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第287話 へっぽこパーティ

 



 オレは久しぶりにセシルの町の東のダンジョンに来ていた。お供はイサキにクロエ、ジュンだ。なんで今さら東のダンジョンかと言うと、もちろんポンコツ3人衆の鍛錬のためだ。東のダンジョンはオレも駆け出しの頃にお世話になった初心者向けのダンジョンだからだ。


「ジュン。よそのダンジョンに入るのは良いの?ダンジョンマスターとかに挨拶しないで良いの?」


「そうですね。本来はまずいかもしれないけど、今はもうアメリさんの従魔だから良いんじゃないですか。それにこういった古いタイプのダンジョンにはもうダンジョンマスターはいませんよ。」


 ジュンの話によると誕生してから何十年も経つようなダンジョンは大概人間によって攻略されていてダンジョンマスターも滅ぼされていると言う事だった。


「ふーん。じゃあ遠慮なくやれるって事だ。じゃあ早速やってもらおうか。」


 オレはちょうど岩陰から現れた3匹のスライムを指さして言った。


「あ、イサキとクロエは休んでて良いよ。」


「「おう!」」


「じゃあ行きまーす!」


 ジュンは勢いよく剣を抜くと3匹のスライムに向って走り出した。ダンジョン攻略の前に鍛えたもののLVはいまだに3しかない。その辺の村娘のほうがよっぽど強い。LVが低すぎてMP不足で魔法も撃てない。よってジュンの攻撃は剣で斬るしかない。剣で斬るしかないが特に剣技を持っているわけでもないからスライム相手でも厳しい。一匹目を斬った所で案の定二匹目のスライムの体当たりを受けてしまった。怯んだところに三匹目が襲い掛かった。


「ちょっとアメリ。助けなくて良いの?」


「まあ死にはしないだろ。」


 ジュンのあまりのへっぽこぶりに心配したイサキが聞いてきたがスライムごときでは大けがもしないだろう。もちろんいざと言う時に備えて見張っているし。


「た、倒しました。」


 ジュンがどや顔で報告してきたけどスライムごときの攻撃を受けているようでは先が思いやられる。


「よくやった。次はスライムの攻撃を受けなかったらもっといいぞ。」


 褒めて伸ばすタイプのオレはもちろん余計な事は言わないけどね。


 ボス部屋に来る頃にはジュンもなんとか無傷でスライムを倒せるようになってきた。


「よし!クロエも参戦!」


 ボスのスライムロードはジュン一人では無理と判断したオレはクロエも参戦させた。もちろんオレとイサキは高みの見物さ。


「アメリ。私は剣を使っていいの?」


「だめ。クロエは今まで通り魔法一択さ。」


 本当ならジュンも魔法だけで戦わせたいがジュンは魔法を撃てるレベルまで達していなかった。


「あー。一応言っとくけどボスはスライムロード一匹に二匹のスライムだ。まあそんなに強くないから安心して。二人で力を合わせて倒すと良いよ。」


 オレが二人にアドバイスしているとボス部屋の扉が開いた。二人とも本来は高レベルの手練れだ。緊張して力が出せないと言う事もないだろう。あまり余計な事は言わないほうが良いだろう。必要最低限のアドバイスでとどめて置いた。


 ボス部屋の中央には三匹のスライムがいた。真ん中の大きなスライムがボスのスライムロードだ。懐かしい。かってのオレもこの三匹と戦ったもんだ。


「じゃあ打合せ通りボスのスライムロードは私が、残りのスライムはジュンお願い!」


「おう!」


 事前に打ち合わせしていたのか。やるじゃないか。てんでばらばらに戦っても効率悪いからね。チームワークは大事だよ。


「ファイアーボール!」


 宣言通りクロエがファイアーボールを撃った。しかしファイアーボール一発で倒れるほど弱くないんだよね。ボスのスライムロードさんは。


 お、焦ってる。焦ってる。早く次の魔法を撃たないとな。まあ剣で斬れば簡単なんだけどな。せっかく打合せしたのならジュンに斬らせればよかったのに。あ、言いつけを守らずに剣を抜きやがった。ジュンの方もスライムごときにいつまでも構ってないでスライムロードに早く向かわなきゃ。


 結局のところスライムロードはクロエが斬り伏せた。


「やりました。」


 初めてのボス攻略に興奮したジュンが報告してきた。やったってあんたスライム倒しただけだろ。言わないけどね。


「よくやった。」


 ジュンの拾った魔石を受け取りながらオレは褒めた。


「ごめん。剣を使っちゃった。」


 クロエの方はバツが悪そうだった。


「まあ仕方ないよ。でもジュンもいるんだからジュンに斬らせれば良かったね。」


「うん。魔法使いは後ろにさがるよ。」



 *



 オレ達はボス部屋を抜け地下二階に降りる階段に来た。


「うわー。なんか急に広々とした草原に出たね。」


 階段から周りを見回したイサキが言った。


「うん、地下二階は草木でできたダンジョンなんだ。上から見ると開けて見えるけど、下に降りると背の高い草木に囲まれた立派な迷宮だ。敵はホーンラビットって言うウサギさんなんだけど草でできた壁の中にも潜んでいるから気をつけて。こっからはイサキも参戦して。」


