表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
303/373

第303話 コメリちゃんVSイサキちゃん2号

 



「あ、2号。2号がオレの代わりに死んだ(笑)。」


 オレに抱きかかえられた2号は深い眠りについていた。魔力がないのに無理をしやがって。オレは2号の頭を優しく撫でた。


 魔力枯渇で死んでいる2号に比べて、復活したばかりのオレは元気いっぱいだった。魔力も体力も満タンだった。このまま家に帰って2号と一緒に寝てしまうのはもったいなすぎるなあ。


「イサキは家にいる?」


 お迎えに来たサオリにオレは聞いてみた。


「うん。いると思うよ。ダンジョンから帰ったばかりだから部屋でくつろいでるんじゃないかな。」


「じゃあイサキちゃん2号もいるね。」


「うん。一緒にダンジョンにいたからいるんじゃない。そんな事聞いてどうするの?」


 さすがはサオリだ。目ざとい。まあやましい事はないから秘密にもしないよ。


「うん。見ての通りオレのマスターは死んでるから帰っても訓練できないじゃん。だからイサキに鍛えてもらおうと思ってさ。」


「え!こんなボロボロになったのに家に帰ってまた訓練するの?」


 オレの腕の中で息も絶え絶えに寝込んでいる2号を見てサオリがあきれて言った。


「いや、ボロボロになったのは2号だけだから。オレの方は元気いっぱいだから。」


「本当に元気だね。付き合わされるイサキもかわいそうだわ。」


「いやいや、付き合ってもらうのはイサキちゃん2号だけだからイサキには部屋で寝てもらうよ。」


「え!本体はいらないの?」


「うん。マスターは無理に出張る必要はないんだ。」


「じゃあ式神のあんたとイサキちゃん2号が頑張れば2号とイサキは家で遊んでても良いって事じゃない。そんなうらやましすぎる。」


 うらやましすぎるってサオリは家で遊んでいたいのか。


「え!サオリは家で遊んでいたいのか?」


「そりゃ働かなくても良いならね。」


「残念ながら2号もイサキも家で遊んではいられないみたいだよ。オレ達式神はマスターから遠く離れるとその姿を保つ事も意識を保つ事もできなくなっちゃうんだよ。」


「それでイサキちゃん2号はいつもイサキにべったりしているわけね。」


 イサキちゃん2号はイサキの影武者でもあるから、それだけの理由じゃないと思うけど、まあ今は良いか。


「うん。オレも2号とは離れられないね。」


 そう言うわけでオレは家に帰るとすぐにイサキの部屋に向かった。


「はーい!どうぞ。」


 部屋のドアをノックしたら返事があったが、どちらが返事したのかは声だけじゃわからなかった。いや目で見てもオレには違いが判らない。それくらいイサキの式神術は完成度が高かった。


「なんだ。コメリちゃんか。どうしたの?」


 部屋から一人顔を出したけどどっちだろう。


「よくオレがコメリちゃんだとわかったな。」


「そりゃあわかるよ。」


「それでお前さんはどっちなんだ?」


「私は本体のイサキさんよ。」


「悪いけど今用事があるのはイサキちゃん2号の方なんだ。」


「2号なら中にいるけど、式神どうしで何を企んでいるの?」


 さすがはイサキだ。目ざといな。まあ隠すような事でもないしな。


「式神の先輩であるイサキちゃん2号に鍛えてもらおうと思ってね。」


「2号。コメリちゃんが呼んでるよ。」


「うん?」


 イサキちゃん2号が部屋から出てきた。


「悪い。悪い。お休みのところごめんね。式神のオレ達でも訓練したら腕が上がるんだろ?それでオレをちょっと鍛えてもらいたいんだ。オレのマスターの2号は今死んでるんでね(笑)。」


