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第313話 手品?

 




「何驚いてるんだよ。今からお前らの目の前で魚を獲ってやるっちゅうの。」


 そう言うとコメリちゃん(アメリ)はざぶざぶと水の中に入って行った。


 水の中に入って行ったのは良いけど、また膝より浅い所でただずんでいた。そんな浅い所でどうやって魚を突くのよ。やっぱりアイテムボックスから魚を出したんだわ。普通の人はだませても私とサオリは手品のタネを知っているからね。私とサオリはそう簡単にはだまされないよ。私はコメリちゃんの手元に注目した。


「じゃあやるよ。」


 今から手品をやるって宣言するなんてよっぽどのバカかよっぽどの凄腕手品師だわ。たぶん前者だと思うけど(笑)。私はコメリちゃんの利き腕である針金を持った右手に注目するだけでなく手ぶらの左手の方にも注意を払うのを忘れなかった。人の目を盗んでずるをするのが手品師と言う物だからね。


 コメリちゃんは右手をゆっくりとあげると大きく振りかぶった。そしてそのまま固まっていた。これはきっと派手な動きの右手の方はフェイクね。左手からこっそりと魚を出すつもりね。


 ピシッ!


 突然何かを切り裂くような鋭い音がしたわ。しまった裏を読み過ぎて左手に目を奪われていてしまったわ。コメリちゃんの動作からして針金を水面に振り下ろしたとは思うけど、きっと今何かしたんだわ。目にも止まらない高速でアイテムボックスから魚を取り出したのかしら。残念ながら私の目でもインチキは捉えられなかったわ。まあでも右手の中から魚を取り出したら間違いないわ。


「やったぞ。今獲ったぞ。」


 よし!私がインチキをあばいてやる。私は地面を思いっきり蹴ってジャンプして飛ぶとコメリちゃんの右手を押さえた。


「ちょっと!リオ何するんだよ!」


「ふん!右手で今アイテムボックスから取り出したんでしょ。証拠は今押さえたからね。」


「な、何を言ってるんだよ。」


「しらばっくれても無駄。無駄。」


 そう言って私はコメリちゃんの右手を無理やり開かせた。しかし針金の他はその手に握られていなかった。


「リオ!左手!」


 サオリの言う通りだわ。今のどさくさで左手から出したかもしれないわ。私は左手も無理やり開かせた。


「あれ?何もない。」


「何もないじゃねえだろ。魚が逃げちまうだろ。」


 そう言うとコメリちゃんは水面に浮いた魚をあわてて追いかけて行った。


「どうだい?これでオレが本当に獲ったって分かっただろ?」


 コメリちゃんがどや顔で言ってきた。悔しいな。あ、そうだ。アイテムボックスには生きた物を入れられないから魚を見てみれば良いんだわ。


「ちょっと今獲った魚を見せてよ。」


「まだ疑っているのか?しつこいな。ほらよ。」


 コメリちゃんが投げてよこした魚を調べたが別に不審な所は見つからなかった。


「うん。ざっくりと切れている以外は普通の魚ね。降参だわ。私じゃ手品を見破れなかったわ。」


「だーから。手品じゃねえつうの。しかたないなあ。じゃあいつものように解説するよ。まずこの魚の習性だ。この魚はオレがいた元の世界でもいてあっちでは鮎と言われていたんだ。鮎と言う魚はリオ達が泳いでいた深場にもいるけど、基本こういう浅場が好きなんだ。餌のミズゴケが多くあるからね。それに上流へ上流へと昇る習性もあるから、オレはリオ達の上流でこうして待っていたんだよ。ただぼーっとしていたんじゃないぜ。待っていたら。ほら、そこ。いっぱい泳いで来ただろ。足元近くまで来たら・・・・」


 ピシッ!


 コメリちゃんはまた針金を振り下ろした。今度はコメリちゃんの手の動きが見えた。なるほど水面を泳いでいる魚を目にも止まらぬ早業で斬ったんだ。斬られた魚がぷっかりと浮いた。


「どうだい。これがオレの手品のカラクリってわけだ。」


 どや顔でコメリちゃんが言った。


「参った。参った。降参だわ。でも一つだけ教えてなんで針金なの?」


「まあオレもリオもたぶん剣でも同じことができると思うけど。重い剣や刀でこんな浅い水をぶった切ったら下手したら勢い余って地面まで斬ってしまうだろ。そしたら石や岩で刃がボロボロになってしまうだろう。そんな危険を冒さないでもこの手ごろな針金で十分なんだよ。ほれ。やってみな。」


 そう言ってコメリちゃんは私に針金を投げてよこした。軽く振ってみるとピュンピュンと空気を切り裂く感じがして気持ち良い。なるほどこれならいけるかもしれない。私もコメリちゃんの真似をしてみた。


 じっとしていると安心したのか魚が寄って来た。水の中と違って体が軽い。私もコメリちゃん並みに目にも止まらぬ速さで針金を振り下ろせた。切裂いたのは空気だけじゃなかった。水とそれどころか中で泳いでいる魚までも切裂けた。真っ二つになった魚がぷかりと浮かび上がった。


「え!うそ!」


 あんなに難しかった魚突きが簡単にできた。


「オレ達人間は陸の上で生活する動物だからね。水の中だと動きが不自由だけど水の上ならこんなに自由なんだよ。だから魚を獲るにしても無理して水の中に入る事ないんだよ。」


 なるほどなあと私が感心していたら、


「じゃあなんでみんなにも針金を渡してそうしろと言わないのよ。」


 とサオリが突っ込んだ。危ない。危うくコメリちゃんの詭弁に騙される所だったわ。さすがはサオリ。


「それが出遅れたのでしかたなしに・・・・」


「ふん!まあ良いわ。特別におまけしてあげる。インチキはしていないのは確かみたいだから。その代わりにリオだけじゃなくてわたしにもその針金を貸しなさいよ。」


「もちろん良いよ。」


 コメリちゃんはアイテムボックスから針金を出すとみんなに配ってくれた。


 最初からそうすれば良いのにまったくこいつは。だからみんなからインチキしたとか疑われるんだよ。


 針金をもらったらみんなで魚獲り再開だ。私は簡単にできたからわからなかったけど、これはこれで難しいみたいだった。よっぽど速く振らないと水まで切裂く事はできないみたいだった。サオリでさえ手こずっていた。私達はフレデリックが呼びに来るまで夢中で針金を振りまくった。


 呼びに来たフレデリックにしたら異様な光景だったでしょうね。だって裸同然の格好の少女達が川の中で針金を夢中で振っているんだもん。いや。ラッキーで良い光景だったみたい。だって顔がにやついてたもん。恥ずかしい。




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