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第304話 コメリちゃんVSイサキちゃん2号

 



 さてどうするか。剣と剣の試合じゃ到底かなわない。竹刀でばしばし斬られるだけだ。いや待てよ。イサキも言ってたけどこれは剣道の試合じゃない。イサキちゃん2号に合わせて竹刀で戦う必要はないな。でも剣対素手だと圧倒的に素手が不利だな。うーん。困った。


「じゃあ、始めるよ!」


 え!ちょっとまだ考えがまとまってないよ。イサキがもう試合を始めやがった。こうなりゃ破れかぶれだ。当たって砕けろだ。


 幸か不幸かイサキちゃん2号は今回は慎重だった。なめ切っての猛攻撃が無かった。オレとしてはなめ切って攻撃してくれたほうが隙も多くて良かったんだが。


 じりじりとイサキちゃん2号が間合いを詰めてきた。竹刀の間合いに入ったら一気呵成にまた攻めてくるつもりだろう。オレはそれを嫌ってじりじりと後ろにさがった。


「コメリちゃーん!逃げてたら勝てないよー!」


 リオのヤジが飛んだが全くうるさいちゅうの。


「コメリちゃん!もう後がありません!」


 しまった。アーリンの言う通りだ。ここは広さに限度がある中庭だ。さがるにも限度があった。イサキちゃん2号にうまく庭の隅に追いつめられてしまった。これ以上さがったらまずい。なんとか前に出ようとしたらイサキちゃん2号が撃ってきた。辛うじて竹刀で受けたが、つばぜり合いになってしまった。


「ふーん。私の攻撃を受けられるようになってきたじゃないの。じゃあこれはどう?」


 そう言ってイサキちゃん2号はまた力技できた。オレは完全に家の壁にまで吹き飛ばされた。


「おい!家を壊さないように頼むぜ!」


「家の心配より自分の心配をしたらどう?それじゃ家が邪魔で竹刀を振れないでしょ?」


 イサキちゃん2号の言う通りだった。これでは家が邪魔で竹刀を振りかぶれない。もしかして詰まれた。


「じゃあ。そろそろ行くわ。」


 そう宣言してからイサキちゃん2号は竹刀を振りかぶりながら飛び込んできた。同時にオレは一歩さがって壁にもたれかかった。竹刀が頭に当たる瞬間オレは頭をさげた。


 バキィ!


「なにい!」


 イサキの見事な面打ちはオレの頭に当たる前に壁に当たって阻まれた。


 オレはこの隙に壁際から脱出できた。


「だから家を壊すなって言ってるだろ!」


「くそー!」


 イサキちゃん2号は悔しがっていた。壁は攻撃の邪魔だけど代わりに防御に使えるんだぜ。でもこれは一回しか通用しないだろうな。イサキちゃん2号もバカじゃないから次は壁ぎりぎりで打って来るか、突いてくるだろうし。


「や、やるわね。まさか家の壁で私の上段斬りが防がれるとは思わなかったわ。」


 そう言いつつもまたオレを壁際へと追いやろうとしていた。剣の技術も力も敵わないオレは竹刀を打ち合うたびに少しずつ隅へと追いやられていた。オレも足を使って逃げようと試みたが素早く回り込まれてしまった。


「さあコメリちゃんお得意の壁際に追いつめてあげたわよ。」


 そう言いながらイサキちゃん2号はニタニタ笑っていた。


「あ、ありがとう。でも家を壊したらだめだよ。」


「大丈夫、大丈夫。今度は外さないから。」


 そう言いながら腰を落として距離を広げてやがった。


「そりゃー!突きー!」


 やっぱり突きを打ってきやがった。突きが来るのが分っていたから辛うじてかわせたが、分かっていなかったら、オレの首も家の壁みたいに大きな穴が開いていただろう。


「ああ、本当に壊しやがった。後で弁償しろよ。」


「ああ、ごめんなさい。」


 糞真面目なイサキちゃん2号は弁償と言う言葉で一瞬戦意を喪失した。チャンス。


「言葉攻め!そして突き!」


 オレはイサキちゃん2号の喉に突きを見事に決めた。が、イサキは一本を取らなかった。そうだよね。これは剣道じゃないよね。イサキちゃん2号が首をかばったので胴ががら空きになった。


「胴!」


 がら空きになった胴も見事に斬り払ったがオレの力では大きなダメージを与えられなかった。次の面でとどめだと思っていた所でイサキちゃん2号に蹴り飛ばされた。


 尻もちをついた所に当然のようにイサキちゃん2号は怒涛の攻撃を仕掛けてきた。まずいこのままではまた負けだ。オレは咄嗟に砂をつかんでイサキちゃん2号に投げつけた。これがうまい具合にイサキちゃん2号の顔に当たった。いくら式神と言えど目に砂が入ったら目が見えなくなる。


