第343話 そうだ。ジパンに行こう
「そう言えば、イサキ。あんたどうやってジパンからイーラムに来たの?間のカン帝国って出たり入ったりするのがなかなか難しいんだろ?」
リビングでソファに座ってくつろいでいたオレは隣に座っているジパン人のイサキに聞いてみた。
「ああカン帝国通ってきたら大変だったろうけど、私は船で来たからカン帝国通らなくても大丈夫だったよ。アメリ。」
「え!船で?じゃあ簡単にジパン行けるんだ。」
「まあ海も危険だからそう簡単ではないけどね。」
オレは勘違いをしていた。ジパンに行くには軍事国家のカン帝国を通らなければ行けないと思っていた。陸路がだめなら海路で行けば良いのか。そうか海には国境はないからね。
「じゃあもう一つ聞くけど、ジパンの入国審査は厳しいのか?」
「まあそれなりに審査はあるみたいだけど、私の顔で簡単にパスできるよ。え!何?ジパンに行きたいの?」
「おうよ。エイジア大陸に渡ったのもそもそもはジパンに行くためだったんだもん。カン帝国がややこしい国でなかったらそのままイーラムからカン帝国を通って入国しようと考えていたんだよ。」
「そうだったのか。アメリって凄い賢いって思ってたけど本当はバカなんだね。(笑)ジパンに行きたかったらイーラムでジパン人の私に聞けば良かったじゃないの。」
「いやイサキの事だから、カン帝国に簡単に密入国ぐらいしてきたんじゃないかと思ってしまってたんだ。」
「ひどいな。わたしの事をなんだと思ってるのよ。ジパンは島国だからカン帝国に行くにも結局は航路しかないんよ。そしたらややこしいカン帝国なんかに行かないで遠回りでもイーラムに直接行くでしょ。ジパンとイーラムは国交があるからね。ジパンには簡単に行けるよ。」
「よし!分かった!次の遠征地はジパンに決定だ。」
「もちろん私もメンバーだよね?」
「うん。案内を頼むよ。」
「ジパンに帰るの一年ぶりだな。ジパンに帰ったらみんなをおもてなししなくちゃ。」
こうして例によってまた思い付きで遠征地を決めてしまった。問題はメンバーだよな。ジパン人のイサキとワープでオレ達をイーラムまで連れて行ってくれるサオリは確定してるけど。ジパン人そっくりの迷い人のホノカも連れて行くか。ホノカはまだまだ未熟だからオレが直接指導してやらないといけないしな。これでオレを入れて四人か。あと一人なんだけど、またもめるよな。リオにアーリンは絶対に連れて行けとうるさいし、下手すりゃセナまでそう言いだすよな。
とりあえずはサオリとホノカに話をしようと二人の部屋にイサキと行ったんだ。そしたらそこにリオもいたんだ。これはもう決まりだよね。
*
「あー。みんな聞いて。今度オレとイサキはイサキの故郷であるジパンに行く事に決めたんだ。イサキには失礼だけどジパンは極東地域と呼ばれるくらい遠い東のはてだ。遠いし道中危険も伴う。だから厳選した5人で行く事に決めた。オレとイサキの他3人だ。ジパン人そっくりのサオリとホノカは決定事項で残り一人なんだけど、話を決めた時に偶然居合わせたリオさんがどうしても連れて行けとうるさくおっしゃられるので決めてしまったんだ。先着順だ。文句があったらリオさんと相談してくれ。」
オレはいつもの食事をしながらの反省会で恐る恐る切り出した。
「どうしてリオさんなんですか?」
「だから先着順。」
「ずるい。えこひいきだ。なんでも話し合って決めるのが美少女戦隊のやりかたじゃなかったんですか?」
「いや。あのぅ。」
相定していた通り早速アーリンが噛みついてきた。
「そうよ。偶然いたから決めただなんて理由になってないわ。」
こうなると当然セナも黙っていなかった。
「うるさいわね。よーするにアメリとイサキはあんた達よりわたしのほうが好きって事よ。」
バ、バカ。リオが余計な事を言いやがった。
「それは絶対に違う。」
オレがあわてて否定したが怒ったアーリンは泣きながら部屋に帰ってしまった。
「ちょっとこの始末どうつけてくれるのよ!」
残ったセナもご立腹だった。こえー。
「じゃあジパン系統の顔と言う事でわしはどうですか?」
「骨は骨らしく墓場にでも入ってな。」
「なんだと!」
空気も読めずエイハブがしゃしゃり出て来るものだからリオと新たな確執を生んでしまった。
「わかった。わかった。居残り組にはご褒美を出そう。全員でイーラムに行って、オレ達ジパン組が帰るまで居残り組はイーラムでバカンスと言うのはどうだ?」
「え!バカンス?」
「そうバカンスだよ。セナ。観光するもよし。のんびりとホテルで過ごすもよし。イーラムにもダンジョンはあるからたまに魔物退治するもよし。」
「え!イーラムってどんなところだっけ?」
おっ。セナが乗ってきた。もう一押しだな。
「うん。砂漠の国だけど、そう言う砂しかない珍しい所に行くのも観光としては面白いかもよ。オアシスと言ってきれいな水がこんこんと湧き出てこの世の天国かと思うような所もあるしね。あと夕焼けの砂漠なんて金色に輝いて最高に美しいんだから。そうだよね。クロエ。」
オレはイーラム人であるクロエに同意を求めた。
「うん。イーラムはきれいで良い所よ。幽霊の私が言うのもなんだけどさ。イーラムに帰れるなら私は賛成。幽霊の私が言うのもなんだけどさ。」
なんか魔物である事でちょっと卑屈になってるな。けど同意は得られたぞ。
「そうね。イーラムがどういう所かは置いといても、バカンスがもらえるのは大きいわね。通訳のクロエもいる事だし、みんなでイーラムに遊びに行きますか。」
やった。セナが納得してくれたぞ。バカンスを持ち出して正解だったな。
「バカンスがもらえるならわたしが残るわ。」
「だめ。却下。サオリ。あんたとホノカは強制参加よ。」
「えー!なんでよ?」
「あんたがいなかったら誰がジパンからイーラムに連れ戻ってくれるのよ。」
「ちぇ。しょうがねえな。」
サオリまでバカンスに釣られて文句を言い始めたが却下した。
うるさいリーダーのセナを丸め込めば後は黙ってオレの言う事を聞く大人しい奴らばかりだ。後で部屋に慰めに行ったら、アーリンの方もバカンス案には反対しなかった。これでジパンに心置きなく行く事ができるぜ。
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