第280話 地獄の海水浴
「た、助けて!あっぷ。あっぷ。」(セナ)
「ぎゃー!冷たい!死ぬ!」(リオ)
「助けて!私、泳げない!」(アーリン)
「あ!クロエが成仏した!」(サオリ)
「・・・・・・・・・・・」(エイミー)
「海は私の得意な領域よ!」(マーム)
「ワシもじゃ!生き返る!」(エイハブ)
オレ達は今王国に帰ってきている。幽霊であるクロエが元の仲間である砂漠の狼のメンツと顔を合わせたくないと言う理由もあったが、当初の目的であった米を始めとする東の大陸の物品を手に入れるルートを開拓できたからである。東の大陸で得た物は物品だけではない。イサキとクロエと言う頼もしい仲間を得られた。特にイサキを仲間にできたのは大きい。武空術と言う空を飛ぶスキル、王国人が誰も知らなかったスキルを教えてもらえるからである。
そういうわけで今日は海に来ている。何しにって?海に来たらやる事は一つだろ。海水浴さ。じゃなくて人目を避けるためさ。だってまだまだ水は冷たいから海には入れないよ。
今の所一瞬でも空中に浮けるのはオレだけだからイサキ師匠とオレが仲間の指導にあたっているんだ。え?浮けるだけのオレがなんで指導しているかって?イサキの言葉の問題もあるけど、「ぱっとしてぐっとおしりに力を入れて。」なんて言われても誰もわからないよね。元々天才肌のイサキは小さい頃から当たり前のようにできたからオレ達がなんでできないかが分からないみたいなんだよね。まあ言うなれば歩けない子供に歩き方を教えるようなもんだ。自分が当たり前のように歩けても他人に歩き方を教えるとなったら難しいだろ。そこで理論派のオレがイサキの言葉を翻訳してわかりやすくみんなに伝えているってわけさ。
ひとしきりオレとイサキ師匠で手取り足取りの指導を行ったがなんとか一瞬でも浮けたのはオレの他はサオリだけだった。
「うーん。なんか今日も進歩がないね。仕方ないね。みんな服を脱いで。」
進歩の無いオレ達に業を煮やしたイサキがまたとんでもない事を言いだした。ぽかぽかの好天の日とは言え裸になるとまだ寒いだろう。
「あのう。ブラとパンツもですか?」
サオリがみんなを代表して聞いてくれた。
「もちろんそうだと言いたいけど、人目もあるからブラとパンツは勘弁してやるわ。」
勘弁してやるってこいつオレ達を裸にして何をしようって言うんだ。人目を避けるために人気の無い海岸に来て正解だったぜ。裸の少女たちが集団でうろうろしていたら大問題だぜ。飢えた男どもに襲われるか下手したら通報されて逮捕されるぜ。
オレ達は嫌々ながら鬼教官の言葉に従って服を脱いだ。でもやっぱり寒い。
「あのう。イサキさん?裸になりましたけど服を脱いだ意味は何ですか?」
オレは代表してみんなが聞きたいことを質問した。
「うん。服が濡れたら気持ち悪いし風邪ひくだろう。だから脱いでもらった。」
「服が濡れたらってどうして濡れるんですか?」
「そりゃ海に落ちたら濡れるだろうね。」
「え!まさか?」
「そのまさかさね。リーダーのアメリから行こうか?」
鬼教官に無理やり拉致られたオレは海の上に連れて行かれた。
「え!ここから落とされたら海に真っ逆さまじゃないの。海の水はまだ冷たいよ。」
「そうね。冷たいよね。だったら落ちずに浜まで飛びなさいよ。」
あ!手を離しやがった。オレは必死に飛んだ。五六メートルも飛んだだろうか。やっぱり駄目だった。力尽きて落ちた。
ザブーン!
目の前が泡で真っ白になった。
「上手い。上手い。その調子よ。」
その調子よじゃねえ。めっちゃ冷たいじゃないか。
「じゃあ次はサオリ。行こうか?」
「ワープ使っても良い?」
「だめ。」
こんな調子で冒頭のシーンに繋がって行った。命からがら砂浜にオレ達は這い上がった。泳げないものはイサキに助けられていた。
「はぁはぁはぁ。なんとか岸にたどり着けたわ。」
「リオ。あんた泳ぐのうまくなったじゃん。」
「泳がないと死んじゃうから必死よ。」
「よし!焚火で暖まろう。」
「お、おう!」
オレはアイテムボックスから薪を取り出すと火を着けた。
「わたし達もあたらせて。」
生き絶え絶えのセナを抱きかかえたサオリが火にあたりにきた。
「ほらよ。しっかりしな。」
イサキが両手に抱きかかえたセナとアーリンを火のそばに置くとクロエの救出に飛んで行った。
「アメリ。マームと船長は元気だよね。」
「うん。あの二人は海が生まれ故郷みたいなもんだからね。」
元々海に漂っていた亡霊のマームと幽霊船の船長の船長は言うなれば海の魔物だ。海は得意領域だ。まさに水を得た魚のように元気に泳いでいた。
「あ!イルカ!」
沖を見ていたサオリが沖を指さして言った。
「まさか魔物じゃないだろうね。」
リオの言う通りこの世界では外で生き物を見たら魔物と疑ってかかった方が良い。
「いや。害は無さそうだよ。イルカ見られてラッキーだよね。」
オレの鑑定でもただのイルカと出ていた。
「あ!もう一頭出た。船長達の方に向って行くよ。」(サオリ)
「ほんとだ。仲間と思ってんのかも。」(リオ)
「船長もマームもイルカも海の生き物だからね(笑)」(オレ)
「わたし達海の妖精を今見てるのよ(笑)」(サオリ)
「ずいぶんと腹黒い妖精ね(笑)」(リオ)
火に当たりながらほっこりとしたオレ達は談笑していた。
オレ達のほっこりした楽しい時間をぶち壊すふとどき物が現れた。イサキだ。
「さ!体もあったまった?二回目行くよ!」
「「「「鬼!」」」」
この地獄の特訓で全員一か月もしないうちに短距離ならなんとか飛べるようになった。
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