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第331話 お代官様

 



 わたしの借金って今いったいいくらあるのかしら、金貨何枚とか言われてもピンと来ないよね。幸いな事に飲み食いも宿代も移動する運賃も美少女戦隊持ちだからお金がかからないから良いんだけどね。この世界に来てからお金を自分で払った事もないから、ますます分からないわ。


 分かっているのは奴隷一人分と同じぐらいの借金だと言う事だけ。まあこの借金は言うなればわたし自身の値段と言う事ね。でもわたしの価値はただの奴隷一人分じゃ足りないわよ。だからもっともっと借金してやるんだから。


 なんでこんな事を言ってるかと言うと、釣りが終わった後で船室で行われたポーカーで散々カモにされたからなの。アメリ達がトランプで遊び始めたから、この世界にもトランプがあるんだと思ったらアメリ特製のトランプだった。ルールもアメリとサオリがリオとアーリンに教えていたみたいだった。ポーカーらしき物をしていたからわたしも混ざる事にしたの。でも忘れていたわ。この人たちが何でも金を賭けて勝負するギャンブル狂だと言う事を。初めは初心者のわたしに合わせて銀貨一枚とかのかわいいベットだったの。それでビギナーズラックなのか不思議とわたしは勝ち続けてたの。銀貨30枚も貯めて、これでいくらかでも借金を返せるわってほくそえんでいたら大きな間違いだった。わたしが親になったとたんみんな上限の金貨一枚を賭けてきわ。ようするに完全にわたしを潰しにきたのよ。ええそれでも撃破したわ。アーリン以外はね。みんな降りて行って最後はアーリンと一騎打ちになったの。この子も美少女だけど、なんか表情が読めないのよね。顔色一つ変わらないから良い手なのか悪い手なのか全く読めないの。アメリとかリオとかは感情が顔に出るから楽勝だったんだけどね。それでアーリンに巻き上げられたって事なの。親を代わってからもツキが落ちたのか散々だったの。良い手が来てもビビって降りたり、逆に悪い手で勝負したりして。終わってみればアーリンの一人勝ちだったけど、わたしも少なからずマイナスだったと言うわけよ。いくら負けたなんか考えたくもないからよく覚えてないんだけど借金が増えたのだけは分かっている。


「どうした?暗い顔して。」


 アメリが心配して声を掛けてくれたけど、わたしの暗い顔の原因はほとんどあんたのせいですから。


「いや。借金がちょっと返せれるか。」


「あ、そんな事。心配ないよ。ちょっとダンジョンに潜れば簡単に返せるから。」


 アメリはこの世界でいかに冒険者が儲かるか力説した。


「え!そんなに儲かるならみんな冒険者になるんじゃないの?」


「ならないよ。だってハイリスクすぎる商売だからね。いくら儲かっても死んだらおしまいでしょ。」


「そうだよね。わたし冒険者を辞退しても良い?」


「だめ!その場合は借金を一括で返してもらいます。」


「そんなの無理に決まってるじゃないの。だからわたしを借金漬けにしたのね。この悪徳商人。」


「ばれたか。ばれたならしかたない。皆の者!出合え!出合え!」


「出合えって、わたしの事?」


 サオリが会話に参加してきた。


「また時代劇ごっこしてるのね。好きね。」


 サオリに聞いた所によるとアメリはこんな顔をして日本の時代劇が大好きで、なかでも悪徳商人が大好きなんだそうな。よくサオリをお代官様にして時代劇ごっこをして遊んでいるそうな。わたしはその悪徳商人にリアルにがんじがらめにされているのだけど。


 まあでも冷静に考えたらわたしがこの世界で生き残って行く方法は冒険者にでもなるしかないんだよね。言葉がまったく通じない異邦人だもの、いつかみたいに奴隷商人に捕まって性奴隷にされるのが関の山だろうしね。本当にアメリ達美少女戦隊に救ってもらって良かったわ。アメリによるとこれは偶然でなくて女神様のお引き合わせによるものだそうな。日本にいる時は神も仏も自分の都合の良い時しか祈らなかったけど、これからは女神様の事を信じて毎日お祈りするわ。


