第320話 馬車の誓
わたしはホノカよ。突然変な所(異世界)に放り出されてしまった悲劇のヒロインよ。今回はわたし、ホノカちゃんがお伝えするわ。この世界は盗賊やら魔物やらがごろごろいるハードな世界みたいですごく不安なんだけど、美少女戦隊に拾ってもらえたのはすごくラッキーだったわ。美少女戦隊は自分で美少女とか言ってしまう痛い人達の集まりだけど、どうやら実力は本物みたいだからね。実力者に鍛えてもらってこのハードな世界でのし上がるのよ。それがわたしのこの世界での存在意義だと思う。親や友達から引き離されて不安で悲しくて押しつぶされそうだけど、優しそうな仲間も見つけられたからなんとかやって行けそうなの。ホノカ、頑張るわ。
ゴブリンのスタンビードが終わった後はさすがに平穏な時間が経過したわ。まったりとした馬車の旅ができたの。さすがにこの世界でもスタンビードなる物はめったに起こる物でなく、そのめったに、わたしがたまたま遭遇してしまったみたいだった。
馬車の車窓から見える景色は美しくいつまででも飽きずに眺めていられたわ。もっとも美少女戦隊のみんながそんな暇を与えてはくれなかったけどね。
「それでホノカは日本のどこに住んでいたの?」
美少女戦隊のリーダーである2号が聞いてきた。2号はこんな顔して異世界転生者であるので日本の事に詳しいみたいだった。
「T県なんですけどわかります?」
「え!T県!わたし、となりのI県なんだよ。」
サオリが会話に割り込んできた。
「うそ。I県のどこ?」
「K市だよ。」
「K市って都会じゃん。わたしなんてド田舎のT市だよ。」
「K市っても広いからね。わたしの所は海沿いの田舎だよ。」
「え?でもKの町とかは近いんでしょ?」
「まあ、よく遊びには行ってたよ。」
「うらやましい。電車を乗り継がないと行けないからわたしはめったに行けなかったわ。」
Kの町とはI県の県庁所在地のK市の城下町で田舎にしては大きな繁華街で、近郊の市町村の若者が集まるちょっとはイケてる町で、田舎者のわたしも憧れる町だった。サオリも同じ地方の出身だとわかり、わたし達はKの町の話題で盛り上がった。サオリとは年も同じだし仲良くやって行けそうだった。
「I県やT県と言ったら魚の美味い所ね。」
2号が会話に参加してきた。
「2号も行った事あるの?」
「うん。ホノカ。わたしの前世でね。こう見えてわたしは東京育ちのシティガールだったんだよ。」
「正しくは東京育ちのシティボーイね。」
サオリが2号の発言を正してきたけど、シティボーイってどう言う事だろう?
「シティボーイ?」
「うーん。いずれ分かるからあえて言わなかったんだけど、わたしの身に起こった数奇な話をしておこうか。」
2号が自分の身に起こった数奇な出来事を語り始めたんだけど、聞けば聞くほどわたしは涙が止まらなかった。目の前で両親を魔物に殺され、その上に自分まで殺され、わたしなんかとは比べようもないほど悲惨な人生を送っているのにこんなに明るく快活で、2号にいたっては女らしくおしとやかで。
「男の魂が入っているから男前で勇敢なんだね。」
「いや。今のわたしはアメリ100パーセントだから、男の魂は関係ないよ。女のわたしが頑張ってるのよ。」
「そうなんだ。でもなんかややこしいわね。」
「簡単だよ。式神のコメリちゃんと、2号がピンチの時に出てくるスーパーアメリが男50パーセントで今の2号が100パーセント女なんだよ。女アメリは性格的に戦闘に向いてないみたいでちょっと困りもんなんだよ。」
サオリが説明してくれた。じゃあ今の目の前のアメリが本来のアメリなんだ。だから2号って呼ばれると怒るんだ。でも女の子なのに戦闘に向いてないとかで判断されるなんてかわいそう。そうだ。わたしの異世界に来た運命はアメリのサポートをするために送られたのに違いないわ。
