第277話 逃げろ!
「「きゃあー!」」
思わずかわいい悲鳴をあげてしまった。何度経験しても高い所から落ちる瞬間て嫌なものだ。体がふわっとすると言うか血の気が薄れるって言うか。バンジージャンプとか超苦手だ。でもバンジージャンプならまだ良い。安全が保障されているからだ。だがオレとリオのジャンプに安全のためのロープはない。待っているのは死のみだ。
死にそうなのに余裕じゃないかって。そりゃ余裕さ。オレは飛べはしないが浮く事はできるんだぜ。ほんの何秒かだけど。これもイサキ師匠の指導の賜物さ。しかも穴の底にイサキ本体がさぼって、いや体力を温存しているのを見つけたからさ。なにかあってもイサキがフォローしてくれるはず。
オレはわざと大穴まで自然落下した。これでどう見ても穴の底の槍に串刺しになったように見えるだろう。
「「ギャー!」」
もちろん断末魔の悲鳴をあげるのも忘れていないぜ。槍ぶすまの隙間にオレとリオはゆっくりと降り立った。
「ちょっとイサキ。なにさぼってんのよ。」
「さぼってるだなんて人聞きの悪い事言わないでよ。私の代理のイサキちゃん2号が今代わりに一生懸命戦ってるんだから。大体私はあんたらみたいな半不死身の脳筋野郎と違ってデリケートなんだから魔法を受けたらただじゃすまないのよ。死んじゃうのよ。リスクを避けるのは当然でしょ。それにね。もしもの時に奇襲できるようにここに隠れてたんだからね。それよりあんた達こそどうしたのよ。いきなり上から降ってきて。」
もちろんオレ達の会話は敵に気付かれないように超小声でなされていた。オレは槍の穴に飛ばされたいきさつをイサキに話した。
「ふーん。ちょっと厄介ね。アーリンが飛ばされたら死んじゃうんじゃないの。これってリリスの能力かな?」
「うーん。たぶん違うんじゃないかな?でなかったらとっくにアーリン達も飛ばされているでしょ。それにオレとリオが来るのを見計らって飛ばされたから多分この落とし穴みたいな罠なんじゃないかな。上に乗ったら強制的にワープさせられるとか。」
「ふーん。だったら屋根伝いに行くのは危険って事ね。だったらイサキちゃん3号と4号も出してアメリとリオを運ぼうか?あ!2号がやられちゃった。」
イサキと式神であるイサキちゃん2号は意識と感覚を共用しているのでイサキちゃん2号がやられると本体のイサキにその異変はわかるみたいだった。
「あんまりイサキちゃん軍団をいっぺんに出すと魔力切れの心配があるんだろ?もうしばらくここで休んでな。」
「うんそうだけど、そんな裕著な事を言ってる場合なのか。」
「良いんだよ。オレ達3人はもう死んでるんだよ。」
「え?」
オレはイサキに手短に作戦を話した。暴れたがっていたイサキは渋々オレの作戦に従った。
*
私はアーリン。ただ今絶賛戦闘中の戦う美少女よ。穴に落ちた時はマジで死ぬかと思ったわよ。だって穴の底にはびっしりと槍が生えているのよ。咄嗟に傲慢娘が私を掴んでくれたから事なきを得たけど、幽霊なんて串刺しよ。傲慢娘が私でなくて幽霊を選んでたらと思うとぞっとするわ。え!幽霊?幽霊は大丈夫よ。幽霊なんだから槍が刺さったくらいじゃ死なないわよ。脳筋二人組も無事だったみたい。まああの二人も半分不死身みたいなもんだから槍が刺さったくらいじゃ死なないと思うけど(笑)。それで傲慢娘は男女の指示で私と幽霊を屋根の上に降ろしてくれたわ。そこで今戦闘中てわけ。
戦において地の利は大事よ。屋根の上って有利だわ。敵の剣も槍も届かないから安心して魔法が撃てるわ。
「サンダー!」
「ファイアー!」
幽霊と二人で魔法無双状態よ。
「水鉄砲!」
あ、傲慢娘を忘れていたわね。傲慢娘が上空からピンポイントで空襲しているわ。これって脳筋二人がいなくても勝てるんじゃねえ?
「アーリン!今行くぞ!」
男女と脳筋が穴から這い出てこちらに向って来たわ。これで挟み撃ちじゃないの。もはや負ける要素が無いわ。楽勝よと思っていたらとんでもなかった。
まずこちらに向って来た脳筋二人組が消えたわ。どこに行ったと思ったら穴の上に飛ばされたみたいね。
え!また落とされるの?しかも今度は高いよ。
「「きゃあー!」」
二人してかわいい悲鳴をあげて落とされてしまった。
「「ギャー!」」
さらに断末魔の悲鳴までが聞こえた。
え!男女と脳筋が串刺しになっちゃったの?そ、そんな。バカな。あの二人がこんな簡単にやられるなんて。し、死んでないよね?助けに行きたいけど私達もそんな余裕はないわ。敵も屋根によじ登って攻めてき始めたから。
とにかく今は目の前の敵よ。敵を殲滅しないと。私は屋根によじ登って来る敵を斬り払いながらサンダーの呪文を唱えたわ。本当はもっと上位魔法で敵に大打撃を与えたいんだけど、上位魔法は詠唱時間が長くなるから敵を斬り払いながらじゃちょっと無理よね。魔法をずっと撃っているけど半不死身の幽霊どもにはいまいち効果が薄いみたい。やはりサンダー斬りでないとダメか。
そんな事を考えながら戦っていたら今度は傲慢娘がやられたわ。たぶん式神のイサキちゃん2号だと思うからそんなに心配はしていないけど、本体はどこに行ったのよ。大ピンチじゃないの。私と幽霊の二人きりでこんな大軍相手にできないわ。
「さあ、これであんた達二人よ!残ったのは!降参しなさい!私も鬼じゃないんだから降伏した者まで殺しはしないわよ!」
あ、敵の総大将が何か言ってるわ。あいにくだけどイーラム語だから全く分からないわ。大方降伏しろとか言ってるんだろうけど、どうしようかしら。男女に脳筋までやられては、もう私達美少女戦隊もお仕舞だわ。
「マームさん。降参しようか。」
私は幽霊に話しかけた。
「ちょっと待って。アメリから指示が来たわ。」
幽霊が突然独り言をしゃべりだした。傍から見たらそうとしか見えないけれど、マスターと使い魔の間では遠く離れても意思の疎通が図れるらしい。マスターである男女がいつかテレパシーとか言ってたわ。そんな事よりも男女は生きてたんだ。良かった。
「アメリさんは無事なんですか?」
「うん。どうやらリオもイサキも無事らしいよ。それでアメリからの指示を伝えるよ。」
幽霊が男女の作戦を手短に言った。
「えー!逃げろって!」
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