ達をどうするつもりだったのよ?」
「まあ軽く脅して、そのお金を・・・・」
「オレ達もなめられたもんだな!盗れるもんなら盗ってみろよ!」
一号がトシコを土下座させて大声を出すもんだから、トシコの後ろに控えていたエリナが訳も分からず一号に斬りかかった。ひらりとかわした一号はエリナの剣を素手で叩き落してエリナをねじ伏せた。
「ちょっとトシコさん。このカワイ子ちゃんを大人しくさせてくれる。」
一号が暴れるエリナをねじ伏せながら低い声で静かに言った。ちょっと怖い。
「#$%&・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
おそらくカタリナ語でトシコが叱責したのだろう。大人しくなったエリナをトシコは殴りつけて自分の横に座らせた。殴られたエリナは鼻血を出しながら苦しんでいた。
「ちょと。暴力はいかんな。ヒール。」
一号の治癒魔法でエリナの傷はあっという間に癒えた。
「あれ!魔法が使えるの?」
サオリが聞いた。
「ああ。どうやらそうみたいだな。そのおかげでオレも鑑定でトシコの正体に気付けたってわけだけど。間違いなくトシコの能力でオレ達の能力は封じ込められてたんだろ。そうだよな!トシコ!」
「は、はい!」
「スキルキャンセラーかとんでもないギフトを授かったもんだよな。」
「ギフトってわたしのワープみたいにトシコだけの能力って事よね。これってほとんど無敵のチートスキルじゃないの。あれ?そしたらなんで今魔法が使えるの?」
「うーん。たぶん持続時間に制限があるんじゃないかな。それと一日に何度も出せないとかも。そうだろう?トシコさん。」
「す、すごい。アメリさんの言う通りです。一日に一回3分ほどわたしの周りを無力化できます。」
「そんなすごいギフトを持ってるなら盗賊何て悪い事しなくても生きていけるんじゃないの?」
「そうよ。あんたの過酷な境遇は同情するけど、ここにいるリオだってオレに出会う前は一人で悪い事もせずに頑張っていたんだぞ。」
サオリと一号が口々にトシコを非難した。そう言えば初めて聞いたけどリオだって初めから美少女戦隊だったわけじゃないんだね。苦労したんだ。
「仕方なかったのよ。性奴隷にさせられそうになって村を逃げ出したわたし達にできる事と言ったら盗みとかの悪い事しかなかったのよ。もちろん冒険者になる事も考えたけど。剣も魔法もできない村娘に冒険者は無理よ。」
「仕方ないって何よ。さっきも言ったけどそれ(ギフト)で魔物を倒せば良いじゃないの。」
「それがサオリさん。わたしの能力はどうやら人間限定らしいの。それもわたしが何分も見つめてないと発動しないの。その代わり発動したら3分間は無力化できるわ。あれ?でも3分たつ前にアメリさんは魔法を使ってたみたいだけど。わたしの能力が効かないのかな?」
「ああ。それな。どうやらオレの人格交代はスキルじゃないみたいだから、二号がスキルキャンセルかけられても一号のオレが出てきて代わりにスキルを使う事が出来るみたいだな。つまりはアメリ様にはそんなスキルは通用しないって事だ。」
どや顔で一号は笑っていた。ほとんど無敵と思われたトシコのスキルも天下無敵の変態のアメリには効かなかったみたいね。それにしても人間限定で魔物に通用しないんだったらたしかに冒険者は厳しいよね。それに剣も魔法も教えてくれる人がいなかったみたいだし。たしかに盗賊は許しがたい悪党だけど、トシコの場合は同情の余地があるんじゃないの。その辺を掘り下げてみよう。
「それでその能力を使って人を殺めたりしたの?」
わたしは質問した。
「いえ。とんでもない。いつも無力化させてから脅すだけですよ。殺めるどころかケガもさせてませんから。」
「ふーん。仲間のエリカをぶん殴っておいて、その口で言う?」
「それはアメリさんに斬りつけた罰ですよ。大変な事をしでかしたエリカを許してください。」
「それでやっぱりオレ達の仲間になりたいんだ?」
「は、はい。もちろん。心を入れ替えて頑張りますからお願いします。わたしはもう絶対に悪い事はしません。」
「そうよ。一号。わたし達が今救ってやらないと、トシコはたとえ捕まってもそのスキルで脱獄して悪さを繰り返すと思うし、わたしの思った感じでは嘘は言ってないとおもうな。」
「まあ、ホノカの言う通りだとオレも思うけど、オレ達は正義の冒険者チームだからな。盗賊は仲間にできないよ。うーん。弱ったな。じゃあ仕方ない。民主主義のオレ達美少女戦隊らしくここは多数決で決めようじゃないか。サオリもホノカもそれで良いか?」
「まあ仕方ないわね。」
「新参者のわたしに反対はないわ。」
「よし。それじゃあトシコとエリカを仲間に入れたい者は手を上げてくれ。」
一号は日本人でないリオとイサキにも分かるように王国語で言った。
以外にも手を上げたのは日本人のサオリとわたしだけだった。
「2対3だ。残念だけどやはり仲間にはできないな。」
「え!ちょっと待ってよ!トシコがかわいそうだと思わないの?トシコだって剣や魔法が使えたら盗賊なんかしてないはずよ!ねえ、そうでしょ?トシコ!」
このままでは二度とトシコに会えないんじゃないかと思ったわたしはトシコに同意を求めた。
「ありがとう。ホノカ。でももう良いわ。わたしが犯罪者なのは事実だし。誰だって犯罪者と一緒に行動を共にしたくはないよね。それでわたしとエリカをどうするの?アメリ。」
以外にもトシコはあっさりと仲間になる事をあきらめたみたいだった。
「そうね。この国にも警察みたいな組織はあるでしょ。それに突き出して報奨金の一つももらいたいところだけど。同じ日本人のよしみで見逃してあげるわ。」
「ありがとう。じゃあみんな。元気でね。」
深々と頭を下げたトシコはエリカと逃げるようにその場を去ろうとした。
この薄情者めと思ってわたしは一号を睨みつけた。サオリも睨んでいた。二人に睨みつけられた一号は何か考え込んでいるようだった。
「ちょっと待った!」
おもむろに顔を上げて一号が叫んだ。
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