第300話 アメリ2度目の死亡
記念すべき300回でまた死ぬなんて・・・・・
どーも。みなさん。こんにちは。オレがアメリ1号改めコメリちゃんです。オレは元々弱虫アメリ(2号)の副人格なんだけどこの度式神としてデビューしたんだよね。デビューと言っても、2号の技の精度が低すぎてぼこぼこのオーク面でこの世に生を受けたんだ。美少女戦隊一イケてるアメリ様がオークよ。オーク。いやオークなんて言ったらオークに叱られるかもしれないね。それくらい不細工になっちゃったんだ。でも大丈夫。イーラム帰りのオレは顔を隠すベールを持っているからね。謎の女剣士の誕生ってわけよ。
オレが働けば本体である2号は家で遊んでれば良いって?それがそんなに甘くなかったんだよ。式神のオレは本体の2号と遠く離れてしまうとその形を保つ事も意思を保つ事もできなくなるんだよ。まるで親子電話の親機と子機みたいなもんだよ。そう言えばイサキとイサキちゃん2号もいつも一緒にいたな。離れたとしても同じダンジョンの中だし。後、わかったんだけど。オレは能力的に言っても不細工なんだよ。HPもMPも低いし、戦闘能力なんてゴブリンとどっこいどっこいなんだぜ。もっとも式神の完成形であるイサキちゃん2号にしたってイサキの半分くらいの能力だから、戦闘能力が2倍になるって都合の良い事はなさそうだぜ。所詮式神は本体の劣化コピーにしかすぎないって事さ。
そう言うわけで今日も朝から東のダンジョンでオーク退治だぜ。メンバーは式神であるオレ、オレの本体である2号、オレの従魔の幽霊のクロエに、同じく従魔の魔物のジュンのぽんこつ4人グループだぜ。て言うか人間が一人しかいないモンスター軍団だぜ(笑)。
「じゃあコメリちゃん。どんな作戦で行こうか?」
「うーん。そうだな。一応オレも魔法使えるけど魔力が少なすぎて魔法使いとしては使い物にならないからな。かと言って体力も低すぎるから前衛の剣士としても使えないんだけど。」
「そうだよねえ。我ながらポンコツ過ぎるよね。あと火にも弱いよね。」
「ポンコツってお前が作ったんじゃないか。オレは真ん中で死なないように頑張るよ。」
「わかった。今回は苦手を克服する課題もあるからわたしが前衛で出るわ。コメリちゃんはその後ろね。クロエとジュンは後衛で魔力が尽きるまで魔法主体の攻撃をしてね。」
「「「おう!」」」
2号がシャキシャキとチームを引っ張ってるみたいだが、実際は2号は無理して頑張っているんだ。怖くて怖くて逃げだしたいのを我慢して頑張ってるんだ。偉いぞ。2号。オレにはわかるぞ。オレはおまえなんだから。オレはそんなお前のために文字通り身を粉にして尽くさないといけないな。いざと言う時はこの身を挺してお前を守るからな。本体であるお前を守るのがオレの存在意義だからな。
ポンコツ式神であるオレは魔力も戦闘能力も著しく劣っているが基本的な能力は本体と同じだ。だから鑑定もできるぜ。鑑定ができれば物陰に隠れた魔物も鑑定で探し出せるんだぜ。
「2号!止まって。曲がり角の向こうにオークが4匹待ち構えているよ。」
「お、おう!」
恐怖と緊張で2号はだいぶテンパっているな。鑑定での索敵を忘れるなんて。オレがフォローしないとな。
「このまま無警戒で進んでたらやられてたぞ。」
「お、おう!」
「落ち着け2号。お前はオレなんだ。だから強いんだ。オークなんか楽勝だぜ。」
「お、おう!わたしは強い。わたしは強い。オークなんか楽勝だぜ。」
「よし!オレが先に出て斬りこむから2号は後を付いてこい!」
「おう!」
偉そうに言ってるけど、そう言うオレもポンコツ戦士なんだけどな。まあオレには恐怖心と言う物がないだけ2号よりましかも。
でも参ったなあ。オレの戦闘力はオークよりも弱いゴブリン並みだからな。縮地等のいろんな技も使えないし。正面からまともに行ったら待ち構えているオーク4匹に瞬殺されるだろうな。ここは卑怯技、もとい工夫技で行くしかないな。こっちに気付いてないなら不意打ちもイケるがとっくに気づいて今か今かと待ち構えているからな。
