第302話 脱出大作戦
とりあえずは出口に向かって進むしかないわ。魔物に遭遇しないようにね。けれどここはダンジョンの中、魔物に遭遇しないなんて不可能だわ。クロエとジュンの魔法の訓練だなんて裕著な事言っている場合じゃないわ。二人には頑張ってもらわないと。
「クロエ、ジュン。もうコメリちゃんには頼れないわ。わたし達3人でなんとかせんと。もう魔法で戦えとか裕著な事は言わないわ。二人の一番得意なやり方で戦って。」
「おう。やっと私の得意なやり方でやれるね。私はどちらかと言うと剣のほうが得意だからね。」
「私は元々魔法で戦うスタイルだからこのままで行くわ。」
クロエは剣が得意みたいで頼もしい事を言ってくれたが、ジュンの方はこのままか。
「じゃあクロエに先鋒を任せるわ。ジュンは今まで通り後方支援ね。」
「「おう!」」
こうしてクロエ、わたし、ジュンの順番で出口に向かって歩き出した。
魔物と戦いたくないとか思っているとかえってよく会ってしまう物だ。しかもオーク4匹のフルメンバーじゃないの。
「クロエ止まって!曲がり角の向こうにオークが4匹いるわ!」
「え!4匹?一人一匹以上じゃないの!」
クロエの言う通り、大ピンチなんだ。
「そうよ。気づかずに進んでたら、全滅してたかもしれないよ。とりあえずジュン。魔法よ。魔法で先手を取るのよ。」
「おう!」
ジュンは呪文を唱え始め、わたしとクロエは刀と剣を抜いた。
ちょっと待って。1号だったら数の多い敵と正面衝突だなんて不細工な事をしないわ。
「ジュン!魔法はちょっと待って!」
わたしはジュンを止めるとアイテムボックスの中を探った。アイテムボックスの中身は1号とわたしは共有しているのだ。良い物があった。さすがは戦闘マニアの1号だ。1号なら絶対入れていると思った。わたしはそいつを地面にたっぷりとばらまいた。
「みんな。見ての通り、足元に注意よ。でもこれだけじゃ弱いわね。クロエ。あんたも魔法を撃ちなさい。外れても良いからオーク達の視線を地面からそらせて。」
「わかった。オーク達が出てきたら撃てば良いのね?」
「そうよ。クロエ。その通り。じゃあジュンさん。お願いします。」
「オッケー!ファイアー!」
呪文を既に唱えていたジュンはすかさず魔法を曲がり角の向こう側に撃った。曲がり角の向こう側はここからは見えないが、範囲魔法のファイアーなら撃てるんだ。
「「「「グオー!」」」」
突然の大火事に慌てふためいたオーク達4匹が飛び出してきた。
「今よ!クロエ!」
「ファイアーボール!」
わたしの合図で撃ったクロエの魔法は見事に先頭のオークに当たった。これでとりあえずは一匹戦闘不能にした。魔法が当たるとわたし達は後ろにさがった。わたし達が逃げたと思った残りのオーク達はクロエの魔法には怯まずますます勢いよく走って来た。
「ギャッ!」
「ギャッ!」
「ギャッ!」
先頭のオークが叫び声を上げると続く残り2匹も叫び声をあげて転んだ。
「よし!斬って、斬って、斬りまくれ!」
わたしの合図で身をひるがえしたわたし達はオークに斬りかかった。転んだオークなどいくらポンコツ剣士のわたしとジュンでも敵ではない。簡単に斬り伏せた。
「見直したわ。2号。やっぱりあんたもアメリよ。」
「うん。偉い。2号。あなたも私のマスターだわ。」
二人はわたしの事をベタ褒めだった。少しはわたしの事をリーダーとして認めてくれたかしら。
「ところでこの地面いっぱいに撒いたのは何?」
「ああ。これはまきびしと言って敵の足止めに使う武具よ。」
クロエの質問に答えながらわたしはまきびしをせっせと回収した。おそらくこれはこの世界にはない物で1号の手製だと思われるから貴重品だもんね。
「こんな卑怯な、いや便利な物が有るとは知らなかったわ。」
「凄いでしょ?」
「うん。凄い。凄い。」
作って入れたのは1号だけど、わたしは自分の手柄のように言った。1号もわたしなんだから良いでしょ?
こうして力の足りない分は知恵と工夫で補ってなんとかオークの階層の入り口まで無事にたどり着けた。
入り口にはお迎えのサオリがもう来ていた。
「あれ?3人?コメリちゃんはどうしたのよ?」
サオリまで血相を変えてわたしに詰め寄って来た。
「ごめんなさい。私が燃やしました。」
わたしの代わりにジュンが泣きながら説明した。
「え!ジュンにやられたの?ジュン!」
サオリは今度はジュンに詰め寄った。
「待って!サオリ!コメリちゃんは死んでないから。」
わたしはジュンに助け舟を出した。
「死んでないならここに呼んでよ。今すぐに!」
サオリまでコメリちゃんの姿を見ないと納得しないのか。イサキちゃん2号で式神がどういう物か分かってるはずなのに。もう仕方ないな。でもだいじょうぶかしら。まあなんとかなるでしょ。サオリもいるし。わたしはアイテムボックスから式紙を出すと念を込めた。
「おいおい。オレは不死身だぜ。ご心配無用。」
1号が元気な姿で復活した。良かった。それに引き換え、魔力を全て使い切ったわたしはもうだめだ。今日のわたしは頑張った。もう休んでも良いよね。後は任せた1号。
「あ、2号。2号がオレの代わりに死んだ(笑)。」
コメリちゃん(1号)に抱きかかえられたわたしは深い眠りについた。
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