第353話 追いかけてきた者
「こうなったら仕方ない!みんな!肉弾戦よ!」
サオリの指示でわたし達は一人の少女を取り囲んだ。
その少女は何か叫んでいるようだったが残念ながら誰もカタリナ語は分からなかった。
わたし達は素手でも戦えるように日ごろから訓練をしている。しかし相手の剣の腕前が分からないのでうかつに飛びかかれなかった。
そうこうしているともう一人の仲間らしき少女が追いついてきた。
「ま、待ってー!わたし達は敵じゃないわ!」
え!日本語?
わたしは改めてその少女の顔を見直した。浅黒い顔をしているが間違いなくわたしやサオリと同胞である。
「あんた!日本人?」
「え!え?」
どこからどう見ても日本人に見えない二号が日本語で聞いた物だからその少女は混乱していた。
「ちょと、ややっこしいから二号は黙ってて。あなた、日本人なのね?」
改めてサオリがその少女に聞いた。
「そう。生粋の日本人よ。あんたも日本人なのね。懐かしい。うっ、うー!うわーん!」
そう言うとその少女はその場で泣き崩れた。
「ねえ。少しは落ち着いた?」
少女の泣き声が収まってきた所でわたしは声をかけた。
「う、うん。ごめんなさい。急に泣き出したりしてしまって。わたし、3年前にこの世界に来てから初めて日本人に会ったものだから、ビックリしたのとうれしくて。」
泣きじゃくりながらも少女は答えてくれた。
「そうか。3年間も一人で頑張って来たんだ。辛かったね。」
そう言ってサオリは泣きじゃくる少女の手を優しく握った。自分の事を思い出したのかサオリも泣いていた。もちろんわたしも泣いていた。
「あー。もうみんなで泣いてたって話が進まないじゃないの。とりあえずは自己紹介と行こうじゃないの。わたし達は王国の冒険者で美少女戦隊って言うチームを作っているんだ。わたしが一応リーダーのアメリね。年は17でこんな顔しているけど元日本人なんだ。だから日本語も話せるよ。よろしくね。」
2号がリーダーらしく場を仕切って自己紹介をした。
「アメリさん。日本人なの?わたしも17よ。」
「さんはいらないよ。タメグチで良いよ。まあわたしの素性については後で追々話すよ。それであんた何者なの?」
「そうだね。わたしが何者かってまずは言わないとダメだよね。」
ぽつりぽつりと彼女は自分の身の上話を始めた。それによると彼女はやはり日本人で名前は敏子と言い、年はわたし達と同じ17歳だった。中二の時にわたしやサオリと同じように異世界スリップしてしまいこの世界に来てしまったみたいだった。それで今までずいぶんとハードモードな人生を送って来たみたいだった。一号に拾ってもらえたわたしとサオリは本当にラッキーだったんだわ。一号に改めて感謝しなくっちゃ。
「トシコー!大変だったよねー!もう大丈夫だから!」
「そうよ!わたし達が守ってあげるから!」
サオリとわたしはトシコの身の上話を聞いてはもう我慢ができなかった。二人してトシコに抱き付いて大泣きしてしまった。
「ほらほら、サオリもホノカも泣いてないで自己紹介して。」
「そ、そうね。わたしはサオリって言うの。よろしくね。年はトシコと同い年でわたしもこの世界に転移してきて、王国の孤児院にいた所をそこにいるアメリに拾ってもらったの。わたしとアメリで始めた美少女戦隊もいまや王国でも一二の実力を持った冒険者チームになったわ。トシコも冒険者なら一緒にやろう。そうしたらもう苦労しなくても良いから。」
「え、ええ。」
サオリとトシコはがっちりと抱き合った。ちょっと嫉妬した。
「もうサオリ。トシコの独り占めはずるいわ。わたしはホノカと言うの。わたしもトシコとサオリみたいに最近この世界に転移してきたの。それでゴブリンに追われていた所を美少女戦隊のみんなに助けてもらったんだ。だから新参者であまり強くないんだけど、最近の日本の事ならここにいる誰よりも詳しいわ。日本の事について話そう。」
「うん。」
わたしはサオリを引き離してトシコに抱き付いた。
「ちょっと三人でいちゃついてないで他の人にも自己紹介させて。まずはイサキからどうぞ。」
「はい。はい。わたしはイサキね。大人びて見えるらしいけどみんなと同じ17歳だよ。これから行くジパンの冒険者だったけど、訳あって美少女戦隊のみんなと行動を共にしてるの。日本の事は分からないけどジパンの事ならわたしに聞いてね。トシコよろしくね。」
そう言うとイサキは手を差し出した。
「こちらこそよろしくお願いします。」
トシコとイサキはがっちりと握手をした。ちなみにイサキの言葉は二号が通訳していた。
「私が美少女戦隊一の美少女リオさんよ。年はみんなより一つ上だけど先輩扱いしなくて良いから、しゃべる時もタメグチで良いよ。日本は私も興味あるから今度詳しく教えてね。」
「喜んで。」
トシコとリオもがっちりと握手をした。もちろんリオの言葉も二号が通訳していた。
「それでそっちの子は?」
二号が所在投げにつっ立っていたカタリナ人の女の子を指さしてトシコに聞いた。
「ああ、ごめん。ごめん。今自己紹介させるわ。」
そう言うとトシコはカタリナ語でその子に話しかけた。二人は何事か話し合ってたけど、なんか言い争っているみたいだった。
「どうしたの?トシコ?」
二号が聞いた。
「う、うん。この子はエリナって言うんだけど、なんかわたしがみんなに盗られるんじゃないかと思って怒ってるんだ。」
「ふーん。要はトシコと別れたくないって事ね。じゃあ簡単な事よ。エリナも仲間にしちゃえば良いのよ。そうだよね?二号。」
サオリが二号に同意を求めたが二号は難しい顔をして何か考え込んでるようだった。
しばらくしてようやく口を開いた。
「誰がトシコを仲間にすると言った。」
「「「え!」」」
あまりの意外な二号の言葉にわたし達日本人組は絶句してしまった。いやこの感じは二号じゃなくて一号か。一号ならなおさらだわ。自分で言うのもなんだけど、美少女で日本人って一号の大好物じゃないの。
「どうして?二号。トシコは日本人よ。」
「それにわたしやサオリにも負けず劣らずの美少女よ。二号いや一号。」
当然サオリとわたしは猛抗議をした。




