第317話 異世界オタク
さてどうしたものかとのんびり観察していたら動きがあった。冒険者の一人が取り囲む盗賊に斬られたのである。斬られた冒険者は馬から引きずり降ろされると盗賊たちに滅多切りにされた。
やばい。これは一刻の猶予も無い。
「みんな!助けるぞ!」
「「「「おう!」」」」
オレはみんなに指示を出すと真っ先に地面に降り立ち走り出した。
「サンダーソード!」
走っている間に刀には電気を流しておいた。いくらオレでも武装した人間を鎧ごと斬るのは困難だし、マジで斬れば下手をすれば鎧ごと斬り殺してしまうかもしれないのでサンダーソードで感電させて気絶させようと言う作戦だ。これは事前に他のメンバーにも言ってある。いくら悪者であっても人間は斬り殺したくないからね。
盗賊たちは冒険者との戦闘に集中していたので背後から近づくオレ達に気付くはずもなく簡単に斬り伏せられた。もちろんミネ打ちでだぜ。
「なんだ!お前たちは?」
ようやくこちらに気付いた盗賊たちがこちらに斬りかかって来た。だが遅い。そんなゆるい剣でオレに立ち向かおうとは10年早いわ。オレは向って来る一人目の胴を水平に払った。オレの刀は盗賊の金属製の胴当てに阻まれたが、それで良い。斬り殺す事が目的でない。オレの刀から流れた電気が金属製の胴当てを伝って盗賊に注ぎ込まれたからだ。二人目は脳天から撃ち下ろしてやった。大分加減したつもりであったがこれはちょっとやばかった。やっぱり頭はやばいよね。下手したら死んじゃうよね。反省。反省。反省していたら三人目が剣を上から振り下ろしてきた。オレがさけたら、オレの後ろにいたアーリンに斬られてしまった。
「に、逃げろ!」
あっという間に10人近くを斬ったら残りの盗賊たちは一斉に逃げだした。でも逃げても無駄なんだよね。
「サンダービーム!」
サオリの無詠唱の魔法を皮切りにアーリン達の魔法の追撃が始まったから。
「おい!殺しちゃいないだろうな?」
「たぶん大丈夫。手加減して撃ったから。」
オレの問いに物騒な返しをするアーリンであった。
盗賊の心配よりも冒険者だ。先程滅多斬りにあったけど大丈夫なのか。オレは血だるまになって倒れていた冒険者に走り寄った。
「ケリー!」
仲間の冒険者が必死で介護していたが医者でもない限りできるのはせいぜい血止めぐらいであった。斬られた冒険者は弱々しく返事をしていた。
良かった。まだ息がある。これなら助けられる。
「ちょっとどいて!ハイヒール!」
オレの最上級の治癒魔法でその冒険者の傷がみるみるうちにふさがっていった。冒険者達に斬られていた盗賊たちはアーリン達が治療していた。オレ達に斬られた盗賊たちはもちろん放置である。斬られた冒険者を始め致命傷を受けた者が何人かいたがオレ達の治療魔法で一命をとりとめた。あれだけの激しい戦闘だったのに死者を出す事はなかった。
「あれ!俺は斬られて死にかかったはず。それが痛くも痒くも無くなっている。」
「ええ。傷はふさいだからもう大丈夫です。でもしばらくは安静にしていた方が良いですよ。」
「お前様が治してくれたんだね。ありがとう。ありがとう。あなたは命の恩人だ。」
「それだけじゃないよ。ケリー。盗賊どもも蹴散らしてくれたんだよ。」
ケリーを介護していた女の冒険者が言った。
「そうだよ。俺達はこの人達に助けられたんだ。」
もう一人の若者の冒険者も言った。
「そうですか。あらためてお礼を言います。ありがとうございます。申し遅れましたが俺達3人はケープの町で冒険者をしている者です。命の恩人のあなた達には感謝の言葉も言い尽くせません。せめてお金で報いたいんですが見ての通り貧乏冒険者なので持ち合わせもありません。」
「ああ、良いよ。良いよ。報酬はそこの荷主さんにもらうから。」
そう言ってオレは馬車から出てきていた商人の元へと行った。
「こんにちは。ケガは無いですか?」
「ああ。ありがとう。君らのおかげで私達商人も中の商品も無事だよ。」
「それは良かった。じゃあ単刀直入に言いますね。今の戦闘の報酬ですが、中の商品を一つもらえませんか?」
「え!商品を?私達が何を運んでいるのか分かっているんですか?」
馬車は中が見えないようになっていたが、もちろんオレは鑑定で分かっていた。
