第299話 美少女?コメリちゃん
「じゃあこの式紙に念を込めて。」
イサキから式紙と言う物を渡されたがこれはどっからどう見てもただの紙だった。いやただの紙じゃないね。正確には板のように厚いただの厚紙ね。
「念を込めるってどうするのよ?だいたい念って何よ。」
「え!そこからかよ。」
わたしはこう見えて理論派だからね。頭で理解できない事はできないわよ。ちなみにわたしは真アメリよ。みんなが言う所の2号よ。式神の修行は本体であるわたしがしないといけないらしいので修行大好きの1号は今日はお休み中よ。
「アメリ。あんた空を飛ぶとき、自分の体が浮くようにイメージしながら空を飛べるように心の中で強く思っているでしょ。それが念よ。」
「あー。心のパワーって事ね。」
「そう。その心のパワーで自分の姿をイメージして。」
「わかった。」
この紙はただの紙でなかった。こころのパワー、念と言うやつを吸収するみたいだった。
「あ。なんか人型の物ができた。」
「え!もう?やっぱりアメリは天才だ。普通はこれだけでも何年もかかるんだぜ。」
イサキに褒められてわたしはうれしかった。しかしどんなに頑張ってもそれ以上の物はできなかった。さすがに一朝一夕にできる簡単な物ではないらしかった。だからと言って諦めるわけにはいかない。わたしはわたしの出番の時はほとんどの時間を式神の訓練に費やした。まあわたしの出番の時と言っても家でぼーっとしている時間がほとんどだからね。ダンジョンに行ったり魔物退治に行ったりする仕事の時間は1号が頑張ってからね。
*
3か月もかかったけど何とか人間らしい物を作れるようになったわ。さっそくイサキ師匠に見せに行ったわ。
「おお。凄い。やっぱりアメリって天才。今度はこれに魂を込めて行こう。」
「魂を込めるって?」
「1号の精神をこの式神に乗り移らせるのよ。」
「どうやって?」
「強く念じるのよ。」
「また念じるの。」
「そう念じるの。」
イサキも感覚派の人間だからね。なんでも念じるですましちゃうからね。具体的な事は自分で考えないと。ここはやっぱり1号に知恵を借りるか。わたしは自室に戻ると声をかけた。
『1号起きて。』
『おう。なんだ?』
『うん。式紙がやっと人間らしい形になってきて後は1号の魂を乗り移らせれば術の完成なんだけど、イサキ師匠にやり方を聞いたら念じろとしか言わないんだけどどう思う?』
『どう思うって、イサキらしいじゃないか。おそらく小さな時から普通にできたであろうイサキはどうしたらできるとか考えたことも無かったんだろうな。
たぶん憑依者であるオレが何とかしないといけないんじゃないかな。』
口に出していたら独り言を言う危ない人だけど、わたし達は脳内で会議をしていますから安心してください。脳内会議の結果、わたし達は二人とも意識を保ちながら憑依者である1号が自分の体から離れられるように努力すると言う結論に達した。
『体から精神だけ出るって難しいと言うかやり方が想像もつかないな。ていうかその不細工なのがオレの依り代かよ。』
『贅沢言わないの。わたしだって今絶賛修行中なんだからそのうち何とかうまくなるよ。』
『そうだな。文句は依り代に乗り移ってから言えやって事か。それで今ちょっと気づいたんだけど、これってオレが幽体離脱すれば良いんじゃね。』
『幽体離脱?幽体離脱って死ぬ間際とかに自分を外から見つめたりとかするあれ?』
『そう。それ。』
『それでどうやってするの?まさか死ぬの?』
『まさかオレもお前もまだ死にたくはないだろ?死ななくてもヨガや座禅の瞑想で心を無にすればできるんじゃないかな。精神的に死んじゃえば。』
『やっぱり死ぬじゃん(笑)。』
『だから死なんって(笑)。』
『それで具体的にどうするの?座談でも組む?』
『まあ、オレに考えがあるからちょっと体をオレに戻してくれ。』
『わかった。』
わたしは意識を切った。しかしわたしの肉体を支配するはずの1号はそこにいなかった。
「やっぱりな。秘密は式紙にあったんだよ。2号が引っ込んだらオレ1号が自動的に肉体に出るはずがこの式紙に引っ張られて幽体離脱しちゃうんだよ。」
脳内でなく、不細工な式神となった1号がリアルにしゃべった。
「え!そんな簡単に。それにわたしは引っ込んだはずだけど。」
「ああ、オレがいなくなったから本来の人格であるお前が戻って体を支配するのは自然な事さ。問題はこの式紙だ。この式紙はただの紙に見えて、ただの紙じゃなかったって事か。おそらく精神を吸収する物質でできてるか、精神を吸収する念を込められてるんだろうな。」