「わかった。それで刀は?」


「刀はなし。剣や刀を使えるのはジュンだけね。イサキとクロエは魔法だけで頑張って。」


「「「おう!」」」


 三人はこぶしを天に突き上げて気合を入れた。


「あのう。それで魔法なんだけど、こんなところで火魔法を撃っても大丈夫なの?」


 イサキの疑問ももっともだ。普通に考えて草っぱらで火を焚いたら火事になるよね。


「あー。それは大丈夫みたい。生木や青草は元々簡単には火が着かないし、ダンジョンは不思議な力で守られてるみたいだしな。」


 実際に過去にオレが何度も撃ったファイアーボールはダンジョンに着火する事はなかった。


「よし!じゃあいよいよ私のファイアーボールの出番って事ね。ウサギさんには悪いけど丸焼けにしちゃうよ。」


 今まで暇を持て余していたイサキはいよいよ出番とあって気合十分だ。


「私のファイアーボールでも通用するかしら。」


 かたやクロエの方はボス戦での苦戦もあって弱気だった。


「ホーンラビットか、魔法が使えたら一発なんだけどね。」


 元魔人のジュンはホーンラビットを知っているみたいだけど、残念ながらあんたは魔法が使えませんから。


 各人がダンジョンの意気込みを語りながら歩いているともう現れやがった。


「みんな止まって!前方にホーンラビット!」


 オレは前方を指さして警告を発した。


「え!何も見えないけど。」


「だから草の壁の中にいるんだよ。イサキ。」


 そう言うとオレは石を拾って草の壁に投げた。


「え?ちょ、ちょっとたんま。」


「たんまはなしだよ。イサキ。ほら怒り狂って出てきたよ。」


 怒り狂うホーンラビットはイサキに向って突進してきた。もちろんイサキは魔法を詠唱する暇などない。けつをまくって逃げ出すのかと思ったら刀を抜きやがった。見事居合抜きでホーンラビットを真っ二つにした。


「ふん。生意気に私に向って来るからよ。」


 そう言って倒したホーンラビットを持ってイサキはオレの所に来た。


「イサキ。あんた今死んだね。」


 ホーンラビットをアイテムボックスに入れながらオレは言った。


「え?なんで。生きてるじゃん。」


「いい。あんたは今ただの魔法使いなんだよ。魔法しか使えないね。弱い弱い魔法使いなんだよ。その弱い魔法使いは刀なんか振り回さないでしょ。」


「た、たしかに。でも緊急の場合は刀使ってもいいんでしょ?」


「まあ緊急の場合はね。オレの言いたいのは緊急事態になった時点でアウトだってこと。あんた達は今、剣士一人魔法使い二人の初心者パーティなんだよ。その初心者パーティの魔法使いが無防備に先頭を歩く?」


「う、そういえば。私いつも前衛だったからいつもの癖で前に出てたわ。」


「そう。そう。魔法使いは後ろにさがった。さがった。」


「はい。はい。」


 オレはイサキを後ろにさがらせてジュンに先頭を歩かせた。


「いい。ジュン。このパーティで剣を使えるのはジュンだけだからジュンが頑張って魔物を斬ってくれないとオレ達全滅するからね。」


「あ、アメリさんは?」


「オレはただの村娘だよ。剣も魔法もできないね。だからオレに攻撃させないようにみんな頑張ってね。」


「「「お、おう!」」」


 ジュン、イサキ、クロエ、オレの順番で歩く事になった。剣士が一人だけのプレッシャーからかジュンは既に剣を抜いている。ちょっと気負わせすぎたかな。


 しばらく歩いてオレはホーンラビットの存在を確認した。しかも二匹もいた。


「今度は二匹いるよ!」


「やっぱり草の中?」


「うん。そうだよ。」


 イサキの問いに前方を指さしてオレは答えた。


「アメリ。今度はいきなり石を投げるのはなしだよ。クロエ。呪文を唱えて。呪文の前倒しだよ。ジュン。さがって。」


 お、イサキの奴。さっきの失敗を踏まえて何か作戦を考えたな。ああいういきなり突進してくるタイプの魔物には呪文の前倒しは必須だな。さすがはイサキ、良く気付いた。しかしあれほど魔法使いは前に出るなと言っておいたのに、ジュンを一番後ろにさがらせるとは。ん!何かクロエに耳打ちしてるな。


「準備オッケーよ。アメリ。追い出して。」


 イサキが手を上げながら言った。


 オレは小石を拾うと草むらの中のホーンラビット二匹に向って思いっきり投げつけた。


 案の定怒り狂った二匹のホーンラビットはイサキとクロエの二人の魔法使いに向って突進してきた。




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