第321話 テーマパークに来て真っ先に帰りの心配する奴
「ごめんね。わたし達は旅の途中だったから、しばらくは家に帰れないんだ。」
「いや。ぜんぜん良いよ。」
2号が謝ってくれたけど、そのほうがかえって良い。旅でいろいろ忙しいほうが気がまぎれる。暇になったら余計な事を考えてしまう。考え事をしていると大きな不安が襲って来る。わたしはどうなってしまうんだろう。もう家には帰れないんじゃないだろうか。お母さん心配しているだろうな。クラスのみんなは心配してくれるかなとか。
「ぜんぜん良いよって言う割には暗い顔してるじゃない。大丈夫だよ。いつかきっと帰れるよ。それにこの世界だって良い所だよ。住めば都さ。」
「気休めは言わないでよ。2号。帰れる保証なんて何もないでしょ?」
「あれ!さっきまではしゃいでいたのにもうブルーになってるんだ。異世界転移者の先輩として言わせてもらうと、わたしはまだ帰る事をあきらめてないわよ。」
わたしが少しだけ余計な事を考えると顔に出たのか2号とサオリが順に慰めてくれた。それにサオリがあきらめてないと言ってたけど、何か考えがあるのかしら。
「あきらめてないって何か希望でもあるの?」
「うん。わたしのスキルなんだけど、ワープと言って一度行った事がある所ならどこでも行けるんだ。残念ながら今は元の世界には行けないけど。この能力を磨いて行けばいつか帰れるんじゃないかと思っているんだ。」
「一度行った所に行けるってルー〇みたいな能力なの?」
「わたしの場合はワープだけど、まあルー〇みたいなもんよ。」
「凄い。生きる希望が出てきたわ。サオリ様。」
「神様みたいな言い方はやめて。でもそう考えたら少しは気が楽になったでしょ?」
「うん。うん。」
「そう言う事で異世界ライフをお互い楽しもう。」
「あ、でも、わたし達二人は帰るとして2号はどうするの?」
「わたし?わたしは元々こっちの世界で生まれて育ったから、どんなに過酷な世界でも故郷には違いないから二人が帰ってもここに残るよ。ちょっと寂しいけどね。ていうか、テーマパークに来て一番に帰りの心配する?しないでしょ?どんなアトラクションに乗るか考えるんじゃないの?」
「そ、そうだね。まずは楽しまないとだね。それで2号はどんなアトラクションにわたしを乗せてくれるの?」
「うーん。とりあえずは南の島行の馬車の旅かな。オプションとして盗賊や魔物の襲撃が付くけど(笑)」
「オプションは遠慮しとくわ(笑)」
なんでも南の島に特産品の日本で言う所のスイカを買い付けに行くらしいが、スイカってめっちゃ重いよね。でも重いスイカでもいくつでも入るんだろうな。2号のアイテムボックスは。本当チートな能力だ事。あ、でもそうしたら商人になったら良いんじゃねえ。
「スイカを買い付けてどうするの?」
「もちろん王都で売るのさ。」
「やっぱりそうなんだ。じゃあ冒険者なんて危険な事は辞めて商人になれば良いんじゃない?」
「うーん。そう言う事もちょっとだけ考えた事あるけど、わたしらはお金儲けのためだけに働いているんじゃないからね。なんだかんだで冒険者が好きなんだよ。特にわたしのもう一人の人格のアメリはね。」
スタンビードも当たり前のように鎮めてしまう人達だもんね。戦闘が好きなんだろうな。まあわたしも冒険者が好きだから無問題だわ。
*
馬車は高い塀の前で止まった。なるほど魔物が闊歩するこの世界では外敵に備えて塀の中に町があるみたいね。入り口で手続きを済ませると馬車は塀の中へと入って行った。町の様子、行きかう人々の姿を見て、改めてここが異世界であると実感したわ。建物の感じからして、地球なら中世ヨーロッパと言う所か。金髪碧眼の人々が行きかう所からして、ヨーロッパでも北欧だな。わたしやサオリみたいなアジア系の顔はここでは目立つみたいだな。
馬車は一軒の大きな建物の前で止まった。どうやらここが今晩のお宿みたいだった。宿泊手続きは2号が代表して行ってくれた。2号とサオリが今晩のわたしのルームメイトでリオとアーリンは別の部屋だった。
「ホノカ。準備はできた?」
「うん。わたしの荷物なんて何もないからいつでも準備オッケーだよ。2号。」
これからみんなでこの宿場町へ買い物に繰り出すところだった。2号が声を掛けてくれたけど、身一つのわたしに準備もへったくれもないもんだ。
「そうだね。まずはホノカの服やら日用品やらいろいろと買い揃えなくっちゃね。」
「うん。でもわたしお金持っていないよ。」
「お金の心配は無用。わたしがはらってあげるよ。」
「そんな。悪いよ。」
「大丈夫。大丈夫。あげるんじゃなくて貸すだけだから。」
「貸してもらっても返す当てがないんだけど。」
「それも大丈夫。体で返してもらうから。」
「体で?」
「そう体で。ぐふふ。」
「ちょっと体ってわたしそんな趣味ないよ。助けてよ。サオリ。」