「クロエ!オレが今から出す物に火を着けて。」
「おう!」
オレはアイテムボックスから木を何本か出した。こんなこともあろうかと思って木材やら木やらなんでもかんでも入れといて良かった。火を着けるのはオレの魔法でも良かったけど、魔法使い役の二人に魔法を使わせた方が訓練になるからな。
「じゃあこれの先っぽに火を着けて。」
「おう。ファイアー。」
これは松の木みたいに油脂をたっぷり含んだ木だぜ。良く燃えるんだぜ。燃えるだけじゃないぜ。葉っぱ付きの生木だから煙も半端ないぜ。オレは燃え盛る生木をオークの潜んでいる曲がり角に投げつけた。狭いダンジョン内だ。あっという間に辺り一面煙で充満した。オーク達のせき込む音が聞こえた。
「来るぞ!」
オレが警告を発するのとほぼ同時だった。煙でいぶされて我慢しきれなくなったオーク4匹がほぼ同時に飛び出した。
「「「「グオー!」」」」
勇ましく雄たけびを上げてるが煙で目をやられて涙で前が良く見えないだろう。しかも苦しまみれにやみくもに突進してくるだけだ。いくらポンコツ剣士のオレ達でも簡単に斬り伏せられるぜ。
オレに向って来たオークはこん棒を上段から振り下ろしてきた。そんな力任せの攻撃はボクシングのテレホンパンチと一緒で避けるのは簡単だぜ。オレはこん棒の一撃を避けると同時に刀を横に払った。突進してきたオークに対して今の一撃はカウンターになり非力なオレでも一撃で倒せた。すかさず振り返ると2号の助太刀に入った。2号はオークのこん棒を刀で受けていた。つばぜり合いと言う奴か。2号の本来の力ならオークごときに力負けしないはずなんだけど、じりじりと押されていた。2号はF1に乗った初心者ドライバーみたいなもので自分の体を上手く使えないのだろう。
「2号!蹴飛ばせ!」
手がふさがっているなら足がある。オレは2号に指示した。
「おりゃー!」
気合を入れて繰り出された2号の蹴りはオークの巨体を簡単に吹き飛ばした。倒れたオークにはオレがとどめの一撃をプレゼントしたぜ。
クロエもジュンも元々実力者であるからオークごときは簡単に斬り伏せていた。
「よし!クロエもジュンもよくやった。オークを回収したらこんな煙い所はさっさと撤収するぞ。」
「「「おう!」」」
さすがのオレ達も煙が充満したところでは死んでしまう。あわてて撤収した。
*
「さすがはアメリだな。技も力も無くなっても何とかするなんて。さすがは私のマスターだ。」
「おいおい。今のアメリはこの2号だぜ。」
クロエが前を歩くオレに話しかけてきたがオレは今アメリじゃなくて式神コメリちゃんだぜ。
「わたしにとってマスターであるアメリはあんただけなんだよ。なあジュンもそうだろう?」
「もちろん。」
二人がオレの方をアメリとして認めてくれるのはうれしいけど、オレも2号も同じアメリなんだぜ。2号の寂しそうな顔を見てオレは思った。2号もみんなに認められるようにしないとな。
「あ、また岩陰で待ち構えているよ。」
今度は2号は鑑定を忘れなくして事前に敵を発見した。2号の言う通り岩の陰で2匹のオークが不意打ちをくらわそうと待ち構えてやがるぜ。
2号がこちらをちらりと振り返ったのでオレは大きくうなずいた。2号に全て任せたって事だ。
「よし!さっきみたいにあぶりだすよ。クロエとジュンは岩の向こうに火魔法を、コメリはわたしと一緒に出てきたオークを迎え撃って!」
「「「おう!」」」
完璧な作戦だ。やるじゃないか2号。クロエとジュンは呪文を唱え始めた。
「「ファイアー!」」
ほぼ同時にクロエとジュンの魔法が岩陰に炸裂した。文字通り尻に火が着いた2匹のオークはあわてて飛び出した。
今度は煙による目隠しがないぶん難易度が少し上がった。だが不意打ちを喰らったならともかくあわてて飛び出したオークなどポンコツ剣士のオレ達でも楽勝だ。オレはすれ違いざまに居合抜きで斬り払った。力のないオレはあえてカウンターで敵を倒すようにしている。相手の突進力が加われば非力なオレでも一撃で倒せるからだ。
