第332話 ホノカ初戦闘
船上生活も三日目の朝にしてついに目的地であるストーン島が見えてきた。島と言っても小島ではない。広大な原生林とそれを取り囲むようにしてある三つの辺境貴族領で構成された巨大な島であった。中心部に貴族領がないのは山岳地帯で交通が不便である事の他に魔物が多すぎて人間の集落が作りづらい事にあった。つまり中心部は魔物の楽園であると言う事であり、それを取り囲む三つの独立国があるようなものであった。港のあるバロー伯領は他の二領に比べ、経済的にも交通的にも自由な国であった。
黒メロンはバロー伯領の特産品であるのでそれこそそこらじゅうが黒メロン畑であった。アメリ達一行は市場や商店でなくてそこらじゅうにある黒メロン畑の主である農家から直接買い付けていた。よそ者でアメリ達に売る事に最初は難色を示していた農民達も目の前に出された現金と大量の買い付けに手のひらを返した。ついでに言えばその大量の黒メロンを次々と回収するアメリの能力に目を丸くしていた。
「さて。これで当初の目標である黒メロンの買い付けは終わったわけであるが。これからどうするかね?」
「どうするかねってどうせ行くんでしょ?」
良く冷えた黒メロンを食べている時にアメリとサオリが話していたけど行くってどこかしら。
「どこ行くの?」
「この塀のあっち側よ。」
わたしの問いにサオリが答えてくれたけど、その塀は人間の領域と魔物の領域を分ける物でずっと向こうの見えない所から延々と続いていた。まるで中国の万里の長城のようであった。
「あっち側には何があるの?」
「山と原生林かな。」
今度はアメリが答えたけど山と原生林に何しに行くのかしら。
「そんなところにキャンプでもしに行くの?」
「もうめんどくさい奴だな。ホノカも分かってるだろ?魔物退治だよ。」
「え!やっぱり。でもわたしみんなのように戦えないよ。」
「だからこそ行くんだよ。魔素の関係で人里に近い所ほど魔物は弱いからね。ホノカの訓練のためだよ。」
「わ、わかった。」
わたしの訓練のためだと聞いてわたしはちょっと緊張した。
「まあ、そんなに緊張する事ないよ。どうせ最初に出てくるのはスライムとかだから。それにオレ達もいるから、大丈夫。」
スライムってあのねばねばした奴だよね。ゲームのスライムは可愛らしいけど現実のはきもいし恐いんだよね。
塀の高さはゆうに2メートルはあると思われたが、そんな塀をアメリはわたしを抱えて軽々と超えてみせた。塀の向こうは思った通り何もなかった。いや、正確には何もないわけでなく見渡す限りの草原が広がっていた。その草原に人の通った後か獣道かは分からないが小さな道ができていた。その小さな道をアメリを先頭にわたし達美少女戦隊一行は歩いていた。
「木があまり生えてない所をみるとここはあまり雨が降らない所みたいだな。だから黒メロンが良く育つんだな。」
「そうよね。地球のスイカだって元々は砂漠の植物らしいし。」
アメリとサオリが黒メロンのうんちくを話しているけど、そんな事よりも暑いんだけど。
「うん?ホノカ暑そうだね。よし!ここにベース基地を作るか。」
「え!大丈夫だけど。」
わたしはちょっと強がってみせたけどもう歩かなくても良いのはありがたい。
例によってアメリがアイテムボックスからキャンプ道具を次々と出した。テント二張りを完成形で次々と出したのには、分かってはいたが驚いた。テント内で軽い昼食を摂るとみんなは横になった。わたしもいつの間にか眠っていたみたいだった。
「ホノカ!起きて!」
わたしを起こした少女であるがいつものアメリとは雰囲気が少し違っていた。どうやらもう一人のアメリの人格である2号みたいだった。眠っている間に人格が入れ替わったみたいだった。
「うん?何?」
「しー。静かに。みんなお休み中だから。どうやらわたし達が作った昼飯の匂いに釣られて魔物が集まってきたみたいなの。」
「え!それならみんなを起こさないと。」
「大丈夫。スライムしかいないから。二人で十分よ。それにホノカの訓練も兼ねているから。」
「わ、わかった。」
いきなりの戦闘開始でわたしは緊張しながら剣と盾を持って立ち上がった。
