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第326話 ケープ到着

 



 馬車を何回か乗り換えて、お尻が痛い、腰が痛い、もう馬車は見るのも嫌だと思う頃にやっと南の端の町ケープと言う所に着いたらしい。ここは王国のある大陸でも一番南の端だけどここで旅が終わったわけではなかった。ここからさらに船に乗り換えて南下するらしかった。幸いな事に目的地のストーン島にはケープから定期便が出ていた。次の便は二日後だと言う事で、今日と明日は一日ケープを観光することになった。五人の少女だけというのはさすがに目立ち過ぎるので全員男装をして旅の商人一行と言う設定にした。もちろん商人だから用心棒役のリオ以外は丸腰だった。異邦人のわたしとサオリも帽子を深くかぶれば髪の色も顔も隠せて目立たなかった。


 ケープの町は南国の港町だけあって大きな市場があった。異邦人のわたしにとってどこでも珍しく新鮮な景色だった。地球で例えると南フランスのコートダジュールって所かな。行った事ないけど。お金持ちの別荘とかもあってリゾート地でもあるみたいだった。


「おお。なんてきれいなんだ。家とか全部白いじゃねえか。ここ気に入った。オレ達もいつかここに住もうぜ。」


 珍しく新鮮な景色だと思ったのは異邦人のわたしだけじゃなくて王国人とってもだったみたいでアメリが感動していた。今日は2号が引っ込んで最初からアメリが出ているみたいだった。


「また思い付きで。でもわたしも賛成かな。ここなら海も近いしね。」


 同じくサオリもケープの町が気に入ったみたいだった。


 もちろんわたしも気にいったんだけど、わたしの場合は仲間がいる所ならどこでも良いかな。


「それで今日はどうするの?」


「もちろん市場に買い出しさ。」


 わたしの問いにアメリが答えてくれたけど、だから今日は2号じゃなくてアメリなのね。料理の得意なアメリが食材を仕入れに行くんだわ。どんな珍しい物が売っているのかしら。

 わたしはわくわくが止まらなかった。


 市場は仲買人が大量に買い付けするようなプロ向けの市場でなく誰でも少量でも買える市民市場だった。売っているものはねえ、肉や魚から日常品にいたるまでそれこそなんでも売ってたわ。肉は精肉されてたからどんな動物の肉か分からないけど、魚や野菜はその原型を留めてるからどんなものか想像がついたわ。見た事もないような奇天烈な物ばかりかと思っていたら案外日本でも見たような物が多かったわ。


「あれ?これってトマト?」


「うーん。それっぽいね。」


 アメリとサオリがトマトっぽい野菜を見つけて2個買ったんだけど、どうするのかなと思っていたら、それをかじってトマトだと確認した。驚くべきはその後のアメリの行動だった。なんとその店のトマトもどきを一つ残らず買い占めてしまった。その後もちょっと味見をしては気に入ると爆買いを繰り返した。


「そんなに買ってどうするの?」


 わたしは思わず聞いてしまった。


「もちろん後で食うのさ。王都で中々買えない野菜ばかりだからね。買える時に買っとかないと。」


 そう言えばアメリのアイテムボックスって中の時間が止まってるんだっけ。ホントに便利な人間冷蔵庫だわ。


 さすがに海産物はその場で試食と言うわけにはいかなかったからアメリがお店の店主にいろいろと質問しては爆買いしていた。エビやカニもいっぱい買ってたから楽しみだわ。わたしはどちらかと言うと肉よりも魚派だからね。あ、でも肉をもりもり食わないと王国人みたいなプロポーションになれないかも。ちなみに肉は売るほど持っているから買わないと言う事だけど、何の肉かしら。恐くて聞けないけど。魔物の肉も美味しいと聞いてたからね。


 後、旅の目的であった黒メロンはそこら中で売っていたけど、あえてここでは買わないで、産地のストーン島まで行って採れたての新鮮なやつを買うんだそうだ。ホントに物好きないや熱心な冒険者だこと。



 *



 市場を覗いたり、港を見物したりしていたらあっという間に出航の日になった。灯りのあまりないこの世界では何事も日の出とともに始まる。当然出航も早朝だった。わたし達は夜明け前に宿を出て港に来ていた。暗いうちはよくわからなかったけど、思った以上に立派な船だった。これなら多少の嵐でも大丈夫だろう。まさに大船に乗った安心感である。


 簡単な搭乗手続きをすませて船室に荷物を降ろすといよいよ出航だ。船が港を出るまでは人力で進むのだが、驚く事に客も含めた全員でオールを漕いだ。エンジンと言う便利な物がないから仕方無いとは言え良い運動になった。運動不足のわたしが音を上げる頃にようやく港を出た。港を出ると船員が帆を張った。これでもう漕がないでも良いとわかったわたしは安心してへたり込んでしまった。帆を張った船は静かにスピードを上げ始めた。思ったよりも速かった。風があるかぎり快適なクルージングが続く。最初のうちは外を眺めて景色を楽しんでいたが、すぐに360度見渡す限り海しか見えなくなると外を眺めるのも飽きてしまった。これはわたしだけじゃなかったようでみんなが船室を出て甲板に上がってきた。


「さっき船員さんに聞いたけど釣りをしても良いそうだ。」


 これを言ったのは2号じゃなくてアメリだった。いつもは主たる人格の2号が表に出ていてアメリは眠っている事のほうが多いのだが、イベント好きの血が騒ぐのだろう。今日はアメリが朝早くから表に出ていた。


