第327話 釣りバトル
「ホノカ。大丈夫?顔色悪いけど。」
心配したアメリが声を掛けてくれたけど、いかんなあ。不安が表情に出てしまったみたいね。不安な時こそ何でもないふりをしなくっちゃ。
「大丈夫。船にちょっと酔っただけよ。」
「船に酔ったんじゃなくてさっきの魚にビビったんでしょ?」
わたしのとっさの嘘はサオリに即行で見破られた。
「大丈夫。マイフレンド。何のためにオレがいるんだよ。オレが絶対に助けるから。心配いらないよ。ホノカ。」
そうだった。わたしにはアメリと言う強い味方がいたんだった。彼女はわたしに賭けている以上は全力でわたしをフォローしてくれるはずだわ。
「アメリ。ありがとう。」
「お礼は大物を釣ってから言いな。」
わたしの感謝の言葉はぴしゃりとはねのけられた。厳しいな。でも頑張ろう。
「じゃあ、どうしたら大物釣れるかな?」
「うーん。こればっかりはほとんど運だからなあ。リオより大きな魚が釣れますように祈るしかないんじゃない。」
「えー!運なの?」
「そ、運。でもさ。ホノカは異世界転移の初日にオレ達に拾ってもらえた強運の持ち主じゃない。へっぽこリオよりは絶対に大きな魚を釣れるよ。」
リオがへっぽこかどうかは知らないが、そう聞くと確かにわたしは運がいい方なのかもしれない。でも逆に言えば、アメリ達に拾われた事で運を使い果たしているかもしれないわ。
そうこうしてるうちにリオの竿に当たりがあったみたいだった。
「おっしゃー!」
掛け声とともにリオは思いっきり合わせた。竿が満月のようにひん曲がった。この竿の曲がり具合からして大物に違いなかった。
「どうやらリオに先を越されたみたいだな。ホノカ。邪魔にならないように仕掛けを上げて。」
「はい!」
わたしが仕掛けを上げようとリールを巻いた瞬間だった。衝撃がわたしの竿にも来た。
「アメリ!わたしの竿も当たってる!」
「え!よし!合わせて!」
アメリに言われるまでもなくわたしは渾身の力で竿をあおった。手ごたえありだ。ルアーのフックが魚の上あごにがっちりと刺さったであろう。わたしの竿も満月のようにひん曲がった。こいつも間違いなく大物だ。
「ホノカ!竿を立てて!」
「わ、わかってるけど!」
竿を立てないといけないのはわたしも十分に承知しているが、わたしの力では立てられそうにもなかった。
「しかたないなあ。」
そう言うとアメリは竿を一緒に持ってくれた。さすがはA級冒険者だ。魔物相手にも力負けしないのにたかが魚に負けるわけがなかった。竿は軽々と立てられた。
竿は立てられたけど今度は糸が持ちそうにもなかった。ヒューンと嫌な音で泣いていた。
「ドラッグを緩めて!」
なんとアメリ手製のリールには糸の巻き取りを調整するドラッグまで付いていた。
「どれ?」
「左横のダイアル。」
わたしはリールの横のつまみを少しだけ緩めてみた。
ジジジジと言う音がして糸が少しずつであるが出て行くのがわかった。これで少なくとも糸を切られる心配はなくなった。
だがどんどん糸が出て行っている。このままではいつか糸が尽きてしまうだろう。
「リールを巻けよ!」
「わ、わかった!」
リールのハンドルを渾身の力で回そうとしたがびくともしなかった。
「だめ!無理!」
「バカだな!ただ巻いても巻けるわけがないだろ!なんのためにお前は竿をもってるんだよ。」
そう言ってアメリは竿をのけぞるぐらい大きくあおった。
「竿を前に戻すからその瞬間に巻くんだ!」
そう言ってアメリは竿を持つ手を少し緩めた。竿が戻った分リールが巻けた。なるほど竿で引っ張って引っ張った分糸が巻けるんだ。
「よし!コツは分かったね?腰を落として!竿を引っ張るのは手伝うけど、リールは自分で巻くしかないからね!」
「おう!」
「じゃあ行くぞ!そりゃ!」
アメリは掛け声とともに竿を思いっきりあおってくれた。わたしは竿を倒しながらリールを巻いた。これなら非力なわたしでもリールが巻けた。竿を倒しきると竿の弾力を生かせなくなって糸が切れてしまう。そうなる前にアメリが再び竿を大きくあおってくれた。後はこの繰り返しだ。もちろんドラッグで出て行く分もあるから簡単には釣り上げられないがなんとか姿が見えるまで海の中から引きずり出せた。でかい。さっきのジャンプした奴ほどではないが、それでもゆうに一メートルはあるだろうと思われた。どんなもんやとわたしはどや顔になったが、ある事に気付いた。
こんな大きな魚どうやって取り込むんだろう。見たところわたし達の立っている甲板から水面までゆうに2メートルはあるだろう。
「アメリ・・・・」
思わず後ろのアメリの顔を見てしまった。
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