「もしかしてホノカは魔物との戦闘は初めて?」
「う、うん。ゴブリンに一方的に追いかけられた事はあるけど、戦うのは初めてだわ。」
「そうか。あいつ(アメリ)。厄介な事をわたし(2号)に押し付けてきたわね。」
「え!大丈夫なの?」
「大丈夫。大丈夫。死にゃせんから。とりあえずテントを出るよ。」
「お、おう。」
みんなを起こさないようにわたし達二人はそっとテントを出たけど、みんなを無理にでも起こした方が良かったんじゃない。
「あそこの木の上に一匹いるよ。」
テントを出ると2号は前の木を指さして言った。
「え?」
「だからホノカがやるんだよ。」
わたしが固まっていると2号がちょっとイラついて言った。
「どうやって?」
「それはホノカが考えるの。わたしはホノカのピンチには助太刀するけど、基本的に戦うのはホノカ一人よ。」
わたしは甘かった2号がみんなやっつけてくれると思っていた。
「わ、わたし戦う自信ないよ。」
「甘えないで。わたしが戦えば簡単だけどそうしたらホノカは強くなれないでしょ。」
「わ、わかった。」
どうやらやるしかないみたいだった。
「あ、一応言っとくけど相手はスライムよ。でもスライムだからって舐めたらだめよ。顔にへばりつかれたら窒息するから。」
窒息したら死んじゃうじゃない。さっきは死ぬ事ないって言ったくせに。とりあえずは顔にへばりつかれないようにするのが大事ね。でもあんな鈍い魔物にへばりつかれたりするものかしら。あ、木の上にいると言ってたわね。きっと木の上から飛び降りて下を通る物に不意打ちするんだわ。危ない。危ない。不用意に木に近づいてはだめだわ。ここは魔法でもかまして木の上から引きずり下ろしたい所だけど、わたしには魔法は使えないわ。わたしは辺りを見渡した。
「どうやら準備できたみたいね。それじゃ、ゴー!」
「おう!」
わたしは2号に背中を押されて木に近づいた。そして拾った石をありったけ木に投げつけた。そのうちの一つが運よく当たったみたいで緑の粘膜状の魔物が一匹木の下に落ちてきた。
「うわー!」
後は滅多打ちをした。気づいたらスライムは跡形も無く消えて光輝く石が落ちていた。
「おめでとうホノカ。初勝利だね。」
ふいに声を掛けられて後ろを振り返ると声の主の2号だけでなくサオリ他美少女戦隊が勢ぞろいしていた。それどころか、いつの間に出したのか2号の式神であるアメリまでいた。
「どんな気分だい?魔物狩りは?」
光輝く石(後で知ったけど魔石と言うらしい)を拾いながらアメリが聞いてきた。
「どんな気分って、そうね、やったーって感じかな。」
わたしは剣を上に掲げながら答えた。
「魔物とは言え、一匹の生命を奪ったんだけど罪悪感は無いの?」
サオリったら嫌な事を聞いてくるわね。
「うーん。罪悪感はそりゃあるけど、血も出なかったし、リアルじゃないの。まるでゲームで敵を撃破したみたいな感じかな。」
「ゲームか。ゲームだと思ってりゃ、ゴブリンも怖くないかもよ。」
アメリの指し示した所には、あの異世界転移初日に散々わたしを追っかけ回してくれた憎きゴブリン野郎がいた。
「え!あれもわたし一人でやるの?」
「当然。」
アメリが冷たく言い放った。最初の内はスライムを倒して力をつけるんじゃないの?ゴブリンってなりは小さいけど、立派な鬼よね。棒のような物を持ってるし、黙って斬られたりしないよね。
「ゴブリンはね、力は弱いけどけっこう素早いから気をつけて。」
2号がアドバイスしてくれたけど、素早いって事は当然わたしのへっぽこ剣は当たりっこないよね。
どうしたもんかと考えていたらこいつは無謀にもわたし達に向って突進してきた。これはやるしかないじゃないの。
「そら行け!」
またもや2号に背中を押されてわたしは飛び出した。
「うわー!」
もう気合しかないわたしは思いっきり剣を振り下ろした。
ザスッと言う鈍い音を発して切裂いたのは地面だった。案の定わたしの全力の剣は避けられたのであった。
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