第32話 VSローク校長
今日の授業からリオも魔導士班に入る事になった。リオのファイアーを見せて班替えをしてもらったのであるが、オレもリオもサオリも元々魔法剣士であることから、オレたち4人は特例で、魔導士班でありながら魔法剣士の授業もとれるようになった。
昨日できなかったセナどころか、授業を受けてもいないリオまでファイアーを使いこなしたので、教練場
はちょっとしたパニックになった。例によって得意げに話そうとしたリオをオレは制した。魔法の原理に気づいているのはこの世界ではおそらくオレたち4人だけだ。これは他者に対する大きなアドバンテージになる。それを簡単に話そうとするなんて本当にリオは脳筋野郎だ。あとで、説教だな。
と、言うわけで今日は風魔法のウィンドと土魔法のクオークを習っていた。例によってシンディ先生とイザベルにゆっくりはっきりと呪文を唱えてもらい、それを書き取ってから、精霊に手伝ってもらう事をイメージして、呪文を正確に何度も繰り返し唱えた。オレとサオリはすぐにマスターできたが、今日はそれを隠した。オレ達のチート能力をさらしてこれ以上に騒がれるのを防ぎたかったからだ。何か月も何年もかかった呪文の習得がほんの三分やそこらで習得されたら、だれしも面白くないだろう。オレたちの能力を羨望しているうちはいいが、それがやがて嫉妬にかわり、最悪命を狙われる事につながるかもしれない。目立つことはなるべくしたくなかった。
リオとセナはさすがに三分やそこらではマスターできなかったので、オレとサオリは二人の練習に付き合った。だれて遊んでいたオレとサオリを見たシンディ先生が、魔法剣士の班を覗いてみろと勧めてくれた。
魔法剣士の班は校長のロークが講師をしていた。ローク校長は筋肉粒々の大男でいかにも元冒険者という感じであった。ローク校長はオレ達を見かけるとニコニコして近づいてきた。
「おっ。うわさの天才。アメリさんとサオリさん。どうしたんですか?」
「ええ。シンディ先生が魔法剣士の班も覗いてみろとおっしゃられたので見学に来ました。」
オレは答えた。
「そっかー。でも天才のお二人には退屈な授業かもよ。」
「いえ。そんなことはないと思います。」
オレが否定すると。
「ちょうど今から組手をやろうと思ってたんだけど、遊んでいくかい?」
「組手ってどうするんですか?」
オレは聞いた。
「なあに、武器を使用しない素手での模擬戦さ。ただし、魔法は使い放題だけど。」
オレは断ろうと思ったが、授業の一環であり断ることはできないとローク校長に押し切られた。
「しかたないから、やりますけど。相手にケガさせても知りませんよ。」
オレが言うと。
「おう。おう。自信満々でいいね。いいね。オレは回復魔法のスペシャリストだから、
死なない限り復活させられるから、大丈夫。大丈夫。」
ローク校長が答えた。丁寧な言葉遣いがいつの間にか乱暴な言葉遣いになっていた。元冒険者の地が出てしまったんだろう。組手は負け抜け方式で、負けるまで試合をやり続けなければならない過酷なものであった。オレは初端から出させられた。
オレ達がイザベル達を瞬殺したのは知れ渡っていたので、誰も対戦相手に名乗り出なかった。しかたなく、ローク校長はニコラを指名した。瞬殺された経験のあるニコラはおびえていた。
「おい。しかりしろ。気合をいれていけ。」
ローク校長がニコラに気合を入れた。
オレたちは空手や柔道の試合のようにローク校長を挟んで向かい合わされた。
「はじめ。」
試合開始の合図と同時にファイアーボールが来ると予測して、かがみこんで身を固めたニコラにオレは蹴りを入れた。オレのサッカーボールキックをまともに受けてニコラは吹っ飛んだが、防御に徹していたおかげで回復魔法は要らなった。かわりにローク校長の説教をたっぷりと受けていた。
第二試合のマイクは勇気を出してと言うかやぶれかぶれで突っんできた。おかげで、オレのファイアーボールをカウンターで至近距離で受けるはめになってしまった。かわいそうにマイクは炎の塊を全身で受け大ダメージを受けて、ローク校長の全力のハイヒールでやっと意識を取り戻した。
