第322話 ホノカちゃん大ピンチ
一軒目に入ったのは洋服屋だった。とりあえずは替えの下着を買おうと言う事だが、店員に見せてもらった下着がかわいくないの。かぼちゃパンツにぶかぶかブラジャーよ。まあ仕方ないかと思って買おうとしたらサオリに止められたわ。
「だめよ。そんなぶかぶかブラジャーを着けたら。リオや2号みたいな発育の良い王国人ならそれでも良いかもしれないけど。わたし達みたいのはちゃんと寄せて上げないと。」
そう言ってサオリは胸元をちらりと開けて見せてくれた。
「え!そのブラジャーは?」
「どう?かわいいでしょ?王都の洋服屋に特注で作らせた物よ。パンツもダサいかぼちゃパンツでなくてかわいいのよ。わたしのまだ着てないのを何着かセットであげるからここでは買わないほうが良いよ。」
「ありがとうサオリ。」
わたしはお礼を言ったけど、それにしてもさすがはサオリだ。リオや2号達王国人に比べて見劣りするスタイルの日本人の欠点を補う下着を独自で開発していたなんて。
とりあえずこのお店ではダサくても大丈夫なシャツやズボンの方のパンツを何着か買った。おしゃれな下着や服は王都のサオリ様御用達のお店での楽しみに取っておこうと言う事になった。もちろん買った服はお店の外で2号のアイテムボックスに収納された。ほんとこの人の能力は便利だわ。買い物も手ぶらでできるんだもん。
次に向かったのは武器屋さんなんだけど、鑑定眼持ちの2号曰く。ろくなものがない上に高いと言う事で、武器も防具も2号のアイテムボックスにあるみんなの使い古しのおさがりをもらう事になった。まあ初心者のわたしがいきなり良い武器を買っても使いこなせないのは分かっているから買う意味無いよね。
「あれ?でもこの剣なんかは私が使っても大丈夫なくらい良いものだと思うけど。」
2号が言ったにもかかわらずに、リオが一振りの片手剣を選んでくれた。
「騙されたらダメよ。良いのは見かけだけなんだから。こんなのはなまくら剣も良い所よ。一匹でも魔物を斬ったらもう切れなくなるよ。」
片手剣を鑑定した2号が即座にリオに片手剣を戻させた。
「うほん。」
2号が本当の事を言うもんだから武器屋の店主の無言の圧が凄かった。わたし達は早々に退店した。
「まあ田舎じゃしょうがないよね。じゃあそろそろ飯食いに行くか。」
「賛成。旅の楽しみと言ったら何と言っても食事よね。」
2号とサオリが食事をする事を決めてくれた。そう言えばこの世界に来てから初めてのまともな食事だわ。どんな料理が出てくるか楽しみだわ。
「こっちの食事ってどんな感じなの?」
サオリに聞いてみた。
「うーん。そうね。一言で言うとあまりうまくはないね。肉を焼いた物とか煮た物が多いけど。やっぱり調味料みたいのがあまりないから。塩だけとかシンプルすぎる味付けで。2号の別人格のアメリの作る日本の料理の方がはるかにうまいよ。」
「え!アメリは料理が得意なの?」
わたしは2号に聞いてみた。
「うん。得意みたいけど。残念ながら今は眠っているから調理は無理よ。」
「そうだよ。2号も疲れてるから今日は外食を楽しもう。こっちの料理だってそんなに捨てたもんじゃないよ。」
サオリったら今うまくないと言ったばかりのくせに。しかたない、アメリの料理は後の楽しみに取っておいて今は異世界の料理を楽しもうか。
2号達に連れられて入ったお店は、日本で言う所の居酒屋みたいな感じだった。料理も楽しめるけどお酒も楽しめるそんな感じだった。お店は食事時なのでけっこう賑わっていた。わたし達4人はお店の人に案内してもらって空いてる席に座った。
「さあ。何を頼もうか?」
2号が壁に書かれた文字を見ながら言った。もちろんわたしは読めるわけないし、読めたところでどんな料理かわからないので2号とサオリにおまかせだ。
「えっと。メイン料理は上からジャガイモと肉を煮たもの、かぼちゃと肉を煮たもの、肉野菜炒め、ステーキと言ったところね。日本で言う所の。」
