第273話 ブラックファントム2
「二人とも落ち着いて!とりあえずその影の中から出て!」
上空からオレは指示を飛ばすとともに周りを探った。逃げ場はないはずだ。しかしどこにもいなかった。どこに消えた。
しばらく辺りを見渡して、見つけた。
鑑定持ちで良かった。視界で見えなくてもオレには鑑定がある。意外な所に奴は潜んでやがった。ブラックファントムの文字が浮かび上がっていた。
「みんな。動かないで。あ、クロエだけはみんなからそっと離れて。」
「え!なんで?」
クロエは訝し気に答えてみんなから離れた。
「よし!今からリオ並みの超サンダーを撃つから、みんな備えて!」
「「「え!」」」
「超サンダー!」
「「「ぎゃー!」」」
3人の悲鳴がダンジョンの中に響き渡った。さすがはリオ、ぴんぴんしているね。アーリンとマームはのびているか。ちゃんと告知してやったのにだらしない奴らだ。
おっと、肝心のブラックファントムはと言うと、超サンダーを連荘でもらって姿を現してさすがにのびてるな。
「アメリ!チャンスじゃない。下りてとどめを刺そう。」
「いや。イサキ。とどめを刺すのはオレ達じゃないよ。クロエ!剣で首を落として!」
「お、おう!」
オレはイサキに答えると同時にクロエに指示を飛ばした。ブラックファントムにとどめを刺すのはクロエじゃないとダメなんだ。このダンジョンとの因縁を断ち切るにはクロエ自身の手でブラックファントムに復讐しないと。
クロエは剣を上段に構えて走り出した。走る勢いと剣の重さを利用したその一撃はたとえLV1のクロエであっても簡単にブラックファントムの首を跳ね落とした。
「やった!やった!アメリ!みんな!」
クロエは感極まって泣いていた。
「うん。うん。やったね。これでこのダンジョンから出られるよ。」
オレも釣られて泣いてしまった。
ドロップ品は大きな魔石と雷の剣か。雷が苦手の魔物が雷の剣を落とすなんて変な話だが、この剣は魔法の剣を欲しがっていたセナにでもやるか。
「ちょっとアメリ。感動している所に悪いんだけど、どういう事か説明してもらおうかしら。」
そこにはヘロヘロになったアーリンとマームを介抱しているリオがいた。ちょっと、いや大分怒っているな。
「や、ごめん。ごめん。仕方なかったんだよ。敵はリオ達の影の中に潜んでいたんだよ。」
「え!でも私達だって自分の足元ぐらい見たけど。」
「何もいなかったと言いたいんだろ?たぶん影の中に隠れていたんだろうね。オレには通用しないけど、そして回復を図りつつ反撃のチャンスをうかがうつもりだったんだろうな。まあ、ブラックファントムのとっておきの必殺技だよな。」
「必殺技?」
「名付けて影隠れってとこか。」
「影隠れはわかったけど、なんでそれが同士討ちに繋がるの?」
「リオ達もわからなかったように普通は絶対に気付かれないよね?」
「ま、まあ必殺技ってくらいだからね。」
「それは当然ブラックファントムもそう思っているわけよ。だから絶対に気づかれるわけないと思って油断していたわけよ。全力で回復に努めていて防御の事は何にも考えてなかったわけよ。チャンスじゃない?」
「うん。チャンスね。」
「でしょう。だったら撃つでしょう。一番の必殺技を。」
「う、撃つわね。超サンダーを。」
「だからしかたなかったんだよ。」
「うん。しかたなかったんだ。」
「ちょっと待ってください。リオさん。アメリさんの詭弁に騙されたらだめですよ。」
やっとリオを納得させたと思ったら厄介な奴が口を挟んできた。アーリンもオレとリオの超サンダーを何度も受けているうちに耐性が付いてきたのかもう回復してきたみたいだった。
「いくらチャンスだからって味方を巻き添えにして魔法を撃つのは得策でしょうか?おかげでリオさんはともかく二人も戦闘不能ですよ。マームさんなんか半分成仏しかかっていますよ。」
アーリンの言う通りマームは弱点の雷攻撃を受けて変身が解けて幽体になっていた。その幽体も薄れかかっていた。これはちょっとだけやりすぎたかも。
「でも敵も戦闘不能にしたから結果オーライと言う事で・・・・・」
「何が結果オーライよ。あやうく騙されるところだったわ。ありがとう。アーリン。もし敵がぴんぴんしていたら、3人も戦闘不能になった私達は大ピンチだったじゃないの。これは軍法会議物よ。後でサオリ達も含めた会議で言い訳してもらおうじゃないの。」
「そ、そんな。」
後日、サオリ達も含めた会議でオレの処遇は決まった。たしかにやり過ぎだが、これぐらいはこれからも十分あり得る事だと、意外にもサオリが弁護してくれてオレは厳重注意だけですんだ。よかった。
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「アメリ。こんな物が落ちていたよ。」
「これは。」
オレ達王国組の言い争い中に手持無沙汰で辺りを調べていたイサキが拾った物をオレに渡してきた。
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