「なんかわたし達みたいな日本人顔はこの世界では珍しいからもてるみたいよ。だから大丈夫だよ。ホノカ(笑)。」
「大丈夫って、サオリまで変な事を言う。やっぱりわたしは性奴隷に戻されるんだ。」
「なんか勘違いしているみたいね。体で返すと言うのは冒険者として働いて返すって事よ。」
「なんだ。そうだったのか。アメリは半分男だと聞いてたからそう言う趣味があるのかと思ったよ。」
「まあ、それは完全には否定しないけど、今現在のわたし2号は性的に女には一ミリも興味ないから安心して。」
「その言い方じゃ2号が引っ込んでアメリが出たら危ないって事じゃないの。安心できないわ。」
そう言えば、同じ年ごろの美少女ばっかりだよね。美少女戦隊は。女の友情で結成されているのかと思っていたら、どうやらアメリの趣味で集められているみたいだしね。まあ、わたしもそう言う世界にはまったく興味がないわけじゃないけど、オタクのわたしとしてはどちらかと言うと美男子同士の愛情物語の方が好きなんだけどね。
もう一つの部屋からリオとアーリンが出てきたけど、彼女らは武装を完全に解いて服まで着替えていた。武装をした彼女らも凛々しくて良かったが、スカートを穿いた彼女らもかわいくて良かった。2号とサオリは2号からもらったわたしの服にあわせてくれたみたいで鎧を脱いだだけだった。
「あー。リオまでおしゃれしてる。」
どうやら2号は本当はおしゃれな服に着替えたかったみたいでおしゃれな服を着たリオに絡んでいた。
「これはアーリンに着させられたのよ。」
アーリンのせいにしているがその表情からしてリオはまんざら嫌じゃないみたいだった。それにしてもおしゃれをしたこの二人の美しさは見事だった。女のわたしでも惚れてしまうわ。
「ねえサオリとホノカ。わたし達もおしゃれして出かけない?」
「賛成。」
2号の提案にサオリが賛成したけど、おしゃれと言ってもわたしには地球から着てきたTシャツとGパンしかないんだけど。
「あのう。わたし服持ってないけど。」
「何を言ってんのよ。ホノカ。わたしの服で良ければいくらでも貸すから。」
そう言って2号はアイテムボックスから何着かの服を取り出した。
「え!良いの?」
「良いよ。良いよ。ホノカがきれいになるならいくらでも貸すよ。その代わりホノカもかわいい服を買ったらわたしにも貸してね。」
「もちろん。」
「そう言うわけでリオとアーリン。ちょっと待ってて。」
「もう。早くしてよ。」
言葉とは裏腹にリオはにこやかに笑っていた。
「どれでも好きな服を選んで。」
2号がベッドの上に服を並べ始めたが、服屋でも開くかのように大量に並び始めた。
「ちょ、もう良いわ。こんなかから選ぶから。」
そう言ってわたしは2号の店開きを中断させて、なんとなく地球でも見かけたようなデザインの服を一着取った。
「じゃあこの服に合うスカートはこれね。」
2号がスカートをチョイスしてくれたけど、これ短くね。
「ちょっとこんな短いミニスカート穿いた事ないんだけど。」
「大丈夫。ホノカはスタイル良いから似合うって。」
2号に旨い事言われて強引に穿かせられたけど、ちょっとウエストがきつくて逆に服の方は胸周りがぶかぶかだった。なんか激しく負けた気分。今度は同じ日本人のサオリに借りようと心に誓ったわたしだった。
2号のかわいい服に対してサオリの服はまるでスーツだった。大人びたサオリにはたしかに似合うけど、これって異世界でどうなの。目立ち過ぎないのかしら。
「サオリ。その服は?」
「どう?すてきでしょ。」
「すてきだけど、そう言う服ってこの世界でもあるの?」
「もちろんないわよ。自分でデザインして作ってもらった特注品よ。」
「じゃあこの世界で一着だけなんだ。凄いね。」
わたしがそう言うとサオリはどや顔でぐるりと回って服を見せてくれた。どうやらサオリはファッションにはうるさいみたいだった。わたしはどちらかと言うと疎いほうだから教えてもらわなくっちゃ。
「リオにアーリン。お待たせー。」
2号を先頭としてわたし達はリオ達の座っている食堂に来た。
「お。ホノカもかわいくなったじゃないの。」
「うん。かわいい。」
リオとアーリンが褒めてくれた。王国人に褒めてもらえて素直にうれしかった。王国でもわたしイケてるのかしら。うふ。
「よーし!それじゃあ。行こうかね。」
「「「おう!」」」
リオの号令でわたし達は宿を出た。戦闘時は2号やサオリがリーダーシップを発揮しているけど、日常生活時は年上のリオがみんなを率いているみたいだった。頼れるリオお姉さま素敵。わたしも仲良くなりたいわ。
リオを先頭にわたし達は街に繰り出したけど、若い娘が4人て、治安の良い日本でもめだつよね。しかもみんな丸腰じゃないの。街を歩く人々の様子からしてあまり治安が良さそうじゃないけど。大丈夫なのかしら。
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