「ええ。分かっていますよ。奴隷でしょ?」
「いやいや。どうして分かったか知らないけど、奴隷一人は高額すぎますよ。もう少し行った先のバルキリーに私どもの店がありますからそこで金銭を渡しましょう。」
「あなたは奴隷商でしょ?この縛った盗賊達はあなたの奴隷になるんでしょ?数えたところ15人はいますよね。普通は奴隷を売ったお金は冒険者と荷主であるあなたの山分けになるけど今回はあなたの総取りで良いですよ。15人の奴隷代でも釣り合わないですか?」
「うーん。そこまで分かってるならしかたないか。良いでしょう。その条件飲みましょう。」
「ちょっとコメリちゃん。奴隷なんか買ってどうするの?」
サオリが口をはさんできた。どうせまたオレが変な事を始めたと思っているんだろう。
「そうよ。奴隷なんて私達には要らないわ。」
リオにまで反対された。しかしこれは買わねばならないのだ。
「失礼しますよ。」
そう言ってオレは荷馬車の入り口の幕を開けた。中には男3人女3人の奴隷がいた。逃げ出さないようにだろう奴隷達は腕をロープで拘束されていた。
「この男なんかどうですか?」
奴隷商が屈強そうな男を勧めてきた。元冒険者か。犯罪歴が無い所を見ると大方借金で身を持ち崩したんだろう。たしかにこの中では一番の高額な奴隷だろう。しかしオレの欲しいのは強い男じゃない。男には用が無いんだ。オレは隅で毛布を被って震えている奴隷の毛布をひったくった。
「あ!」
ビックリして声をあげたのはサオリだった。
「地球人?それももしかして日本人?」
「サオリ。直接聞いてみたら。日本語で。」
「え!そうなのね!やはり日本人なのね。こんにちは!初めまして!」
日本人だと確信したサオリはその奴隷に日本語で挨拶をした。
「え!日本語?日本人なの?わたし助かったの?」
「質問が多いね。質問は一回に一個ね。ていうか。挨拶されたら挨拶を返そうね。」
「え!あなたも日本語しゃべられるの?ごめんなさい。こ、こんにちは。」
「ああ。こんな顔しているけどオレも半分日本人なんだ。」
「ちょっとコメリじゃなかったアメリ。余計な口をはさまないで。混乱しているじゃないの。わたしが彼女に説明するわ。あなたは奴隷として売られる所をここにいるこの金髪女に買われたの。助かったかどうかはまだわからないわよ。こいつは人使い荒いし変態だからね。変態親父に性奴隷として売られる方がまだましかもしれないよ。」
「え!奴隷!女どうしなのにそう言う趣味の人なんですか。わたしはやっぱり性奴隷になるのですか?」
「冗談よ。変態は本当だけど。この変態はあなたを救ってくれたのよ。あなたはもう奴隷じゃないわ。」
そう言ってサオリは彼女のロープを切った。
「あ、ありがとうございます!」
お礼を言うなり彼女は泣き崩れた。
「晴れて自由の身となったんだけど。これから一人で生きていくのはハードすぎるよね。どう?良かったらオレ達と一緒に暮らす?まあ、オレが買ったんだから買われたあんたには選択権はないんだけどね(笑)。」
「は、はい。喜んで。」
「よし!オレはアメリ。16だよ。よろしく。」
そう言ってオレは握手を求めた。
「わ、わたしは穂香。わたしも16です。よろしくお願いします。」
そう言ってホノカはオレの手を握った。
「ホノカちゃんね。わたしも16よ。あ、同い年だからタメグチで良いよ。わたしはサオリね。よろしくホノカ。」
そう言ってオリがオレ達に手を合わせてきた。
「ちょっと!アメリとサオリ!この子、サオリによく似てるけど、もしかしなくても買ったのはこの子だよね?聞きたいことはいっぱいあるけど、まずは私とアーリンにも紹介しなさいよ。」
「そうですよ。外国語で話されても分からないんだから通訳もしてくださいよ。」
カヤの外だったリオとアーリンが話に入って来た。
「ああ、ごめん。ごめん。二人の思った通りこの子もオレとサオリと同じ世界から来た子なんだ。それでオレとサオリが自己紹介していたんだけど、リオとアーリンも紹介するよ。あ、2号もね。」
オレはリオとアーリンにわかるように王国語で言った。
「こちらの美人さんがリオね。年はオレ達の一つ上だよ。」
オレはホノカに分かるように日本語でリオを紹介した。
「私が美少女戦隊一の美少女。リオ様よ。よろしく。」