「こんな狭い所で悩んでないで外の空気を吸いに行こうぜ。」


 誰のせいで悩んでると思ってるんだ。外の空気を吸いに行こうぜってたばこを吸いに行く親父みたいな事を言ってまた釣り勝負に誘い込むつもりね。


「悪いけど釣りはもう・・・・・。」


「誰が釣りをすると言った。いいから外に出ようぜ。みんなもな。」


 そう言ってアメリはわたしの手をひっぱり半ば無理やり船室から甲板へ引きずり出した。


「え!」


 わたしは思わず息をのんだ。


「どうだ?凄いだろう?」


 凄いなんてものじゃなかった。わたしはこんな見事な星空を見たのは生まれて初めてだった。満天の星が本当にキラキラと光り輝いていた。上を見上げれば天の川らしき物もはっきりと分かった。


「凄い。凄い。さすがは異世界ね。星空の美しさが段違いだわ。」


「本来なら日本でもこれくらい星がはっきりと見えるはずなんだけどね。」


「え?そうなの。」


「うん。光の害と書いて光害が酷いからね。日本は。」


「そっか。ここは異世界だから明るい町は無いよね。ましてや海の上だし。」


 わたしは改めて夜空を眺めた。


「じゃあそう言う事で、今から晩御飯の準備をするから手伝ってくれ。」


「はい。お代官様。」


 晩御飯は甲板の上で食べるんだ。景色も良いし、潮風が気持ちいいし、最高の場所だね。


「あ、でも。わたし、料理できないよ。」


「大丈夫。マイフレンド。バーベキューをするから調理はしなくて良いよ。テーブルや椅子を並べてくれれば良いだけだから。」


 そう言ってアメリはテーブルやら椅子やらを次々にアイテムボックスから取り出した。わたしはそれを順番に並べていった。


「よし!次はこれだ。」


 そう言って今度は小さなコンロをふたつ取り出すとテーブルの上に置いて火を着けた。なんでも魔導コンロと言って魔石を燃料とするコンロらしいけど、日本のガスコンロよりも便利かもしれない。なんせガス漏れもないし、魔石は凄い長持ちするしね。その分買うと高いらしいけど、冒険者のアメリは魔石をそれこそ売るほど持っているからね。燃料代もただなんだ。


 わたしはそれぞれのコンロに金網を置くと、みんなに皿とフォークを配った。あ、日本人のわたしとサオリとアメリは箸もね。飲み物はやはり冷たいエールね。わたしがエールとコップを並び終えると


「まずはエールで乾杯だ。ホノカ、みんなに注いであげて。」


「はい。」


 アメリに言われてわたしはみんなのコップに良く冷えたエールを一人一人に注いで回った。最後に自分のコップにも注いだ。


「よし!乾杯だ!」


「「「「乾杯!」」」」


 アメリの音頭でみんなで乾杯した。わたしにはお酒の味は良く分らないけど、その苦い酒は冷たく喉に心地よかった。のど越しが良いってこういう事かしら。


「じゃあまずは肉から行こうか。ホノカはたれと塩をみんなに配って。」


 そう言ってアメリはたれと塩の入った壺と小皿を取り出した。この小皿にたれか塩を小分けにしろって言う事ね。


「じゃあ肉を配るから勝手に焼いて食えや。」


 そう言ってアメリは肉の塊を切り始めた。なんか牛肉ぽいけど何の肉かしら。この世界の人達は魔物の肉も平気で食うから何の肉か怖くて聞けないよね。アメリが大皿に盛った肉を各自が取って網の上で焼くスタイルだった。これはバーベキューと言うよりは焼肉ね。わたしも一切れもらって焼いてみたけど、これが美味いの。こんな美味い肉にへたなたれはいらないわ。塩でシンプルに肉の旨味自体を味わうのが通ってものよ。