「あらまー。熱心だわね。まあ私達式神は疲れる事ないからね。良いわよ。相手してあげる。」


「お、特訓か。なら私も参加するわ。」


 イサキちゃん2号どころか本体のイサキまで付き合ってくれるみたいだった。さすがは特訓大好きなイサキ軍団だ。


「イサキは今日もダンジョン帰りで疲れてるんだろう?無理しなくて良いんだぜ。」


「いやいや特訓となったら別だぜ。私もかわいがってあげるよ。コメリちゃん。」


 にたりと笑うイサキの笑顔が怖いけどイサキにも鍛えてもらえるのはありがたかった。


「実はこの体になってから体のキレも悪いし力も全然出せないんだ。」


「あー。それは仕方ないですよ。コメリちゃんが悪いんじゃなくて、アメリ2号の術の精度が悪いからですよ。コメリちゃんの体が完全体じゃないからですよ。」


「それは知っているけど、不完全な体でも戦う術はあるんだろ?それを2号ちゃんに教えてもらいたいんだ。」


「そうですね。イサキの術が不完全な頃は私もずいぶんと苦労しましたから、それなりに戦う術も身に着けましたから私のできる範囲で教えますよ。」


「よろしく頼むよ。」


 頼もしいイサキちゃん2号に指導してもらうべくオレ達3人は中庭へと出た。


「じゃあとりあえず今の実力を知りたいから竹刀で試合をしようか。」


「わかった。」


「じゃあ私が審判をするね。」


 イサキが審判を買って出た。


「魔法は?」


「あんたこんな狭い所で魔法を撃つ気?」


「い、いや。」


 唯一の勝ち目である魔法は審判のイサキに即効で封じられた。仕方ない。勝ち目は無いけど正面から当たって砕けるか。


「始め!」


 審判のイサキの合図で試合は始まったが審判などいらなかった。それほどオレは弱くてイサキちゃん2号に一方的に斬られまくった。唯一の救いは式神のオレはいくら斬られようが全く痛くない事だった。


「やめ!やめろ!2号!」


 いくら痛みを感じない式神でもこれだけやられるとただでは済まないだろう。大ケガをする前にイサキがなんとか止めてくれた。


「ごめん。ごめん。いつもアメリにはやられてるもんだから、思わず力が入りすぎちゃった。えへ。」


「えへじゃねえよ。2号、あんたやりすぎ。でも気持ちはわかるぜ。私もすっとしたもん。あれ?コメリちゃん、泣いてんの?式神なのにどっか痛かったのかな?」


「泣いたら悪いか?オレは心が痛いんだよ!イサキちゃん2号ごときにコテンパンにやられた事と自分の不甲斐なさが悔しくて心が痛いんだよ!」


 オレは泣いているのをイサキにばれた事で、泣く事を隠す事もなくおいおい泣いた。


「ありゃー。泣かせちゃったね。ごめんね。もう止める?」


「止めるわけないだろう。どんどん続けてくれ。」


 オレがあまり泣くもんだから心配したイサキちゃん2号がやさしく声をかけてくれたがオレはつっぱねた。


「今ので大体わかったわ。コメリちゃんはスピードもパワーも全然ダメだね。その体で私とまともに斬り合ったらめった斬りに合うのは当然だわ。でも中身はあのアメリなんだから私の攻撃ぐらいはかわせるんじゃない?」


「そっか。たしかにかわすだけならこの体でもできるかもしれない。」


「じゃあ次は攻撃をしないで防御に徹してよ。」


「わかった。頑張る。」


 少しだけ希望が持てた。オレにはイサキちゃん2号の剣筋は見えているんだ。見切るのもかんたんなはずだ。


「始め!」


「おりゃー!」


 オレをなめ切っているイサキちゃん2号はイサキの開始の合図とともに大きく振りかぶって上段から斬りつけてきた。


 オレはひらりとかわした。やった。なんとかかわせた。イサキちゃん2号の予備動作から動きを読んだのだ。これはもしかしていけるんじゃない。たしかに体はポンコツかもしれないがオレには今まで培った技術があった。船長ほどの達人でもないにしろオレには剣の腕があるんだ。


 かわされた事にもひるまずイサキちゃん2号はすかさず竹刀を横に払って来た。これはかわせない。オレは竹刀で受けた。


 竹刀で受けたはずなのにそのまま吹き飛ばされた。きたねえ。力技できやがった。しりもちをついたオレの頭にイサキちゃん2号の面が見事に決まった。


 これは剣道の試合じゃないから一本それまでと言う事はない。イサキちゃん2号はオレをまた滅多斬りにしてくれた。イサキが止めてくれるまでオレは斬られ続けた。


「くそ!うまく行くと思ったのに。」


 オレが悔しがっていると。


「今のは途中まで良かったけど後半はだめだったね。私の剣をまともに受けたらだめだよ。力がないんだから。受け流さないと。」


 イサキちゃん2号の痛烈なアドバイスが待っていた。


 そうだよな。今までのオレならイサキちゃん2号に力負けする事なんてなかったからついまともに受けてしまった。


「まあでも今の感じでやれば良いんじゃない。」


 イサキがやさしくフォローしてくれた。ありがとう。この調子で頑張るぞ。


「じゃあ次行こうか。」


「おう!」


「おりゃー!」


 本当にオレをなめ切ってくれてるな。またもやイサキちゃん2号は大きく振りかぶって斬りかかって来た。そんな予備動作の大きい一撃は目をつむってでもかわせるぜ。かわしざまに今度はオレがカウンターの一撃を喰らわせてやるぜ。