さすがにここまで実力差を見せつけられると残りの二人の受講生は泣いてオレとの対戦を拒んだ。それで、ローク校長はサオリを指名した。
「サオリ。わかっていると思うけど、ワープもサンダービームも絶対に無しよ。いいわね。」
オレは他者にわからないように日本語でサオリに釘を刺した。
「うん。わかってる。」
サオリはうなずいた。
さて、どうしたもんか。サオリには無詠唱の魔法があるから、試合が長引くと分が悪い。オレはある作戦をたてた。
ローク校長を挟んで並ばされた。サオリの口元が動いているあれをやる気だな。オレも声を出さずに呪文を唱えだした。
「はじめ!」
ローク校長の合図とともに。
「ファイアーボール!」「ウィンド!」
オレとサオリは前倒しで唱えていた魔法を同時に放った。オレの魔法のウィンドはサオリの魔法のファイアーボールを弾き飛ばすことはできなかったが軌道をわずかにそらすことはできた。わずかでも小さい体のオレが避けるには十分すぎた。
「「そして、突きー!」」
魔法と同時の突き(パンチ)を二人同時に打ち合った。魔法では負けるかもしれないが、剣術と体術はオレのほうがはるかに上だ。オレのパンチがカウンターでサオリの顔面に炸裂した。サオリは吹っ飛んだ。サオリもローク校長のお世話になった。
「いやー。お見事。ファイアーボールをウィンドでそらすなんて良い作戦だ。しかし、誰もアメリを負かす事ができないのはまずいのう。
よし。オレが相手してやろう。」
なんか校長がとんでもない事言ってるぞ。子供の試合に大人が出るんかよ。まあ、相手にとって不足はないけど。
「校長先生がお相手ですか?」
オレは聞いた。
「おう。嫌か?」
「嫌ではないですけど。その、おケガとかされたらたいへんだなと。」
「心配するな。さっきも言ったけど、オレは回復魔法のスペシャリストだ。自分で何とかする。
よし。そうだな。ニコラ。審判をしろ。」
ローク校長はニコラを審判に指名した。
「はい。わかりました。」
ニコラは立ち上がって、オレとローク校長のところに来た。
さて、たいへんな事になったぞ。ローク校長は見るからにしてパワーファイターだろう。まともに殴りあっても勝ち目は無いだろう。ここはいつものファイアー突きでいくか。
「始め!」
ニコラの合図とともに。
「ファイアーボール!」
オレは前倒しで呪文を唱えていたファイアーボールを撃った。しかし、ファイアーボールが炸裂するべき場所には誰もいなかった。オレのファイアーボールはむなしく何もない空間を飛んで行った。
「そして・・・」
オレがパンチを繰り出す前に顔面に衝撃が来た。目の前に火花が飛び散った。そして意識も吹っ飛んだ。
「ヒール。」
オレはローク校長のヒールで目を覚ました。
「い、今のは縮地ですか?」
オレはローク校長に聞いた。
「よくわかったな。そうだ縮地だ。ちょっと大人げなかったけど、いきなりくる無詠唱のファイアーボ-ルを防ぐにはこれしかなかったからな。」
ローク校長は答えた。
「先生。オレにも縮地を教えてもらえますか?」
オレはローク校長に頭を下げた。
「オレのとっておきの技で、他の人には教えたくないが特別に教えてやろう。でも、今日はやめといたほうが良いと思うぞ。」
教師のくせに教えたくないとはなに言ってるんだ。オレは立ち上がってなんか言ってやろうとしたが、足に来ていて立てなかった。とにかく、オレのファイアー突きをやぶる実力の持ち主がここにいた。冒険者アカデミーに入学して良かった。
そして最後は、まだ試合をしてなかった残りの二人の組手で今日の授業は終わった。
オレは授業後にローク校長に呼ばれて、鉛を入れたリストバンドを四つ渡された。これはもしかしてパワーリストじゃないの?おかげでオレはダンジョンに潜るとき以外はパワーリスト?を付けされるはめになった。レベルアップで自然と筋力も上がると思うが、こういうスポコンみたいのもたまにはいいもんかな。
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