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第307話 出発

 




 出発の日、御者のフレデリックは早朝にもかかわらず馬車を家の前まで回してくれた。まあ式神のオレも含めた5人の貸し切り便だからそれくらいのサービスは当然か。馬車の中に4人、御者の隣に一人と言う乗車配置だが、雨風が当たりなおかつ外の敵を見張らなければならない辛くて重要な御者の隣は必然的にオレのポジションとなった。他の奴らは馬車の中で高いびきだ。くそー。


「フレデリックさん。朝早くからすみません。」


「まあ良いって事よ。俺も朝早く出た方が早く目的地に着けるから都合が良いぜ。それより聞いたけどお前さん達は有名な冒険者なんだな。おかげでいつもは護衛を雇うんだけど雇わなくて良いからその分運賃は安くしたぜ。」


 そう言うフレデリックだが実はめちゃめちゃ強い。オレは鑑定でわかっていたがレベルが15もあった。これはその辺のへぼ冒険者よりもだんぜん強い。


「フレデリックさん。実は強いんでしょ?護衛はいらないんじゃないですか?」


 オレは軽く探ってみた。


「いや、そんなに強くないけど。こんな商売だから自分の身は自分で守らないといけない所もあるからな。実は俺も元冒険者なんだ。」


 フレデリックの話によると危険の伴う商売の御者は元冒険者が多いんだそうだ。


「まあ頑張ってC級まで行ったんだけど、そこが俺の限界だったよ。あんたらみたいなスター冒険者にはなれなかったよ。落ちこぼれの負け組冒険者さ。」


 そう言って寂しそうに笑った。


「いやいや生き残っているだけで凄い事ですよ。生きているだけで勝ちですよ。」


 オレはフォローしたが実際にそう思っているんだ。冒険者に最高の上がりがあるとしたら、それは五体満足で引退する事だと。そのためには低ランクの冒険者で終わってもかまわないって事さ。A級冒険者のオレが言うのもおかしいけどね。


「生きているだけで勝ちか。確かにそうかもな。有名な冒険者でもいっぱい死んでいるしな。俺が辞めたのも仲間が死んだからだよ。逃げたと思っていたけど俺は勝ってるのか。はははは。」


 またフレデリックは寂しそうに笑った。


 うーん。なんかフレデリックは現役冒険者に引け目を感じているみたいだな。


「俺は普通横に乗ったお客さんに冒険者時代の話をよくするんだけど今日はちょっと気まずいな。」


「いやいや。冒険者時代の話、オレも聞きたいですよ。」


 これは別に気を使っているわけではない。他の冒険者の話はオレ達にとっても参考になる事が多いからだ。情報を多く集めるのは冒険者のいろはだぜ。


「うれしい事言ってくれるね。それでどんな話をしようか?」


「そうですね。じゃあフレデリックさんが活躍して魔物を退治した話をお願いします。」


 フレデリックは自分の冒険譚を面白おかしく語ってくれた。フレデリックは冒険者としては二流だったかもしれないが話術に関しては一流だった。この世界に来てエンターテイメントに飢えていたオレは時がたつのも忘れるほど夢中で彼の話を聞きこんだ。時には相槌を打ち、時には自分の体験も語って。


「それで何のために君たちは冒険者なんて危険な事をし続けているんだい?」


 自分の自慢話も尽きたのかフレデリックがオレにふって来た。


「俺は金のため、生きるためにしかたなくやってたんだけどさ。人に使われるのも使うのも性に合わないからな。冒険者はなんだかんだで自由だからね。君たちはもう一生涯遊んで暮らせるだけ稼いだんだろ?」


「そうですねえ。お金は確かに稼ぎましたよ。正直な話。でも銭金の問題だけじゃないんですよ。オレ達が冒険者をしているのは。魔物に襲われて困っている人達がいたら助けたい。そう言う人助けの気持ちもありますけど、やっぱり冒険者が好きなんですよ。オレ達は。魔物と命のやり取りをすることが楽しくてしょうがないんですよ。ええ。脳みそ焼かれてるんですよ。オレ達は。」


「参ったね。さすがはA級冒険者って所だな。俺何か魔物が恐くて恐くて、いつも冒険者を辞めたいと思ってたもんな。そこが俺が一流になれなかった理由なんだろうな。」


「まあ一流になったって死んだら元も子もないですからね。でもオレは死ねないんですよ。魔物に恨みを返すまではね。」


 オレはかってスカイドラゴンに襲われた事を話した。もちろん生き返った事は伏せてだが。


「え!スカイドラゴン!そんな凄い魔物を討伐するのが目的か?それじゃ強くならんとな。」


 どうやらフレデリックはスカイドラゴンを知っているようで凄く驚いていた。


「スカイドラゴンを知っているんですか?」


「ああ知っているも何も、俺はこの目で見た事があるんだ。もちろん遠目だけどな。今でも思い出したら震えが止まらないぜ。あんなのに挑まないといけないかもしれないと思ったら、俺はもう冒険者を続けられなくなってしまったんだよ。お前さんは恐くないのかい?」


「もちろん恐いですよ。恐くてたまらないですけど、でもそれ以上に恨みを晴らしたい気持ちが強いんですよ。」


 オレは遠くを見つめて答えた。オレが生き返った意味はスカイドラゴンを討伐するためだろう。オレは両親の恨みを晴らすために生きているんだ。オレは改めて打倒スカイドラゴンを心に誓った。




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