 イサキちゃん2号の大きく振りかぶった渾身の一撃がオレに向かって振り下ろ・・・


 されない。なにー!フェイントだ。一拍おいてから竹刀が振り下ろされた。


 これもかわせない。竹刀で受けるしかない。まともに受けたらさっきみたいに竹刀ごと頭に一撃を喰らってしまう。


 オレは咄嗟に竹刀を振り上げた。これが功を奏した。イサキちゃん2号の一撃はオレの竹刀を滑ってコースを変えた。イサキちゃん2号は勢い余って地面を竹刀で叩きつけた。


 隙あり。オレはがら空きになったイサキちゃん2号の頭に渾身の一撃を決めた。


 やった。一本取った。


 え?イサキちゃん2号がかまわずに打って来た。


「ちょ、ちょっと・・・・・」


 イサキちゃん2号の連撃がオレの頭を襲ってきて抗議の声をあげられなかった。


「やめ。やめい!」


 やっとイサキがイサキちゃん2号を引き離してくれた。


「ちょっと今のはオレの一本勝ちだろ?」


 オレは審判のイサキに抗議した。


「ああ。剣道ならね。」


「え?」


「でも私達のやってるのは剣道じゃないだろ。スポーツじゃないんだよ。相手を戦闘不能にするまで終わらないんだよ。」


「でも真剣なら今ので戦闘不能じゃ?」


「あんたもイサキちゃん2号も式神だろ。頭をちょっと斬られたぐらいじゃ死なないだろ。」


「そ、そんな・・・・・」


 オレの抗議は却下されてしまった。でもイサキの今の言葉でなんか見えてきた。オレ達式神は生身の人間と違って少々斬られようが痛くも痒くも無いって事を忘れていた。


「あ、なんか面白そうな事をやってるね。」


 リオがやって来た。


「コメリちゃん対イサキちゃん2号の式神対決ね。」


 サオリもやって来た。


 オレ達が庭で大声を出しているもんだから他にも暇な奴らがぞろぞろと部屋から這い出してきてしまった。


「いやあ対決とかそう言うんじゃなくてオレがイサキちゃん2号に鍛えてもらってるんだよ。」


「そうですよね。コメリちゃんが弱すぎて試合にならないですもんね。」


 アーリンの言う通りだけど、ちょっと癪に障った。


「ふ、ふん。今までのは師匠であるイサキちゃん2号に花を持たせていたんだよ。これだけ斬られまくったら攻略法もわかったよ。次はオレがイサキちゃん2号をぼこぼこにする番だよ。」


 下の者にあまりかっこ悪い所はみせられない。思わず虚勢を張ってしまった。


「なんだとー!」


 しまった。イサキちゃん軍団の地獄耳を忘れていた。イサキちゃん2号に余計な一言を聞かれてしまった。


「ずいぶんと大きい事を言ってくれるよね。じゃあもう一度試合をしようか。今度もまたぼこぼこにしてやんよ。」


「ふ、ふん。ぼこぼこになるのはそっちの方だぜ。」


 またまた虚勢を張ってしまった。もう引き返せない。


「これは面白い。イサキちゃん2号に銀貨一枚。」


 リオったら金まで賭け始めたぜ。


「私もイサキちゃん2号に銀貨一枚。」


「私も。」


「私も一枚。」


 でもみんなイサキちゃん2号に賭けるから賭けにならないぜ。


「あー。みんなイサキちゃん2号に賭けたら賭けにならないじゃないの。誰かコメリちゃんに賭けなよ。」


 帳面につけていたセナが言ったがお前がオレに賭けろよ。


「今コメリちゃんに賭けたら銀貨10枚総取りね。面白いわたしがコメリちゃんに銀貨5枚賭けるわ。」


 サオリ。うれしいけど今回ばっかりは無謀な賭けだぞ。


「コメリちゃん。」


「はい。」


「残りの5枚はあんたが自分に賭けなさい。」


「は、はい。」


 有無を言わせずにオレも自分に賭けさせられてしまった。


「バカだねー。サオリ。さっきの試合を見てなかったの?イサキちゃん2号とコメリちゃんじゃ実力はまるで大人と子供よ。銀貨ごちそう様。」


 うん。うん。リオの言う通りだよ。癪に障るけど。


「リオこそ、バカだねー。ここ一番の時のアメリの強さを忘れたの?だからわたしはコメリちゃんにも自分に賭けさせたのよ。真剣にやるようにね。」


 サオリは最期の言葉をオレに向って言った。こ、こえー。これは本当に真剣にやらないとサオリに殺される。




 *******************************



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