第334話 ホノカダンジョン初挑戦
「よし!一回家に帰るよ!」
「帰るってどこに?」
「もちろん王都キンリーにある我が家にさ。」
リーダーのアメリが突然帰ると言い出したが、わたしは召喚獣であるチビ太を仲間にできてやっと調子が出てきた所である。もう少しここで鍛えてみたいところであった。
「もうちょっとここで戦ってみたいんだけど。」
「チビ太と一緒に戦ってみたいんだろ?気持ちは分かるけどやっぱり駄目だ。」
「え?なんで?」
「ホノカ。お前さん。チビ太に同士討ちをやらせる気か?」
「あ!そうか。」
チビ太はゴブリンから進化したとはいえ、ここで出てくる魔物のゴブリンと戦えば同士討ちだ。チビ太にとってこんなつらい事はないはずだ。さすがは我がリーダーアメリだ。気配りができる。
「そう言うわけさ。黒メロンもいっぱい買ったし、ホノカと言う新しい仲間をみんなに紹介したいし、なにより我が家が恋しくなったし、とっとと帰るぞ!」
「「「おう!」」」
また馬車での窮屈で大変な長い旅が始まるのかと思ったら、一瞬で王都キンリーと言う所に来てしまった。これはサオリの能力でワープと言うらしいがこれこそチートだ。一度行った所ならいつでも自由に行き来できるなんて。こんな能力持ってるならとっとと帰るよね。何かあればすぐに戻れるんだもん。
王都のアジトは旅館だかホテルだかを改造したものらしいけど、よくぞこれだけ集めたもんだと思うほどわたしと同年代の少女達がぞろぞろといた。他にも港に停泊している船にも何人かいるらしかった。王国の言葉が全く分からないわたしは同じ異世界転移者のサオリの部屋に同居する事になった。サオリがこの世界でのわたしの先生と言うわけだ。
ちなみにわたしの能力である蘇生は骨と幽霊二人にはやはり効かなかった。まあ三人とも高レベルの魔物だからね。低レベルのわたしの蘇生ごときが効くはずないけど。だいたい骨のエイハブはともかく幽霊のマームとクロエには実体と言う物がないからね。蘇りようがないんだけどさ。
*
そんなこんなで冒険者ギルドに行ったり、王都見物に行く以外はしばらく家でぶらぶらしていたんだけど、いよいよ今日はダンジョンに初挑戦となったの。もちろん初心者向けのダンジョンよ。東のダンジョンと言う所でアメリやサオリが駆け出しの頃に腕を磨いた所らしい。メンバーはアメリの別人格である2号にアメリの従魔の幽霊のクロエに、同じく従魔の魔物のジュンに、わたしホノカのポンコツ4人組ね。ボスのアメリはピンチの時以外は2号の中で眠っているみたいね。
サオリのワープでダンジョンの中まで連れてきてもらったんだけど、出てくる魔物はホーンラビットと言ってウサギの魔物みたいね。ウサギと言っても頭から角を生やした凶悪な魔物なんだけど。でも肉は美味しいらしいよ。
2号の話では、わたしの召喚獣であるチビ太も戦闘に出せば、チビ太にも経験値が入って強くなると言う事だからすでに召喚済みよ。体格の劣るチビ太だけど、そこは魔物ね。力はわたし以上にあるの。だからわたしと同じ装備ができたけど、そのお金はもちろんわたしの借金よ。また借金が増えたから頑張って稼がないと。
魔法が使えないわたしとチビ太が必然的に前衛になったけど、チビ太はともかくわたしは剣も素人なんだけど。大丈夫かわたし。
「ホノカ、気をつけて!前方の草むらの中にホーンラビットが二匹いるよ!」
2号の突然の警告に、わたしは剣を引き抜くと同時にチビ太にも伝えた。
「チビ太、前の草むらに二匹!」
チビ太は無言でうなずくと剣を抜いて走り出した。わたしもあわてて後を追った。もちろん腕に自信があって追いかけた訳ではない。チビ太に釣られて追いかけたのであった。ホーンラビットのあの大きな角で突かれたら下手したら死んじゃうかもしれない。これはゲームじゃないんだ。リアルなんだ。血も出りゃケガもする。ハッキリ言ってめっちゃ怖い。怖すぎるからやけくそで走っているのもあるんだ。チビ太はさすがは魔物と言うところである。勇敢である。チビ太がいるからわたしもこの恐怖に耐えられている。
チビ太の前に二匹のホーンラビットが飛び出した。速い。構える間もなく一気に二匹がチビ太に襲いかっかった。
でもこれはチャンスだ。獲物を狙う瞬間は最も大きな隙ができるもんだ。わたしは一匹のホーンラビットを後ろから斬りつけた。手ごたえありだ。アメリからもらった剣は良く切れた。ホーンラビットを簡単に一刀両断した。
「ファイアーボール!」
もう一匹のホーンラビットを仕留めたのはチビ太でなくクロエの魔法であった。飛び道具の魔法は最強だと思ったら、ホーンラビットみたいな動きの素早い魔物に当てるのは大変難しいと言う事だった。魔法は魔法で一筋縄ではいかないって事か。クロエの腕も良いがチビ太がホーンラビットの動きを止めたおかげもあったらしい。頑張ったぞ。チビ太。
「やったね!凄いよ!ホノカ!クロエもね!」
