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第308話 一切れの黒メロン

 




「そろそろ着く次の村で2時間ほど休憩を取ろう。馬達も休ませてやらんとな。お前さん達も慣れない馬車の旅で疲れたろう?」


 早朝から馬に水を飲ませるための小休止とトイレタイム以外はずっと走りっぱなしだったので、正直座っているだけのオレ達でもそろそろ限界だった。尻が痛いわ。手足が伸ばせなくて痛いわで。


 オレは早速馬車の中にいる2号にテレパシーで伝えてやった。2号がみんなに伝えたみたいで中から歓声があがった。


「何だ?なんか中ですごく喜んでいるみたいだけど。もしかして休憩の事で喜んでいるのか?」


「ええ。まあそうですね。」


「え?俺達二人の会話が中に聞こえるはずが・・・・。もしかしてそう言う能力なのか?」


「ま、まあ。その辺は企業秘密と言う事にしといてくださいな。」


「さすがはA級冒険者だ。こりゃ内緒話もできないな。」


 フレデリックは中の人間が地獄耳を持っていてオレ達の会話を聞いたと勘違いしているみたいだがそう言う事にしておいた方が良さそうだ。まさかオレと中の2号が同一人物だとは間違っても言えないしな。


 カナン村は街道沿いにある小さな農村だが食堂兼宿屋が2軒あり旅の休憩所としてそれなりに賑わっていた。さらに言えばその食堂兼宿屋は土産物屋も兼ねていた。


「ここカナン村では2時間ほど休むから昼食を摂って休んでくれ。あと村の外に出てもいいけど時間までに戻ってきてくれよ。」


 フレデリックの注意事項を聞いた後に中の2号達はわっと一斉に馬車の外に飛び出した。お土産にも興味があるがまずは腹ごしらえだ。なんせ早朝の出発から今まで何も食っていないからみんな腹ペコだ。式神のオレは食わないでも大丈夫だが、そこは付き合いだ。


「いらっしゃいませ。」


 オレ達と同年代くらいの若い女の子の案内でオレ達はテーブルに着いた。


「ねえ。おすすめの料理とかある?」


「そうですね。今の時期だと川魚の塩焼きなんか美味しいですよ。」


 食いしん坊のリオが尋ねると給仕の女の子はちょっと考えてから答えた。夏が旬の川魚と言ったら鮎だよな。この世界にも鮎もどきはいるから多分それの事だろう。これは楽しみだ。


「それって串に刺して焼くんですよね?」


「はい。そうですよ。」


 ダメ押しで尋ねたけど、これは間違いなさそうだ。これは絶対に食わんといかんだろう。他にも肉と芋のスープも美味しそうだな。みんなで協議の結果、メニューに有る物を端から全部一通り少しずつ注文する事とした。そして食べて美味ければ追加で注文する事にした。おすすめは聞いたけど、やっぱり食べてみないと美味いかまずいかわからないからね。大人数ならではの作戦だ。おすすめと言うだけあって鮎もどきの塩焼きはやはり美味かった。これに芋と肉のスープにパンを5人前追加で注文した。なんせ食べ盛りの娘5人だからね。よく食うんですよ。


「お客さん達王都から来なさったんでしょ?どこまで行かれるんですか?」


 他にお客もいないのでオレ達にずっと付きっ切りだった給仕の娘が話しかけてきた。


「ストーン島だよ。」


「ストーン島?」


 リオが答えたがもちろんストーン島なんてこの辺の人は誰も知らないだろう。


「ここからずーっとずーっと南に下った陸のはてからさらに船で行った所にある島ですよ。」


 オレはテーブルを使ってその若い娘に説明した。ピンと来てないみたいだが遠い事だけは理解したみたいだった。


「ええ!そんな遠い所に何しに行くんですか?」


「果物を食べに行くんだよ。」


 今度はサオリが答えた。


「果物って?」


「これですよ。おひとつどうぞ。」


 オレは隙を見てアイテムボックスから取り出した黒メロンを一切れその子に渡した。


「え!何このジューシーで良い匂いのする果物は。」


「良く冷えているからそのままがぶっとかぶりつくと美味しいですよ。」


 オレに言われるままに少女は黒メロンにかぶりついた。


「え!なにこれ!甘ーい!美味しい!」


 甘い物に飢えたこの世界の住人だ。このまま一気に貪り食うのかと思っていたら食うのを止めた。


「どうしたの?おかみさんに叱られるなら黙っておくから全部食いなよ。」


「いえ。妹たちにも食べさせてやろうと思って。」


 それで残しているのか。偉いな。泣かせる話じゃないか。よし、一玉全部やろう。オレはさらに一玉まるごとアイテムボックスから取り出した。


「ここにまだありますから遠慮せずに食べてよ。」


 そう言って黒メロン一玉を少女に手渡した。


「え!え?今どこから?それよりもこれってすごい高いんじゃないの?」


「うん。王都で買えば随分と高いですね。まあでも気持ちだから。遠慮せずに受け取って。妹さん達にも食べさせてあげてください。」


「あ、ありがとうございます。あの、あの。お母さーん。」


 お礼を言うなり厨房に向って引っ込んで行った。おかみさんと親子だったのか。


「こんな良い物をもらっても良いんですか?」


 娘の代わりにおかみさんが出てきた。


「ええ。良いですよ。これを今から売るほど仕入れに行きますから。」


「そうですか。じゃあ遠慮なくいただくとしますよ。ありがとうございます。その代わりサービスで料理をどんどん作ってあげますよ。」


 おかみさんのサービスで食卓はさらに賑やかになった。リオを始め食いしん坊のみんな大喜びだった。








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