第333話 チビ太
わたしの剣は無様に空を斬り地面をたたきつけてしまった。しまった反撃が来る。剣を戻す間もなく、わたしは左肩に衝撃を受けた。ゴブリンの木の棒による攻撃を受けてしまった。
「この野郎!」
今度は剣を横に払ったがまたもや空を斬ってしまった。ゴブリンがかがんでよけたのだった。
バシッ。
ゴブリンの反撃は今度は盾で防げたと安心する事はできなかった。ゴブリンの打撃は一発だけじゃなかったのだった。
バシッ。バシッ。頭と腹に連撃を受けたところで繰り出したわたしの破れかぶれの出鱈目の反撃に恐れをなしたのかゴブリンが距離を取った。いや、ゴブリンの作戦かも知れない。
「どうだ。あまり痛くないだろう?」
何を言ってるんだ糞アメリめ。棒で殴られたら痛いに決まってるじゃないか。でも着込んだ防具のおかげでケガは防げそうね。
「まともに行ったらダメよ!さっきのスライムみたいに工夫しないと!」
工夫か。さっきは石を投げたんだっけ。そっかそうだよね。これは剣道の試合じゃないんだ。やるかやられるかの殺し合いなのよね。
わたしは左手に持った盾を放すと同時にしゃがみこんだ。
わたしの動きにチャンスと見たゴブリンが棒を振りかぶって襲い掛かって来た。
わたしは今度は石でなくて砂をゴブリンの顔目掛けて投げつけた。旨い具合に目つぶしになったようでゴブリンの攻撃は空を斬った。
今度はこっちのチャンスだわ。わたしは砂で目がくらまされたゴブリンを滅多打ちにした。
「止めな!もう死んでる!」
アメリに止められるまでに何回斬っただろうか。そこには血まみれでズタボロになったゴブリンの死体があった。
「あれ?ホノカ泣いてるの?」
「だって2号。わたしがこの子の命を奪っちゃったのよ。しかも卑怯な手で。」
「仕方ないよ。向こうも殺す気で来てるんだから。」
「これがオレ達の仕事だ。嫌なら奴隷に戻るしかないよ。」
「わかった。2号にアメリ。でもせめて罪滅ぼしでこの子のために祈らせて。」
さっきまで殺し合ったゴブリンだったがその動かない姿を見て哀れに思いわたしは目を閉じてその冥福を祈った。
「ねえアメリ。ゴブリンは魔石になったりしないの?」
「うん。ダンジョンの外では基本は死体のままだね。たまに魔石も一緒に落ちてたりするけど。」
スライムは水風船みたいなものだから死体は残らないみたいだった。
「じゃあ生き返ったりする?」
死んだはずのゴブリンがよろよろと立ち上がろうとしていた。
「何をバカな事を。あ!とどめをさしてやれ!」
「待って!この子にはもう殺意はないわ。わたしにはわかるの。それよりも誰か。この子を回復して!」
わたしの要請でアメリがヒールをかけると瀕死状態だったゴブリンが完全復活した。
「アメリ。どういう事なの。説明して。」
事態を把握しきれないサオリがアメリに説明を求めた。
「どうやら今、ホノカの第二のチート能力が開花したみたいだな。」
「へ?チート能力?」
何もした覚えのないわたしは何を言ってるのかわからなかった。
「結論から言おう。ホノカはそのチート能力の蘇生で今ゴブリンを生き返らせたんだよ。」
「わたし、祈っただけだよ。」
「魔法ってそんなもんだよ。唱えたり祈ったりするだけさ。」
「そう言えば前にカニが生き返った事もあったよな。あれもホノカがやったと言う事だ。」
「じゃあ、ホノカがいればわたし達生き返れるって事?」
「そうだよ。サオリ。オレ達はホノカがいる限り不死身って事だ。」
「でもホノカのテンプテーションがわたし達に効かなかったようにわたし達を生き返らせられないんじゃないの?」
「うん。その可能性もあるな。サオリ。こればっかりは死んで実験するわけにもいかないし。ホノカのレベルをあげて蘇生の能力も上げるしかないだろうな。」
「それでこの妙にホノカになついてるゴブリンはどうするのよ?またホノカに殺させる?」
「サオリ!冗談はよして!チビ太はわたしの仲間よ。」
「ありゃりゃ。名前まで付けちゃったよ。ホノカの少ないHPとMPで蘇生に名付けまでして。」
「え!それが・・・・」
どうしたと言おうとしたところで目の前が突然暗くなって気を失ってしまった。
*
「う、うーん。」
目を覚ますとそこはテントの中だった。みんなは外に出かけたのか誰もいなかった。いや、いた。ゴブリンが一匹わたしを心配そうにのぞき込んでいた。
