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第271話 未練

 



「登れないの。これ以上進めないの。アメリ。前と一緒じゃないの。どうして?人間になれたんじゃないの?」


 クロエが振り返ってオレに説明を求めてきた。人間に戻るなんて一言も言ってないんだけどな。


「ああ。どうやら。クロエ。あなた。まだこのダンジョンに未練を残しているね。」


「未練?」


「そう。未練。あなた。黒い魔物に返さないと死んでも死に切れんでしょ。」


 死んでも死に切れんってもう死んでいるんだけど、我ながら変な事を言ってしまった。


「そうだわ。私がクロエとして生まれ変わるためにも黒い魔物は倒さないといけないんだわ。」


 そう言ってクロエはこぶしを握り締めた。よしよし、そう来ないとな。いきなり殺されたので、びびって戦闘不能の腑抜けになっていたらどうしようかと思ってたけど、いらぬ心配みたいだった。


「ところで私の武器はどこ?石弾の杖は。」


 自分が丸腰だと気づいたクロエはうろたえ始めた。クロエ(サリー)の武器は遺体と共に砂漠の狼に渡していた。


「石弾の杖はここにないよ。もっともあってもクロエ、あんたには使えないよ。」


「え!何で?アメリ。」


「クロエ。あんたはLV1になったのよ。」


「え?どういう事?」


「簡単に言うとあんたは生まれ変わって赤ん坊のように無力になったの。その辺の町娘よりも弱くなったのよ。だから当然魔力もほとんどなくなったから、一振りごとに魔力を奪われる魔法の杖なんか使えないわよ。」


 そう言ってオレは鉄の剣を一振り渡した。


「これは?」


「初心者用の片手剣よ。オレが駆け出しの頃に使ってたけど、軽いから初心者でも使いやすいよ。」


「初心者用の片手剣でも今の私にはずっしりと重いわ。とても片手では持てない。今理解したわ。私がとんでもなく弱くなったと言う事を。でもいいの?私みたいな役立たずを仲間にして?」


「安心して。あんたはあっという間に強くなるから。いや、強くならせるから。このオレが。」


 そう言ってオレは自分の胸を叩いた。


「私だってただの村娘だったのがここまで力をつけたのよ。」


 そう言ってマームがクロエの肩を叩いたが、あんたは最初から幽霊ファントムだったじゃないか。まあ、細かい事は置いといてマームはクロエの良い相談役と言うか、姉貴分になれるな。


「黒い魔物退治はオレ達美少女戦隊の仕事だ。クロエ。あんたはオレが全力で守るから付いてきて。」


「おう!」


「お、俺は?」


 そう言えば砂漠の狼のリーダーのアリもいたな。


「さすがのオレも二人は守り切れるか分からないんですけど。」


「いや。自分の事は自分で守るよ。」


「あんたは足手纏いだと言っているんですよ。アメリは。」


 いや。マームさん。そこまでは言ってないんですけど。


「わ、わかった。正直、殺されそうになって怖かったんだ。そう言ってもらえて少し安心しているのも本音だ。みんな。死なないでな。」


 そう言うとアリはオレ達に一礼して階段を寂しそうに登って行った。まあ、これで足手纏いがいなくなったのも事実だ。全力で黒い魔物を倒すぞ。


「よし。イサキとマームで通りを目立つように歩いて。アーリンとクロエはオレと一緒に物陰から二人をつけて。」


 オレは作戦をみんなに言った。


「囮作戦ね。それは良いけど、なんで私とマームなの?」


 若干一人がオレの立てた作戦に不満そうだ。


「何言ってんの。不死身のあんたら二人が囮にならないでどうするのよ。オレとアーリンの命は一つしかないんだぜ。」


「わかりました。私が囮になってみんなのためにこの命を捧げますよ。」


 そう言ったのはイサキでなくて、いつの間にか現れたイサキちゃん2号だった。なんかもっともらしい事言っているけど、そもそもイサキちゃん2号はイサキの別人格が紙に憑依した物だから、燃やされようが斬られようが平気なのよね。こんな時こそ役に立ってもらわないと。この際、イサキちゃん2号に頼もうか。


「頼むよ。2号ちゃん。」


 オレはイサキちゃん2号の手を握ってお願いした。


「アメリさんのお願いだから喜んでするけど、私だって怖い物は恐いんだから。」


 豪放で快活なイサキ本体に対してイサキちゃん2号の方は繊細で大人しかった。これは内緒だけど、オレはイサキちゃん2号のほうが好きだった。


 かたや幽霊のマームは死んでも次の日には復活するだろう。なんせもうすでに死んでいるからね。そう言うわけで不死身?の二人を囮にしての黒い魔物討伐の作戦が始まった。


 あれ?二人は互いの話す言葉が解らないはずだったよね。コンビを組むのにコミュニケーションが取れないのは致命傷だけど、二人とも捨て駒だから、まあ良いか。


 そんな不穏な事を考えていると、二人が何か発見したのか突然立ち止まった。だからと言って本隊のオレ達は物陰から見ているだけだけどね。まあ一応用心のために呪文を唱えておくか。


 あ、イサキちゃん2号が刀を抜いて走り出した。マームは後ろを固めるのか。でもそんなに大声出して突っ込んだら逃げるよ。ファントムキャットがね。ほら逃げ出した。


「あははは。なにやってんのよ。2号。猫じゃないのよ。」


 イサキが笑ってヤジを飛ばした。


「ちょっと、イサキ、ダメだよ。真剣にやっている人を笑っちゃ。」


 そう言ったオレもちょっと笑ってしまった。


「もう!あんたらは高みの見物しているから気楽よね!こっちは命がけなんだから!」


 イサキちゃん2号に叱られてしまった。反省。反省。


 その後も何度か魔物に遭遇したが出てくるのはファントムキャットサンドウルフばかりだった。向って来るサンドウルフはもちろんイサキちゃん2号とマームが斬り伏せた。


 今日はもう出ないのかと思い引き上げようとした時にそいつは突然やって来た。決して油断していたわけではない。囮二人を先行させつつも、鑑定で周りに潜む魔物の警戒は怠らなかったはずだ。それなのにオレの鑑定をかいくぐってそいつは現れた。どこからか来たのではなくて突然目の前に現れたのだ。


「イサキ!」


 突然現れたそいつはイサキの喉元に食いついた。まさか自分達が襲われるとは夢にも思ってなかったオレ達は一瞬反応が遅れた。叫ぶしかできなかった。




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