「また念?」
「そう。念(笑)。」
わたし達は笑いながらハイタッチを交わした。やった。ついにできたんだ。もう一人のわたしがここに誕生したんだ。
「喜ぶのはまだ早いぞ。不細工なのは外見だけでなく中身もだぞ。これじゃオレはお前のひどく劣化したコピーにしかすぎないから能力がめちゃめちゃ低いぞ。それこそゴブリンにでも負けちゃうぞ。」
鏡で自分の姿をしげしげと見て1号が言った。たしかに若い女の子がこんな潰れたかぼちゃみたいな顔じゃかわいそすぎる。もっと修行して早く完璧なわたしを作ってあげないとと思っていたら。
「でも、これはこれでおもしろいぞ。さっそくリオにでも見せてこようっと。」
「だ、だめ!」
なんかわたしの恥しい姿と言うか作品を他人に見られるような気がして1号を止めようとしたが、1号はそんなわたしをやり過ごして部屋の外に出てしまった。わたしはすぐに1号の後を追った。
「おーい。リオにアーリン。元気?」
「だ、誰?」
「魔物じゃないですか?リオさん。」
案の定、居間でくつろいでいたリオもアーリンも1号だとは気づいていなかった。しかし魔物とは失礼だぞアーリン。
「「おい!魔物とはなんだ!」」
さすがは二人ともわたしだけあってきれいにハモッてしまった。
「おい。美少女戦隊一イケてるオレに対して魔物とはなんだ。お前もこんな顔にしてやろうか?アーリン。」
「その声はアメリさん?でもここにもう一人いるから、もしかして1号さんなの?」
「そうだ。その1号様よ。」
「「えー!」」
1号がいくら偉そうに言ってもかぼちゃ面のオークが何か喋ってる風にしか見えず。
「な、何。今度はオークに変身したの?アメリ(笑)。」
「やっぱり魔物ですよね。リオさん(笑)。」
二人の爆笑を誘ってしまった。
「何々?楽しそうね。その子誰?わたしにも紹介してよ。リオ。」
まずい事に笑い声に釣られてサオリまで居間に入って来た。
「あー。この子はコメリって言ってアメリの親戚なんだ。仲良くしてやってよ。サオリ。」
「コメリちゃん。わたしはサオリよ。よろしくね。」
リオが悪乗りでわたしの親戚だとか言う物だからサオリが真面目に挨拶しちゃった。
「そうよ。オレが不細工でオーク面のコメリちゃんだよ。よろしくなサオリ。」
「え!その声はアメリ?またずいぶんかわいくなったものね(笑)。」
今度はサオリにまで笑われてしまった。なんかわたしが笑われているみたいで気分が悪いんだけど。当の本人(一号)は全然平気みたい。
「で、でも良かったわ。私達のアメリがついに帰って来たのよ。少々かわいくなったけど(笑)。」
私達のアメリが帰って来たって何よ。リオ。このアメリさんはあんたらのアメリじゃないの?まったく失礼しちゃうわね。
「よし。不細工コメリちゃんの美少女戦隊入隊を祝って飲みに繰り出そう。アーリンはみんなを呼んで来て。」
「はい。リオさん。」
なんかリオが仕切って飲み会に繰り出す事になっちゃった。このブサイクを他所の人にもさらすのかと思ってたら。
「アメリ。あんたはコメリちゃんをかわいくしてあげなさい。」
「お、おう!」
コメリはわたしの作品だからそりゃかわいくするわよ。でも不細工面はなるべく隠した方が良いわね。帽子とかかぶらせないと。
「1号行くよ。」
「お、おう!」
珍しく素直に1号がわたしに追いてきた。さあきれいな服を着て出かけましょうか。
*
「それでオレはどうしたら元の体に戻れるんだい?ずっとこの体でも良いんだけど。ちょっとこの体は能力値が低すぎるから戦闘に使えないからな。」
「あー。それは簡単だ。死ねばいいんだよ。」
1号とわたしが1号が元の体に戻る方法をイサキに聞きに行くと、イサキは物騒な事を言い出した。
「いや。死ぬのは嫌だ。怖い。」
「よく言うよ。私のイサキちゃん2号を何度も殺しておいて。」
「それはごめん。他の方法を教えて。」
1号がイサキに素直に謝った。
「うん。そうしたら戻りたいって強く念じるんだよ。」
「また念じるのかよ。あれ?」
『戻れた。』
戻るのは簡単みたいで1号がわたしの元に戻って来た。ついでに言うと不細工な式神は元の紙の板に戻った。
「一度死んでみれば良いのに。けっこう癖になるよ。」
相変わらず物騒な事を言ってイサキは残念がっていた。
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