「どうだ。ホノカ。美味いだろ?」


「うん。美味い。こんな美味い肉初めて食べたわ。」


「何の肉か知りたいだろ?」


「え!牛?」


「ブー!正解はこれでーす。」


 そう言ってアメリがアイテムボックスから何かを取り出した。


「なんだ。ウサギさんか。わたし初めて食べたよ。」


「うん。このウサギさんがこれからしばらくの間のホノカの相手ね。」


「相手?あっ!」


 アメリがそのウサギさんの頭を見せてくれた。


「その角?」


「うん。ホーンラビットと言ってね。オレも駆け出しの頃はこの角には苦労させられたよ。」


 やっぱり魔物の肉だったのね。でも魔物も美味いんだ。それよりも苦労って。


「もしかしてその角で突進してくるの?」


「おうよ。こいつが厄介でさ。革の防具なんか簡単に突きぬけてくるんだよ。」


「え!そんな物騒な物で突かれたら初心者のわたしなんて死んじゃう。」


「大丈夫。革の鎧の下にはこれを着てもらうから。」


 そう言ってアメリは金属で編み込んだチョッキみたいな物を投げてよこした。


「これはもしかして忍者とかが着ていた物ね?」


「そう。クサビ帷子。」


 わたしは試しに服の上に着てみたが思ったほど重くはなかった。


「あれ?意外と軽い。」


「うん。鉄製のは重いけど、これは軽金属でできてるから軽いだろ。その分高いけどね。」


「高いって、やっぱり借金?」


「うん。借金。毎度アリ。」


「ホノカ。そんな顔する事ないよ。わたしとアメリが組んだばかりの頃はお金がなくてこんな高い物買えなかったんだから。あんた、最初から恵まれてるよ。」


 わたしが沈んだ顔をしているとサオリにたしなめられた。わたしは借金まみれだけど良い防具も武器も装備できるんだわ。サオリの言う通り恵まれてるのかもしれないわね。


「まあまあ。魔物を見てびびったのもあるんだろ?こんなのは雑魚だから。心配御無用。これでも食って元気出して。」


 心配御無用ってアメリ、あんたがわたしをびびらせたんじゃないの。アメリが次にテーブルの上に置いたものはカニらしかった。らしかったと言いうのはカニしては異常に大きいからだ。足を広げた大きさはゆうに一メートルはあるだろう。


「あれ!こいつまだ生きてるじゃん。というか仮死状態だったのが生き返ったな。」


 そんなのんびり状況分析している場合じゃないわ。起き上がったお化けガニがわたしに向って来るんですけど。


「えい!」


 わたしの向かいに座っていたアーリンがフォークをお化けガニに突き刺した。


「あ。アーリン、悪いけど足をもいでくれる?」


「はい。アメリさん。」


 アメリに頼まれてアーリンはお化けガニの両方の爪を掴んだ。爪と言ってもアーリンの顔よりも大きいんですけど。あんなので挟まれたらアーリンの首が飛んじゃうよ。


「せーのっ!」


 アーリンが気合を入れて両方の爪を外側に引っ張った。


 バキッと言う嫌な音と共にお化けガニの両方の爪は取れてしまった。爪を取られて大人しくなったお化けガニの足をアーリンはたんたんともいでいった。足だってアーリンの腕より太いんですけど。これだけ大きくて太いと足や爪をそのまま焼くわけにいかないよね。アメリが見事な包丁さばきで適度な大きさに捌いてくれたわ。それを網の上で殻つきのままで焼いたの。とたんに香ばしい匂いが立ち込めたわ。そのまま食べても良いんだけど、なんと驚く事にアメリったら醤油まで用意していたのよ。その醤油をちょっとたらして、まるで焼き蛤でも食べるかのような感じで食べたら、これが美味いのなんのって。見た目からしてタラバガニに近いのかと思っていたら、味はズワイガニね。カニ好きのわたしは幸せだったわ。


「おい。お前ら、野菜も食わないとダメだぞ。」


 そう言ってアメリは今度はポテトサラダまで出してくれたわ。マヨネーズまで自作したのかしら。本当にアメリって食に関しても凄い人だわ。美少女戦隊にいる限り異世界でも毎日美味しい物が食えるなら借金漬けのままでも良いかも。


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