第339話 マッドボア恐い
わたしはホノカ、美少女戦隊で一番新参者だけど、秘めたる実力はぴか一の期待のルーキーよ。そのわたしのオリジナルスキルの召喚なんだけど、どうやら召喚獣の待機場所みたいのがあって、そこに入れるだけの召喚獣しか仲魔にできないみたいなの。それでチビ太とツノッチを仲魔にしたらもう満席になっちゃった。本当はオーガとかの強くてかっこいいのを召喚獣にしたかったんだけどさ。入らないんじゃしょうがないよね。もうこの二匹と頑張るしかないか。
それでそのツノッチなんだけど、わたしの召喚獣になってわたしが命名したおかげでアルミラージに進化しちゃったみたい。進化したと言ってもチビ太と違いまったく姿かたちは変わらないんだけどね。まあでも強くなったのはたしかよ。これだけわたし達が強くなっちゃうとはっきり言って他のメンバーはいらないんだけど、もしもの時の備えと指導者を兼ねて2号の式神である1号に付いてきてもらっているわ。1号の本体である2号の方はクロエとジュンと一緒に廻ってるの。つまりこの東のダンジョンには2パーティで挑んでいるのよ。わたし達美少女戦隊は。もちろん上級者の2号達はわたしのパーティよりずっと先の階層に行ってるけどね。
「ホノカ。じゃあ今日から魔法も覚えて行こうか。魔法が使えれば戦術の幅も広がるからね。」
「やったー。やっぱり異世界と言ったら魔法よね。でも魔法って難しいんじゃないの?」
1号の申し出はありがたかったが、魔法と言う未経験の物にわたしはちょっとビビっていた。
「なに。簡単さ。コツを覚えれば誰でもできるようになるよ。」
1号先生の魔法講座が始まった。要約すると、この世界には魔法を出現させる精霊なるものがいて、それに命令するのが呪文であり、魔法の効果をイメージして正しく呪文を唱えれば発動すると言う事だった。
「うーん。呪文は王国語だから王国語の話せないホノカにはやっぱり難しいか。」
1号が簡単だと言ったけど、やっぱりそんな簡単な物じゃないよね。わたしが何度唱えても火は出現しなかった。
「しかたない。魔法は家に帰ってからの宿題と言う事にしてダンジョン攻略を進めるか。前衛はチビ太とツノッチにしてオレとホノカが後衛な。」
「わかった。」
わたしはチビ太とツノッチにその旨を伝えた。二人はうなずくと張り切って歩き出した。この階層は上の階と変わらず草原の迷路だったが出る魔物が違うと言う事だった。マッドボアと言う猪の化け物が出ると言う事だが、かわいいうさぎさんでもあんなに手強かったんだ、見るからに恐い猪だとどんだけ強いんだろう。わたしは気を引き締め直した。
「ホノカ。チビ太とツノッチを止めて。」
例によって鑑定で敵の存在をいち早く察知した1号が小声で警告を発してきた。
『敵よ!止まって!チビ太!ツノッチ!』
わたしは念話でチビ太とツノッチに伝えた。念話はわたしの召喚獣であるチビ太とツノッチだけに伝えられるいわゆるテレパシーみたいなものだ。こういう静かに敵に近づきたい場合などには非常に便利な能力だ。
「あの茂みの中にマッドボア一匹とホーンラビットがいるから。」
1号が前方を指さして小声で言った。魔物がいると言ってはくれたけど、どうしたら良いかの指示はしてくれない。自分で考えてなんとかしろと言う事であった。
とりあえずは隠れてる奴らをあぶり出さないと。奴らは不意打ちをかますために身を潜めてるけどまさか自分達の存在がこちらにばれてるとは思ってなくて油断してるよね。奇襲には奇襲で返せば効果抜群だよね。また石でもぶつけてやるか。わたしは石を何個か拾うと止まって待機しているチビ太とツノッチにそーっと近づいた。
『今から敵二匹を草むらからあぶり出すから、出てきたのを一斉攻撃ね。』
わたしの念話による指示に無言でうなずくチビ太とツノッチ。
『じゃあ行くよ。それ!』
号令と同時にわたしは草むらに石を投げつけた。こちらに不意打ちをかまそうと隠れていたのが、逆にこちらに不意打ちをかまされてパニくったマッドボアとホーンラビットは無防備に飛び出してきた。
チビ太に向って突進してきたマッドボアの方にわたしは向かった。チビ太がマッドボアの突進をひらりとかわすとマッドボアはその勢いのままわたしに来た。で、でかい。そのあまりのでかさと迫力に圧倒されたわたしは足がすくんでかたまってしまった。やばい。やられる。
もうだめだと思わず目をつぶってしまったけど、なぜかマッドボアの攻撃は来なかった。恐る恐る目を開けて見ると目の前に倒れたマッドボアがいた。
「どうした?足がすくんだか?」
どうやら1号が魔法で助けてくれたみたいだった。
「なにこれ!猪と言うよりも牛じゃないの!無理よ!わたしには!」
猪って言うからもっと小さいのを想像していたのにマッドボアときたら牛並みの大きさなのよ。こんなのに体当たり喰らったら絶対に死ぬわ。
「そりゃあこんなでっかいのが突進してくりゃオレ達だってビビるさ。まともにぶつかったらだめだよ。チビ太だって避けただろ。避けながら斬るんだよ。」
「う、うん。」
避けながら斬るってそんな達人みたいな事ようできんわ。あたしゃ、剣のド素人なんだよ。けど、ここはうんと言うしかないね。
*
「こんどはホノカも見えるだろ?マッドボア一匹だけだ。」
「お、おう!」
1号の言う通り通路の奥に一匹のマッドボアがこちらを睨むようにして立っていた。
『待て!』
早速走り出そうとするチビ太とツノッチをわたしは止めた。
『わたしが行くわ。』
二人を下がらせるとわたしはじりじりとマッドボアに近づいた。マッドボアと目が合った。マッドボアが固まった。良し!マッドボアにも効くみたいね。わたしの魅了は。
『よし!行け!』
わたしの号令でチビ太とツノッチは一斉に襲い掛かった。無抵抗のマッドボアはすぐに倒れた。
「おい。おい。どうやって倒すかと思ってたらチートスキルか。」
「悪い?わたしにはこれしかないからね。」
「いや。悪くはないけど、剣の腕も磨いた方が良いんじゃないかと思うんだけど。」
「うん。次はわたしも攻撃に参加するよ。」
わたしも剣の腕を磨いた方が良いのは分かってるよ。分かってるけど、一朝一夕で身に着かないのが剣の実力じゃないの。しばらくはチートスキルに頼らせてもらうよ。
「あ!」
ツノッチをなぜていた1号が声をあげた。
「え!ツノッチがどうしたの?」
「これは面白い。今度はツノッチを先に戦わせて見ろよ。」
1号は何かに気付いたみたいだった。
「何か気づいたのね。それでわたしはどうしたら良いの?」
「うん。魅了を使わないでも勝てるかもしれないぞ。」
「え!本当?」
「ああ、その代わり今度はホノカも戦闘に参加しろよ。」
「わ、わかった。」
魅了を使わないで勝つってどういう事だ。なんかわからないが戦闘に強制参加させられるみたいなのでわたしはちょっと緊張してきた。
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「前の草むらにマッドボアが1匹隠れてる。その旨二人に伝えて。」
わたしが二人に伝えると案の定二人は走りだした。わたしは剣を抜いてあわてて後を追った。
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