「わかった。わたしのこの世界での存在意義はアメリをサポートする事なんだわ。だからわたしはこんな世界まで送られてきたんだわ。」
「何を突然言ってるのよ。あんたは美少女戦隊の一員なんだからリーダーのアメリをサポートするのは当たり前じゃないの。」
「ちょっと違うのサオリ。わたしがサポートするのはアメリはアメリでもみんなが2号と呼んでいる目の前にいる今のアメリよ。」
「え!2号の方なの。」
「ホ、ホノカ。」
わたしの突然の告白に2号は目を白黒させたが、涙目で手を差し伸べてきた。
「アメリ。辛かったよね。これからはわたしが微力だけど守ってあげる。」
そう言ってわたしは2号の手をがっちりと握った。
「ちょっとわたしとリオもいるんだから二人だけで盛り上がらないでよ。もちろんわたしもリオも全力でアメリの事をサポートするわ。」
そう言ってサオリも手を合わせてきた。
「ワタシモ・・・・」
サオリに通訳してもらったリオも負けじと手を合わせてきた。桃園の誓ならぬ馬車の誓だわ。こうしてわたし達4人は義兄弟ならぬ義姉妹になったんだわ。
「これでオレ達は義兄弟ならぬ義姉妹の誓を誓ったんだな。生まれた時はバラバラだけど死ぬときは一緒だぜ。めでたい時は乾杯に限るぜ。」
いつの間にか2号がアメリに代わっていた。顔は一緒でもずいぶんと雰囲気が変わるもんだ。たしかに男らしく頼もしいオーラを発していた。アメリもわたしと同じ事を考えていたみたいで、アイテムボックスから取り出した酒をみんなに配っていた。
「これはエールと言って、日本で言う所のビールなんだけど、ホノカはお酒大丈夫?」
「う、うん。お父さんにもらってちょっとだけなら飲んだことあるけど。」
「そうか。じゃあ無理しないで、口をつけるだけで良いよ。じゃあ、みんな乾杯!」
「「「乾杯!」」」
異世界で初めて飲んだお酒は苦かった。苦いけど旨かった。わたしはみんなに習ってごくごくと一気に飲み干した。
「あれ!心配したけど意外といける口じゃないの。」
そう言ってアメリはエールをわたしのコップに注いでくれた。冷えたエールは苦いけど、のど越しに爽やかに感じられるわ。これが大人の味ってやつね。
「ちょっと、2号じゃなくてアメリ。ホノカは初めてのお酒みたいなもんなのよ。そんなに進めたらダメよ。」
「大丈夫。サオリ。大丈夫だよ。」
なんか体が火照ってきて妙にハイな気分になって来たわ。これが酔うって事なのね。
「わたしは強いアメリも好きだけど、頑張ってる2号も好きだわ。これからよろしくね。」
そう言ってわたしはアメリのコップにエールを注いだ。
「ありがとう。わたしもホノカの事好きだよ。」
そう言って答えたのはどうやら2号みたいだった。驚く事に彼女らは出たり引っ込んだりが自由にできるみたいだった。これもある意味チートじゃない。
「サオリ。この異世界で本当に頼れるのは同郷のあなただけかも知れないわ。これからよろしくね。」
そう言ってわたしはサオリのコップにもエールを注いだ。
「ありがとう。わたしも同郷のホノカが参加してくれてうれしいわ。日本の事やKの町の事で盛り上がろう。」
サオリとは同郷であり同じ日本人と言う事を差し置いても仲良くやっていけそうだ。
問題はこの人だ。目の前に座っているのは、まさに美少女剣士と言う言葉がぴったりの金髪碧眼の美少女だ。わたしはちょっとだけ怖気づいてしまっていた。
「ほら、リオにも注いであげないと。」
空気を読んだ2号が後押しをしてくれた。
「わたし、はっきり言ってあなたほどの美少女を見るのは初めてだわ。あなたのような美しい方と仲間になれてうれしいよ。」
そう言ってリオのコップにエールを注いだ。
