第28話 魔法クラス
冒険者アカデミーは二つのクラスに分けられていた。一つは魔法を使えない者のクラス、もう一つはオレ達の入る魔法を使える者のクラスで、人数は18人と12人だった。つまり、オレ達のクラスは12人でオレ達を除けば8人しか魔法を使える者はいないと言う事だった。いかに魔法使いが貴重かわかるというものだ。
体育館で行われた入学式の後、オレ達12人はとある教室に集められていた。ここがこれからオレ達の教室になるわけだ。オレ達パーティ4人は自然とかたまって座っていた。オレはリオ達と雑談をしながら、教室を見回した。オレ達パーティ4人の他にも、4人で固まって話し込んでいるグループがあった。座っている少女二人と立って話している少年二人の少年少女のグループであった。年のころは17、18であろうか。その中の座っている少女の一人と目が合った。
「あら、ずいぶんかわいいお子様たちも受かったのね。」
その少女がオレたちを見て言った。
「お子様はお家でママのオッパイでも飲んでりゃいいのによ。」
「おもらし、しないでよ。」
少年二人が挑発してきた。
「なんだと。」
リオが向かっていきそうになったのを止める。
「リオ。やめときな。」
「あら、一番小さいお子様がボスなのね。」
その声を聞いたオレは無言で立ち上がった。サオリとセナに押さえつけられた。
「おまえら、いっちょ前にやるんか?」
少年の一人が近づいてきた。
「やめときなさいよ。弱い物いじめはみっともないわよ。」
最初に声をかけた少女が少年を制した。
「あら、そっちはメスオークがボスなのね。」
オレは少女の口調をまねて言った。
「なんだと。」
近づいてきていた少年が再び近づいてオレにつかみかかろうとしたが、リオに足を引っかけられて倒れた。
「この野郎。」
倒された少年が起き上がり、今度はリオにつかみかかった。それを合図に、オレとサオリがリオに加勢した。後ろで眺めていた少年の仲間も乱闘に加わってきた。セナが呪文を唱え始めたので、必死で止めさせた。
少年二人を殴り、後ろの少女二人に襲い掛かろうとしたときに、
「やめんか。バカモーン。」
入学試験の時の大声が教室中に響き渡った。オレ達は席に座らされたが、乱闘については責められなかった。大声の主の校長は一人の少女?を残して退席した。
「みなさん。初めまして。わたしはシンディ。これからみなさんのクラスを受け持ちます。よろしくね。」
どう見てもオレよりも小さな少女が挨拶した。ふたたび教室はざわついた。
「うるせえ!静かにしろ!」
先程の校長にも負けず劣らずの大声で、シンディが場を制した。再び教室は水を打ったように静かになった。
「おまえら、わたしの見た目だけで判断したろ?こんなかわいい美少女にクラス担任が務まるかと。わたしが魔物だったら、お前ら全滅してるぞ。わたしはこう見えて30歳だ。人は見かけによらないと言う事をよく肝に銘じておけ。」
オレは久しぶりに人間を鑑定した。
シンディ
魔導士
LV 40
HP B
MP A
スキル 黒魔法 白魔法
たしかに見かけによらない、メアリー師匠なみの能力の持ち主だ。30歳と言うのも本当だろう。
シンディは明日からの授業についてや、学生生活の心構え等を説明した。それで最後にオレ達学生に自己紹介をさせた。
一番手はオレ達にちょっかい出してきたグループの女ボスからであった。
「わたしはイザベル17歳よ。得意技は火魔法ね。聞き分けのないお子様達は火あぶりにしちゃうぞ(笑)。」
取り巻きは笑ったがもちろんオレ達は笑わなかった。
もう一人の少女はローレスと名のった。取り巻きの男たちはニコラにマイクと名のった。四人とも17歳で同じ塾で魔法を習っていたらしかった。この世界にまで塾があるのには驚いたが、それよりもこいつらのエリート意識にむかついた。
オレ達はサオリから順番が回ってきたので、オレが外国人であると説明するとサオリは自分で挨拶した。
「サオリ、13サイデス。ヨロシクオネガイシマース。」
「えー!13歳⁉」「外国人⁉」「かわいい。」
イザベル達がヤジを飛ばした。良くわかってないサオリが手を振って答えた。
次はオレの番だった。
「アメリ。13歳です。魔法も剣も苦手なのでよろしくご指導願います。お兄さん。お姉さんがた。」
「おう、そうやって素直に頼めば教えてやってもいいぜ。」
「そうよ。お子様に礼儀も教えてあげてよ。」
イザベル達がまたヤジを飛ばした。
「セナです。12歳で、魔法も一か月しか習ってないので全然できません。よろしくお願いします。」
次にセナが小さな声で自己紹介した。
「声が小さいよ。」
「え?一か月?嘘をつくな。」
「12歳⁉」
イザベル達以外からも声があがった。ざわついてきたところで最後にこの人の登場である。
「あー。わたしが専門外の魔法をたった一か月でマスターした天才美少女剣士リオ様よ。魔法は余技であくまで専門は剣よ剣。得意技は剣だけど、どうしてもというなら魔法も教えてあげても良くてよ。おじさん。おばさん達。」
「「「なんだと。」」」
リオの挑発にイザベル達が席を立った。オレ達も席を立った。
「やめろー!」
シンディの一喝でオレ達は席に着いた。
「どうもお前らは力が有り余っているみたいだな。気に食わないやつがいるなら、ぶちのめせばいいぞ。お前たちは冒険者の卵だ。喧嘩ぐらいでは止めないぞ。死なない程度ならどんどんやれ。ただし、校舎内での魔法の使用と殺人は絶対にダメだぞ。放課後に校舎裏でやれ。守らないやつはわたしがぶち殺すからな。」
「先生にオレらをぶち殺せるんですか?」
ニコラがヤジを飛ばした。
「何なら、今すぐやってやろうか?」
シンディが威嚇のスキルを使って凄んだ。
「す、すみませんでした。」
ニコラがおびえて謝った。
教室が笑いに包まれた。
「じゃあ、今日の授業はこれまでだ。おまえら気を付けて帰れよ。校舎裏に広い空き地があるからって行くなよ。絶対に行くなよ。」
決闘を勧める教師ってありかよ。そんなん言われたら、逆に決闘できないじゃんって思って帰り支度をしてたら。
「おい。お子様達。ちょっと、面を貸しな。」
ニコラが凄んできた。おいおい。お約束通りかよ。ふりに乗るんかよ。
「お子様って誰の事かしら?」
リオがとぼけて言った。
「お前らじゃ。リオにアメリにサオリにセナ。」
オレ達全員の名前を憶えてくれたんか、ニコラは。案外良いやつかもしれない。
「もう、名前を憶えてくれたんだ。ありがとう。」
オレが答えると。
「お礼を言ってるんじゃねえ。」
少し赤面して答えた。かわいいやつめ。
「と、とにかく、付いて来い。」
こうしてオレ達4人はイザベル達4人に校舎裏に連れ出された。
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