逆に力はあるがその力を持て余している2号の方を振り返ると、また苦戦していた。ほとんどでたらめに刀を振り回していた。仕方ない助太刀に入るか。オレは後ろからオークを斬りつけた。非力なオレの一撃など到底致命傷にはならないが、オークの気をそらせる事が出来た。
「今だ!」
オレが叫ぶと同時に2号は刀を振り下ろした。オークの巨体は一撃で真っ二つに見事に別れた。さすがはオレの体だ。我ながら凄い力だ。
オレは2号とハイタッチを交わした。
「どうだ?2号も凄いだろう?」
オレはすかさず2号を持ち上げた。
「お、おう!」
クロエは認めた。
「ジュンはどうだ?」
「2号もアメリと認めるよ。」
ジュンも認めたけど、何でこいつら偉そうなんだよ。従魔のくせに。ハッキリ言って2号もオレなんだぞ。2号にもちゃんと従えよ。
これで合計6体のオークを確保したから一日の稼ぎとしては十分なんだけど、まだ試したい事が一つだけあったのでもう少し進む事にした。試したい事は何だって?それは死ぬ事だよ。せっかく何度でも復活できる式神になれたんだから、この際に試してみないとな。でも死ぬのはやっぱり恐い。これは生き物としての本能だからある程度は仕方ないんだけど、戦士としてそんな甘い事は言ってられない。
「よし!次はオレ一人にやらせてくれ。」
「急にどうしたんだ?アメリ。」
「そうよ。あなたを守るのが従魔である私達の務めなんだからそんな危険な目には合わされないわ。」
オレの従魔であるクロエとジュンはオレが血迷ったとでも思っているみたいだった。
「危険でも良いんだよ。ジュン。オレは一度で良いから死んでみないといけないんだよ。」
「え!死んだらお仕舞じゃないの?」
「いや。式神のオレは何度でも復活できるんだよ。本体の2号が死なない限り。」
「え!そんなチートな!」
「そう。オレがあえてこんな弱い式神になったのはそれがあるからだよ。そう言うわけで次から一人で行くから。」
「「わかった。」」
オレの従魔の二人は納得したみたいだった。
「そう言うわけで2号は下がってくれ。」
「おう。気をつけて。」
これから死に行くのに気をつけてもないもんだ。まあとにかくオレは一番前に出た。でもただで死ぬつもりはない。一匹でも多くのオークを道連れにするつもりだ。
おあつらえ向きに向こうから歩いて来るオークは4匹いた。前のオレならオーク4匹ぐらい楽勝だったが今は劣化コピーの式神の身だ。タイマンでギリギリ勝てる程度の強さだ。4匹だったら確実に負ける。つまり死ねるって事だ。
こうなったら作戦も糞もない。オレは刀を抜くと雄たけびを挙げながら走り出した。オレに気付いたオーク達も雄たけびを挙げながら一斉に向って来た。覚悟は決めていたと言え、やっぱり恐い。オレは初めてオークに恐怖心を持った。恐怖にかられると普通と違って、オレは逆にいつも以上の力を発揮するタイプみたいだった。体のキレがいつもより良い。2匹のオークのこん棒攻撃を軽々とかわすと一匹目のオークを斬りつけた。オークの巨体が真っ二つになった。力も2号並みにあるようだった。こうなるとオレは無敵状態だ。オーク4匹を軽々と斬り伏せてしまった。
「なんか4匹相手でも勝っちゃった。えへへ。」
オレが申し訳なさそうに勝利の報告をすると。
「勝っちゃった。えへへじゃねえよ。ファイアーボール!」
なんと2号がオレに向って魔法を撃ってきやがった。
「ギャー!熱い!」
紙でできたオレの体は良く燃えた。
「く、苦しい。た、助けて。」
オレが2号に助けを求めてすがろうとすると、
「じゃあ楽にしてやるよ。死ね!」
今度は刀で一刀両断にしてくれた。
オレの意識はそこでスイッチを切ったようにぷつんと途切れた。
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