 今度こそ大チャンスだ。オレは素早く立ち上がると突きを決めようと腰を落とした。


「タイム!タイム!」


 すかさず審判のイサキが間に割って入った。


「なんだよ?砂をかけるのは反則かよ?」


「いや。反則じゃないけど選手にアクシデントがあったら止めるのは当然だよ。」


 言いたい事は良くわかるけど、止めるの早過ぎじゃない。イサキちゃん2号もイサキも元々一人の人間だからえこひいきは当たり前か。


 イサキの水魔法でイサキちゃん2号は砂を洗い落としていた。


「くそー!相手の中身がアメリだと言う事を忘れていたわ。勝つためなら手段を択ばないあのアメリだと言う事を。」


 イサキちゃん2号がイサキに渡されたタオルで顔を拭きながら文句を言った。


「ふん。審判のイサキとグルになっているくせによく言うよ。イサキが止めていなかったらオレの勝だったのによ。」


「そんなこと言うならイサキと二人掛かりで行くよ。」


「ふん。お前ら・・・・・・」


「ちょっと待った!審判はわたしが務めるわ!」


 売り言葉に買い言葉で二人掛かりで来いやと言いかかったところにサオリが割り込んでくれた。助かった。いくらなんでも二人相手では絶対に勝てない。サオリも大金がかかっているから必死だった。


「え?私の審判に文句でもあるの?」


「大いにあるわよ。今のはどう見ても止めるの早すぎよ。イサキ。あんた。私情挟み過ぎ。」


「え!そんな事ないよ。」


「じゃあ。リオに聞いてみようか。リオ。どう?」


「うーん。よくぞ止めたイサキと、本音では言いたいけど。たしかに止めるのちょっと早過ぎたね。」


 リオも本音では審判のイサキ良くやったと思っているみたいだが、戦士としての矜持でしかたなくサオリに従ったみたいだった。


「じゃあ。これからはわたしが捌くよ。良い?二人とも」


「「おう!」」


 オレとしては願ったりかなったりだった。サオリなら公平なジャッジをしてくれるだろう。


「じゃあ始め!」


 サオリの合図とともにイサキちゃん2号は怒涛の攻撃を仕掛けてきた。短期決戦でけりをつける気か。オレはかろうじてその攻撃をかわし続けた。


 しかしオレには奥の手があるのを忘れてもらっては困る。オレは手のひらの中に隠し持っていた砂をイサキちゃん2号の顔を目掛けて投げつけた。


「ぎゃっ!」


 上手い具合にイサキちゃん2号の顔に当たった。バカめ。同じ手に2度もひっ掛かるなんて学習能力のない奴。とりあえずチャンスだ。オレはイサキちゃん2号に斬りかかった。


 しかしオレの竹刀は空しく空を斬った。


「え?」


 そこからイサキちゃん2号の怒涛の攻撃が始まった。まずは脳天に一発面が来た。剣道なら面アリ一本でお終いだった。脳天に良いのもらって意識が上に行った所で今度はがら空きの胴に来た。後は棒立ちになったオレに連続攻撃がどんどん決まった。まずい。このままだとサオリに試合を止められる。止められたらオレの負けだ。


 オレは咄嗟にイサキちゃん2号を蹴った。オレを斬る事に夢中だったイサキちゃん2号は無防備だったためみぞおちに見事に蹴りが決まった。何度も言うけどこれは剣道の試合じゃないから蹴りは反則じゃない。ここで初めてサオリは試合を止めた。


「くそー!今のはどう見ても私の勝じゃないの?」


 イサキちゃん2号が審判のサオリに食って掛かっていた。


「ノー!ノー!」


 サオリが手を振って物言いを拒否していた。良かったサオリに審判を代わってもらっていて、イサキが審判だったら間違いなくオレの負けだった。


 ところでイサキちゃん2号だ。眼をつむったままで抗議している所から見ても目が良く見えていないはずだ。


「砂がかかったはずなのに、どうして?」


「ふん。私はね。本体のイサキと五感を共有することもできるのよ。つまりイサキが見ている物は私も見えるって事ね。」


「じゃあさっきはなんでイサキが止めたんだ?」


「あれは不意打ちを喰らった物だから面食らって立ちなおせなかったのよ。」


 イサキちゃん2号がイサキからもらったタオルで顔をぬぐいながらどや顔で解説していたけど、手品のタネは最期まで明かさないほうが良いんじゃないのか。とりあえずオレは目つぶしは無効だと言う事がわかった。


「その技はオレも使えるようになるかな?」


「ふん。修行次第ね。」


 イサキちゃん2号は短く吐き捨てたけど、どうやらオレにも使えそうだな。この試合中は無理だけど。


「ちょっとコメリちゃんしっかりしなさいよ。あんたには大金がかかっているのよ。」


 不甲斐ないオレにサオリが声をかけてきた。


「すまん。だけどこれからオレのターンだぜ。」


 サオリの手前強がってみた物のどうしたら良いんだろう。この動かない体がもどかしい。あ、そう言えばさっきイサキちゃん2号が不意打ちがどうこうと言ってたな。おそらく五感を共有するには時間がかかるんじゃないのか。そう考えると砂の目つぶしはまだ有効だぞ。


「コメリちゃん、竹刀はいらないの?」


 手ぶらでイサキちゃん2号の前に立ったオレを心配してサオリが聞いてくれた。


「ああ。どうせ剣と剣の戦いじゃ敵わないからもういらないわ。」


「ばかな。素手じゃますます不利じゃないの。自棄になったの?」


「自棄じゃないから安心してくれ。」


 そう言ってオレは親指を立てて笑ってみせた。



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