2号が壁に貼られたメニューを解説してくれた。これならわたしでも分かる。ありがとう2号。うん。野菜炒めと行きたいところだけど、どんな野菜か分からないからちょっと怖いよね。かと言って肉をがっつりと食いたい気分でもないし、ここはジャガイモ煮にしようかしら。
「ホノカ。決まった?」
「うん。ジャガイモ煮にする。」
「ジャガイモ煮ね。スープとパンも付けてもらうから。あと、もちろんエールもね。」
結局わたしとサオリの元日本人勢はジャガイモ煮を残りの王国人勢はステーキを頼んだ。なんか王国人勢が発育が良いのはがっつり肉を食うからかな?わたしも頑張って肉食おうかな。
ジャガイモ煮はサオリの言った通りシンプルな味付けだったがそれなりにイケた。スープはかぼちゃのスープで、ミルクとかぼちゃを使ったものでほんのり甘く、これはかなりうまかった。これは日本で食っても美味いだろう。いただけなかったのはパンだった。黒くて硬くて味気なかった。日本の白くてふかふかでしっとり美味しいパンとはくらべものにならなかった。
「どう?おいしい?」
2号が聞いてきた。
「うん。パン以外はおいしいよ。」
わたしは正直に味の感想を言った。
「たしかにこっちのパンはまずいよね。後で王都の高級パン店で特別に作ってもらったやつを食べさせてあげる。」
そう言えば2号のアイテムボックスって時間も止まっているから作りたてのほかほかのがいつでも出せるんだっけ。これは楽しみ。
「こっちのパンはこうしてスープに漬けて食べるんだよ。」
サオリが教えてくれたけど、たしかにそうすると硬くて味気なかったパンもスープを含んで柔らかく美味しくなった。
「ほんとだ。これは美味くなったわ。」
「でしょ。まあなんでも不便で片づけないで工夫をしなさいって事よ。」
サオリが自分だけの工夫みたいにどや顔で言ってたけど、王国人のリオもアーリンも普通にそうしていた。まああえて言わないけどね。
わたし達のグループは若い女が5人だ。その上外国人?のわたしとサオリまでいる。これは異世界でなくても目立つ。目立つとどうなるか?
「うるさいぞ!がきんちょは家に帰って早く寝な!」
当然のように恐いお兄さん達に絡まれるよね。
「何を言ってんだ!タコ!お前の方こそここで寝かしてやろうか!」
なれないお酒に酔って気が大きくなっていました。後、わたし達はA級冒険者だと言う安心感もありました。自分はただの素人なのに。なにより言葉が通じないから言いたい放題だと思ってました。
それなのに恐いお兄さん二人がこっちに詰め寄って来ました。どうやら2号でなくて、もう一人の人格のアメリがわたしの言った日本語の啖呵をご丁寧に頼んでもいないのに通訳してくれたみたいでした。わたしがこう言ってるよと。
「おう!良い度胸してるじゃねえか!」
恐いお兄さんAが凄んだ。これも2号じゃなくてアメリが同時通訳してくれてるから分かった。
「そんな冗談ですよ。冗談。」
わたしは必死で恐いお兄さんAをなだめた。
「なんだと!」
それなのに恐いお兄さんBまでが怒りをあらわにした。どういう事?もしかしたら通訳のアメリがまたある事ない事を言ってあおってるんじゃ?
アメリの方を見るとにやにやと笑っていた。え?これって嵌められた。
「助けて!サオリ!」
困った時の同郷者、サオリに助けを求めたがこれまたにやついていた。
「リオ姉さん!」
リオとアーリンの両王国人にも助けを求めたがアメリ達と同じ様ににやついていた。
「表に出ろ!」
恐いお兄さんAがとうとうわたしの胸倉をつかんできた。
ホノカちゃん大ピンチ。味方だと思っていた美少女戦隊に裏切られて、わたしは二三発殴られてぐったりしたところで、裏に連れ込まれてあんな事やこんな事をされるんだわ。美少女戦隊の奴らはきっとそんなわたしをにやにや笑って見てるだけなんだわ。くそ。仲間だと信じてた自分がバカだったわ。うわーん。お母さん。助けて。
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