「釣り!私もやる。」


 以外にも一番お上品そうなリオが乗って来た。釣りってミミズみたいのを餌にして生臭い魚を手で触るんでしょ。大丈夫なのかな。わたし?わたしはそう言うの平気よ。だって日本にいた時お父さんとやってたもんね。


「よし!それならみんなで釣り大会って言いたいところだけど、動いてる船の上じゃ釣りも自由にできないな。船尾から竿を出すぐらいか。」


 そう言ってアメリは竿を2本取り出し、1本をリオに手渡した。そうだよね。糸が絡まるから後ろでしか釣れないよね。暇なわたしは二人の釣りを見学する事にした。餌は何を使うのかと思っていたら、なんとルアーを使ってるじゃないの。それによく見たら、ごっつい竿にはリールまで付いていた。これってトローリングじゃないの。


「え!これってトローリングだよね?」


「そうさ。こっちの魚はすれてないから良く釣れるぜ。」


 わたしが聞くとアメリは釣りの準備をしながら答えてくれた。


「すごーい。わたしもやってみたいんだけど。」


「お。ホノカもやるかい?じゃあこっちの竿を使いなよ。」


 そう言ってアメリはルアーを海に投げ入れたばかりの竿を貸してくれた。


「え?良いの?ありがとう。」


 受け取った竿は以外にもずっしりと重かった。リオとアメリはあんなに軽々と振っているのに。気軽に借りた竿だけどこれは本格的だった。このずっしり重い竿でないと釣れない魚。しかも異世界の魚。わたしはちょっとだけ後悔をした。


 アメリも釣るのかと思っていたら、どうやら釣りをできるのは場所的に二人が限界だった。わたしはリオの横に腰を下ろした。


「ホノカ、釣りの経験は?」


「日本で女だてらにやってたよ。海釣りならまかせて。」


 素人だと思ってなめられるのが嫌で玄人ぶってアメリに答えたけど、それがとんでもない事になるなんて。


「よし!じゃあ王国人のリオ対日本人のホノカの釣り対決だ。制限時間は3時間。3時間で釣った魚の総重量で勝負だ。魚の種類は問わないよ。何を釣っても良いから大物をたくさん釣った人の勝利だ。さあどっちに賭ける?」


「え?ちょっと待ってよ。わたしは釣りをすると言ったけど勝負するとは言ってないよ。」


「オレも聞いてないけど。竿は2本、オレ達は5人。釣りしてる二人は良いけど他の三人は何をしてたら良いんだよ。賭けでもしないとつまらないでしょ?」


「え?勝負ってお金を賭けるの?」


「当たり前じゃん。お金を賭けないで真剣になれる訳ないでしょ。」


「確かにそうかもしれないけど・・・・。うん。わかったわ。勝負するわ。それで勝ったら報酬は何?」


「報酬は自分に賭けておけばお金が入るじゃん。」


「そう言う事か。」


 わたしはお金を持ってないんだよね。その代わりアメリと言うか美少女戦隊に借金があるんだよね。これは出世払いで良いんだけど早く返した方が良いよね。負けたって借金が増えるだけだわ。これは乗るしかないね。


「ちなみにホノカとリオは自分にしか賭けられないから。でなかったらわざと負けて賭け金せしめられるからね。」


「これは勝たないといけないって事ね。よし!頑張る!」


 わたしの決意とは裏腹にみんなリオに賭けた。まあ当然と言えば当然ね。いくら戦闘でない釣りだと言ってもぽっと出の弱っちいわたしになんか賭けないよね。


「ホノカ以外全員リオに賭けてたら賭けにならないじゃん。しかたないオレがホノカに二口賭けるか。」


「え!良いの?アメリ。」


 なんかアメリに損をさせるようで申し訳なく思ってしまって聞いてしまった。


「その代わりオレはホノカの手助けをするぜ。」


「別に良いけど、釣りをするのはホノカなんでしょ。手助けって何もできないでしょ。」


 サオリの言う通りだ。戦闘とかと違って釣りは一人でするもんだよね。


「まあ、アドバイスをするって所かな。」


 なるほどわたしはこっちの事をまるで分っていない。ましてや海の中なんて見当もつかないわ。アメリのアドバイスは重要だわ。


「ホノカも知ってると思うけど、今走る船からルアーを投げてるだけなんだ。船が引っ張ってくれてるから糸を巻く必要がないんだ。」


「トローリングってわけね。」


 トローリングはやった事ないけど、テレビで観た事あるわ。マグロとかカジキを釣るのよね。


「そうトローリングなんだけど、こんな沖にいるのは大物が多いからね。海に引きずりこまれないように気をつけてよ。」


「わかった!」


 わたしがこぶしを突き上げてアメリに答えたときだった。いきなり2メートルはあろうかと言う大きな魚が目の前でジャンプした。わたしは度肝を一気に抜かれてしまった。やばい。やばい。あんなのが間違って釣れたら間違いなくわたしは海に引きずり込まれる。引きずり込まれないでもわたしに釣り上げられるわけがない。ここは日本じゃない異世界だからあんな化け物みたいな魚がゴロゴロいるんだわ。だからみんなリオに賭けたんだわ。これは単なる釣りじゃないのよ。釣りバトルなのよ。わたしに勝ち目なんかあるわけないのよ。ああ、また借金が増える。




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