「チビ太。」
『ダイジョブ?アルジ。』
頭の中に直接チビ太の声が響いてきた。
「え!えー!ゴブリンが日本語しゃべった。」
『ニンゲンノコトバ、ワカラナイ。デモアルジコトバワカル。』
『え!これって念話って事?』
わたしは今度は口に出さずに心の中で独り言を言った。
『ネンワ?』
『念話って今、あなたとわたしがしゃべっているのが念話よ。心の中で話しているのが。』
『それよりあんた。大きくなってない?それになんか人間っぽい顔になって。え!あんた女の子だったの?』
『ワタシ、オオキクナッタ。ワタシ、メス。』
身長1メートル弱のゴブリンだったチビ太はいつの間にか1メートル20程の小学生ぐらいの身長になっていた。それよりも特筆すべきはその立派な乳であった。これは大変な事が起きたと思ったわたしはテントを飛び出した。
ちょうどどこかに出かけていたアメリ一行が帰って来たところだった。
「ホノカ。具合はもう良いのかい?」
「あ、アメリ。そんな事よりも大変なんだよ。これを見て。」
わたしは一緒にテントを出てきたチビ太をアメリの前に出させた。
「ありゃー。これは服を着せてやらんとかわいそうだね。」
「え!そこ?」
のんびりした事を言うアメリに思わず突っ込んでしまった。そんな事より身長が伸びて人間っぽくなってんだけど。
「これチビ太なの?わたしが倒したゴブリンと別人なんだけど。」
「ああ、そういうことか。名前をもらってホブゴブリンにクラスチェンジしたんだよ。チビ太は。」
「それでわたしと会話できるようになったんだね。」
「え!そんな事までできるの?」
今度はアメリが驚いていた。
「じゃあこの子はそんなに頭が良いんだ。」
「うーん。片言の会話程度だけどね。普通のゴブリンよりは良いと思うよ。」
「じゃあ、オレの言ってる事は分かるのかな?」
「それは無理みたい。会話ってもわたしとの念話だから。」
「念話か。良いじゃん。口にしなくても意思疎通ができるんだから。でもホノカのスキルはティマーでなくて召喚なんだけどな。おかしいな。」
「召喚は分かるけどティマーって何?」
「ティマーって魔物を仲間にして一緒に戦う人の事さ。」
「ほんとだね。チビ太を仲間にしたわたしはティマーだよね。召喚ってどこか異世界から魔物を召喚する魔法でしょ。あ、なんか空間の扉みたいなものが開いたわ。」
わたしの前に扉みたいなものが現れ、それが開くとチビ太がそこに吸い込まれて行った。
「え!消えた!」
目の前で突然チビ太が消えたのでアメリを始め美少女戦隊のみんなはビックリしていた。
「え!どうなったの?チビ太はもういないの?」
サオリが心配そうに言った。
「大丈夫。大丈夫だと思う。」
確信はないがわたしにはチビ太を呼び戻せる気がした。
「チビ太!」
わたしが呼び掛けるとチビ太が突然現れた。
「凄い!今のが召喚か。だけどゴブリンじゃなくてもっとでかくて強い魔物を召喚しようよ。」
サオリが興奮して言った。
「うーん。オレのアイテムボックスみたいな空間魔法の一種か。その異世界の部屋は広いのかい。チビ太に聞いてみてよ。」
アメリの問いかけにわたしはチビ太に確かめた。
『今行った所は広いの?』
『コノテントホド。』
「なんかこのテントほどの広さだって。」
「テントー?ゴブリン3匹ぐらいしか入らないじゃん。召喚士と言ったらドラゴンみたいな強くて大きな魔物を召喚して敵を一掃するものでしょ。それがゴブリン3匹って使えねえ。」
「なによー!サオリ!わたしのチビ太をバカにするの?」
「チビ太はバカにしてないわよ。ホノカ。あんたが使えねえって言ってるだけよ。」
「な、なんだと!」
「まあまあ、ホノカ冷静に。サオリも言い過ぎだぞ。ホノカはまだ駆け出しなんだから。」
アメリが止めてくれなかったらわたしは敵わないと分かっていてもサオリに殴りかかっていたであろう。
「ごめん。言い過ぎた。わたしにとって召喚士ってそれだけ特別な物だったの。わかるでしょ。ホノカも。ゲームの召喚士ってかっこいいじゃない。バ〇ムートなんか最高じゃないの。」
「こっちもごめん。チビ太とわたしがバカにされてると思ってしまったよ。」
でもサオリが好きなのは召喚士じゃなくてバ〇ムートじゃないの。
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