自分が紹介されていると空気を読んだリオが王国語で自己紹介して自分の手をオレ達の手に重ねた。もちろんオレが日本語に通訳した。
「そしてこっちのかわいい子がアーリンでオレ達の一つ下だ。」
もちろんこれも日本語で言ったんだけど、めんどくさいから日本語、王国語のくだりは以後省略するよ。
「アーリンです。よろしくお願いします。」
アーリンも手を重ねた。
「わたしが本当のアメリなのよ。よろしく。」
最後に2号が手を重ねた。ホノカは混乱して気づかなかったのか、スルーしたのかオレと2号が同じ顔をしている事に何も言わなかった。
「よし!これでホノカは美少女戦隊の一員だ。ホノカ、何か一言お願いするよ。」
「はい。わたしは穂香です。あらためてよろしくお願いします。わたしは捕まってどこかに連れ去られる所でした。それを皆さんに助けられて、大変感謝して・・・・・・。」
相変わらず堅苦しい挨拶だったが、それよりも途中で泣き出してしまった。
「うん。恐かったよね。不安だったよね。もう安心して良いよ。オレとサオリがいや美少女戦隊のみんなが全力でホノカを守るから。」
オレはホノカを抱きしめて慰めた。
ホノカが落ち着いてきた所で聞いたんだが、お転婆なホノカは自宅の木に登っていて、木から落ちたら知らない森の中で、森の中をさまよい続けたら、変な小鬼に追われて、逃げていたら馬と馬車の一団に会い、助けを求めたら逆に捕まってしまったと言う事だった。さらにはその馬車の一団も盗賊の一団に襲われると言う目まぐるしい一日だったみたいだ。
「それでここはどこなんですか?いや、どこなの?」
「ここはいわゆる異世界なんだ。」
ホノカの問いにオレは単刀直入に答えた。
「え!異世界って?日本どころか地球でもないの?道理であんた達の言ってることがおかしいと思った。」
どうやらホノカはここが異世界だとはわからずにオレ達に答えていたみたいだった。大分混乱しているな。
「うん。ショックな事を言うけど、ここは地球じゃないんだ。」
「本当に。道理で魔物がいるわけだ。異世界かー。地獄じゃなくて良かった。」
「え?あんまりショックを受けてないみたいだけど。」
「ええ。わたし、異世界には一度でいいから行ってみたいなあと思ってたんだ。だって異世界転移でしょ。わくわくするじゃん。」
「や、そんなに楽しい事じゃないと思うけど、異世界転移は。」
「良いのよ。辛くて苦しい今までの毎日よりも絶対に楽しいと思うから。」
いったい前世で何があったんだ。
「え!前の世界はつらかったの?どうして?」
「うん。つらかった。言いたくないけど。」
「そうか。じゃあ聞かないけど。これからはオレ達と楽しく生きよう。」
「うん。よろしくお願いします。それでよく分らないけど馬車が襲われてたみたいなんだけど?」
「ああ、そこに転がっている盗賊たちに襲われていたんだよ。オレ達が蹴散らしたけど。」
「え?もしかしてあんた達って強いの?」
「まあ、A級冒険者だからそこそこには強いかも。」
「A級冒険者来たー!やったー!」
「え?何喜んでんの?」
「やっぱり異世界って言ったら冒険者でしょ。冒険者にはあこがれてたんだー。わたし、異世界転移物大好きだったんだ。」
なんでもホノカは異世界オタクでラノベも漫画も相当読み込んでいたらしかった。サオリと違って異世界に来た事をむしろ喜んでいるみたいだった。それなら異世界にも早くなじんでくれるだろう。それに最初おどおどしていたのが慣れてくると結構明るくて活発な性格のようだった。良い子を仲間にできた。
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「そろそろ馬車に戻ろうか?」
ホノカとこのままここでずっとおしゃべりしていたいが、さすがにこのまま長時間レンドルを放置しておくわけにはいかないだろう。
「そうね。どうなったか心配しているよね。早く戻ろう。」
リオの言う通りだ。無事かどうか心配しているよな。
「ねえ。馬車の定員って御者に助手と中に4人の全員で6人よね。」
「それがどうした?サオリ。あっ!」
しまった。サオリの言う通りだ。
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