第350話 一号(アメリ)VSイサキ
両者激しく頭からぶつかり合った。ごんと鈍い音がわたしの方にも聞こえて来た。これは痛そう。わたしだったら今のぶつかり合いで死んでるな。いや死なないでも気絶ぐらいはしてるだろう。それほどの激しいぶつかり合いだった。
ぶつかり合った後はまわしをしていない二人は互いの体を押し合った。押し合いは地力で勝る一号が有利だった。徐々にイサキを土俵際まで追い詰めた。土俵際まで追い詰められたところでイサキはがっちりと一号の腰を取った。腰を取られたところで一号も負けじとイサキの腰を取った。両者互いの腰を取った所で押し合った。しばらくはこの体制で押し合っていたがやはり地力に勝る一号がじりじりと押し始めた。
「うおー!」
あともう少しで土俵を割ると言う所でイサキが奇声を上げて押し返した。これにはイサキに賭けた者も賭けなかった者も大興奮であった。
「イサキ!」
「イサキ!」
「イーサキ!」
再びイサキコールが沸き起こり、それに合わせるかのようにイサキは一号を逆に土俵際まで追い詰めた。
これで決まるかというような勢いであったが一号がバカ力を発揮して踏みとどまった。
「やるな!イサキ!」
そう言って一号が再びイサキを押し返し始めた。
「く!」
イサキも渾身の力を込めて押していたがまたもやじりじりと押されていた。
土俵真ん中まで押された所で、押し合いでは敵わないと思ったのか、イサキは押し合いを止めて投げを打ってきた。
「く!」
今度は一号が声を上げて投げをこらえた。投げをこらえるだけでなく逆に投げを打ち返した。この投げもイサキがこらえ、両者は土俵の真ん中でがっちりと組み合った。これは大相撲であった。イサキの応援一択であった観客も思わず拍手をしてくれた。
「がんばれー!アメリ!」
なんと一号にまで応援の声が上がった。
応援の声に気を良くしたのか一号が再び押し始めた。
「おりゃー!」
しかし気合いと共にイサキが一号を打っちゃった。イサキの打っちゃりが見事に決まり一号は土俵を割ってしまった。
郷土の英雄イサキが勝ったものだから観客は大興奮であった。
「イサキ!」
「イサキ!」
「イーサキ!」
イサキコールが巻き起こりイサキが観客の輪の中に入って行った。
「アメリもよくやったぞ!」
懐もあったかくなって気分を良くした観客は敗者の一号にも拍手と声援を送ってくれた。
なんと一号は声援を送ってくれた観客に握手をして回っていた。おかげでわたし達も観客みんなと握手をするはめになった。
観客の皆さんと一気に仲良くなれたのは良いけれど賭けで大損害しているんだけど。
案の定払い戻しでこの旅のために用意していたジパンの通貨をほとんど使い果たしてしまった。
「ちょっと。一号。お金がもうないんだけど。」
一号にもらった鞄の中を見せてわたしは言った。
「大丈夫。大丈夫。」
「えー!でも。」
危機感を持っているのはわたしだけで一号もサオリものんびりしたものだった。
「そりゃ、いざとなったら一号のアイテムボックスから王国の通貨を出せば良いかもしれないけど、ジパンで両替したらぼったくられるんじゃない?」
「両替は必要ないよ。船で使った金は利子をたんまりつけて取り返すから。」
「どうやって?」
「また相撲するさ。」
「でも相撲で大損したじゃないの。」
「良いか。ホノカも日本人ならパチンコ知ってるだろ?パチンコ屋って新規開店の時お客さんを付けるためにどうする?」
「どうするって、テレビとかで宣伝しまくる。」
「うん。宣伝もするけどさ。出玉とかどうすると思う?」
「あ、出玉ね。赤字覚悟で出しまくるわね。うちのお父さんもそれで儲けてお小遣いくれたもん。え!あんたまさか?」
「いや、いや、勝負は真剣勝負だったけど、結果的には良い形になったと言う事だ。気を良くしたジパンのみなさんはこれからもイサキに全突っ張してくれるだろ。」
そう言って一号はニヤリと笑った。
つまりは真剣勝負だったと言ってるけど怪しいって事ね。ジパンの観客達に掛け金と言う餌を撒くために、もしかして手を抜いたんじゃないかしら。わたしのお父さんも調子に乗ってパチンコに行ってたらあっという間に取り返されたもん。一号恐ろしい奴。
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