「何だって!この野郎!」
え!なんかリオが怒っているみたいだけど、わたしまずい事でも言った。
「ちょっとアメリ。なんて事を言ってんの。ホノカはそんな事言ってないでしょ。」
サオリによるとどうやらアメリは美しいをバカと訳したみたいだった。
「ちょっとここはわたしにとって一番大事な場面なんだから真面目にやってよ。」
わたしの猛抗議でアメリは通訳しなおしてくれた。おかげで激怒していたのが一転して満面の笑みだった。美少女は怒っても笑っても美しい。ついでにこれも伝えてもらった。
「ホノカ。あんたはバカのアメリと違って物の本質が分かる人みたいだね。わたしもホノカは美人だと思うよ。美人同士で美少女戦隊を盛り上げて行こう。」
わたしの事を美人だと言ってくれるんだ。美人から美人だと言ってもらえるとうれしいわ。それにとっつきにくく感じたけど、しゃべってみたら単純で気さくで良い人みたい。リオとも仲良くしたいわ。
「あのう。外の人、アーリンだっけ?アーリンとも乾杯したいんだけど。」
「わかった。任せとき。」
そう言うとアメリは窓を開けて王国語で何か怒鳴っていた。まさかまた変な事言ってないよね。馬車はブレーキをかけてゆっくりと止まった。
アーリンの様子からして変な事は言ってないみたいね。良かった。
アーリンが馬車の中に入って来た。外に出たリオの代わりにわたしの前に座った。
「アーリン。わたし達は義姉妹の誓をしたんだ。あなたも良かったらわたしの姉になってくれない?」
そう言ってわたしはアーリンのコップにエールを注いだ。
「違うよ。お姉ちゃん。私は年下だから妹よ。」
そう言ってアーリンはわたしのコップにエールを注いでくれた。なんか王国人ってみんな整った顔しているから年上に見えるんだよね。そうかアーリンは年下なんだ。でも美少女戦隊では先輩なんだよね。でも美少女戦隊の中では先輩後輩もないからタメグチでしゃべろって言われてるんだよね。だから敬語は使わないけど、先輩は立てるよ。わたしは義理堅い女なんだから。
「頼りない姉だけどよろしくね。」
そう言って握手をしようとしたら、アーリンもなんか怒ってる?
「今度は何て訳したの?」
サオリを通さずにアメリに詰め寄った。
「た、頼りない妹だけどよろしくしてやるわって言ったの。」
「ちょっと妹じゃなくて姉が頼りないのよ。それじゃあアーリンが頼りないみたいじゃないの。すぐに訂正してよ!」
今度はちゃんと通訳してくれたみたいでアーリンが満面の笑みで握手してくれた。アーリンもとっつきにくそうだったけど、意外とフレンドリーだわ。あ、もしかしてわたしの王国人に対する緊張をほぐすためにわざと通訳を間違えたんだわ。アメリは。
「ねえ。もしかして緊張をほぐすためにアメリが通訳をわざと間違えたとか思ってるよね?」
え!サオリって心が読めるの?
「こいつはそんな気配りのできる奴じゃないから。単純にリオやアーリンをからかってるだけなんだから。」
「え!サオリったら酷い。わたしが場を和ませようとわざとやってるのに。」
「ほら、都合が悪くなるとすぐに2号に代わるんだから。」
「え!今のはアメリ本人でしょ。」
「え!そうなの?アメリ!」
「ばれたか。オレの名演技を破るとはお主やるな。ホノカ。」
「ていうか。自分で自分の物まねをするなんて何なの?あんたいったい。」
「こいつは真正の変態なんだよ。間違いなく。」
サオリの変態と言う言葉にわたしは笑ってしまった。サオリが通訳したので遅れてアーリンも笑っていた。愉快なアメリのおかげで場は和んだけど、わたしは一刻も早く王国語を覚えなければいけないなと思ったのであった。
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