2号がすかさず褒めてくれた。うれしい。わたしは褒められて伸びるタイプだからね。
ポンコツだと言う話だけど、クロエもジュンもわたしからしたらとんでもない手練れだ。2号にしてももっと強いらしいからわたしにとっては雲の上の人だ。頑張って早くみんなに追いつかないと。せめてポンコツコンビの二人には追い付きたい。長い道のりになりそうだけど。
「チビ太も頑張った。」
2号はチビ太まで褒めてくれた。感動したわたしはチビ太に伝えた。
チビ太は照れたのか鼻の下をこすっていた。
それにしてもホーンラビットしか出ないこの階層では、わたし達のパーティは豪華すぎる戦力なんだけど、一番下っ端のわたしとチビ太の戦力に合わせるとこれ以上は強い敵と戦えないんだ。残念。わたしがみんなの足を引っ張ってるよね。何回も言うけど早くみんなに追いついて戦力になれるようにならないと。
「また2匹よ!前の草むら!」
しばらく歩いたところで2号の警告がまた発せられた。
『チビ太!止まって!前の草むらに2匹!』
チビ太が走り出す前にわたしは制した。やみくもに突っ込んでいくだけではいくら魔物のチビ太とは言え危険すぎるからだ。
「2号!どこ?詳しく!」
「チビ太の前、5メートルほどの所!ちょっとこんもりとしている所!」
2号に言われた事をチビ太にも伝えた。
『いい?チビ太。そこのちょっとこんもりしている所に2匹隠れてるから、剣を抜いてゆっくり近づいて。』
わたしの言いつけを守りチビ太は今度はゆっくりと近づいた。
『止まって。』
チビ太が止まると同時にわたしはあらかじめ拾っていた石をホーンラビットが隠れているであろう草むらに投げつけた。
クエー!
こちらに奇襲をかけようと息を懲らして潜んでいたホーンラビット2匹は逆に石による奇襲を受けてパニックになったのか奇声を発しながら飛び出した。先程のチビ太に対する奇襲とは違い、今度は無防備に飛び出しただけであった。要するに隙だらけであった。わたしとチビ太は楽々とホーンラビットを斬り伏せる事ができた。
「どう?ホーンラビットごときならわたしとチビ太だけで良いんじゃない?みんな休んでて良いよ。」
ホーンラビットとの戦闘で興奮していたわたしはつい調子に乗り大きな事を言ってしまった。
「なに!ダンジョンなめるなよ!」
クロエがわたしにくってかかって来た。もちろん通訳の2号を通してであるがめんどくさいからその辺は省く。2号が日本語で私だけに伝えてくれたけど、クロエはダンジョンで命を落として幽霊になったらしい。だからダンジョンの怖さを誰よりも知っているからこそ、調子に乗ってるわたしが許せないみたいだった。調子に乗ってると言うよりみんなに少しでも追いつこうと背伸びしてるだけなんだけどね。
「まあまあダンジョンの危険性を一番知っているクロエの言い分も分かるけど、ここはアメリだって一人だけで腕を磨いた場所だ。ホノカとチビ太の二人だけでやらしてみせても良いんじゃない?いざと言う時はわたしたちがバックアップするから。」
2号がなだめてくれたおかげでクロエも渋々と納得したようだった。
「あ。でもさすがに不意打ち喰らったら対処できないから、2号は魔物の警告を変わらずしてよ。」
「わかった。わたしたちはそれ以外は声も手も出さないけど、ピンチの時はすぐに言うんだよ。死んだら元も子もないからね。」
「もちろんわたしだって死にたくないし、痛い目にもあいたくないからいざと言う時はすぐに助けを求めるよ。だけどそれまではチビ太と二人で頑張るから。」
2号がクロエとジュンに伝えてくれたおかげで2号を含めた3人は高みの見物を決めたのかわたしとチビ太から少し離れて付いてきた。2号達に見守られていると言え、ここからはわたしとチビ太だけで戦わなければならない。わたしはチビ太にその旨を伝えるとチビ太の両手を握った。頑張るぞ。チビ太。
ピンチはすぐにやってきた。
「ホノカ!チビ太の前方10メートルホーンラビット!4匹!」
2号の警告を聞くまでもない。目視でもホーンラビットが4匹が通路で待ち伏せしているのが見えた。これはやばすぎるでしょ。わたしが見えると言う事は当然向こうにも見えてるよね。さあどうしたもんでしょ。わたしとチビ太がまともに戦って倒せるのは2匹が限界でしょ。くやしいけど2号達の力を借りるしかないのか。でもそんな事したらまたクロエにダンジョンなめてるからだとか言われそう。
「ホノカ!大丈夫?手を貸そうか?無理したら駄目だよ!」
心配した2号が声を掛けてくれた。2号のやさしい心遣いはうれしいけど、クロエに対する意地もあるわ。ここはわたしとチビ太だけでピンチをしのがないと。
「大丈夫!助太刀無用!」
もうこうなったらやるしかない。わたしは半ばやけくそでチビ太と二人で歩き出した。
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